反骨のセイシ!!
「みなさんっ、挨拶の基本は覚えていますか?D、S、S、ですよ。今日も復唱から始めましょう」
ここは補陀落町立尋常小学校。
子供たちが模範的にホームルームに取り組む中、この物語の主人公、セイシ=ツムグ少年は今日も変わらず先生へ反抗的な態度をとっている。
「先生ぇー。俺たちもう六年生だぜ?そんな簡単なこと、毎日毎日みんなで大声でとかさぁ、馬鹿らししくてやってらんないって」
ホットパンツからすらりと伸びる足を机に乗せ、四つ足のパイプ椅子を斜めに傾けてバランスを取る。ホームルームに全く集中していない。
セイシ少年が大きく仰け反っているために、彼のふわふわ癖毛が後ろのクラスメイトをくすぐり、くしゅん、と可愛らしい音がした。
「セイシ君。そう言われればそうですね。ではやめてしまいますか。序でに悪しき慣習は全部やめましょう。救急のコールも、消火装置の訓練も全部廃止で」
「バカ!先生!そう言うのは、体に染み込むくらい何度も訓練しないと、人間、いざってときには簡単な操作も覚束ないんだぜ!」
「セイシ君。そう言われればそうですね。では挨拶も同じですね。いざというときに上手く出来ないと困りますから」
「ぐぬぬ!気にくわないぜ!」
「ふふ、セイシ、丸め込まれたね」
先ほどクシャミをした可愛らしいクラスメイトがクスクス、こしょこしょとセイシ少年に語りかける。
つられて教室全体が笑いに包まれた。
セイシ少年のこういう、冗長になりがちな日々を飽きさせない行動の数々に、クラスメイトも先生も感謝している面は確かにあった。
気を取り直して、先生と生徒たちは挨拶の基本を唱和する。
「ではみなさん復唱しましょうね、D!」
「「「D!《誰だてめぇ》!」」」
「S!」
「「「S!《知らねぇ》!」」」
「2個目のS!」
「「「S!《死ね》!!」」」
「はい!完璧です!誰だてめぇ、知らねぇ、死ね。挨拶の基本。相手がどんなに肩書きや暴力、頭数によって脅しをかけてきても、この基本を守っていれば寒心ちまうこともなく全力で反撃できます。人間、いざというときは簡単な操作も覚束ないものですからね」
酉歴2×××年!
人口の極端な減少により死刑は廃止。犯罪の極端な厳罰化により懲役は100年を優に超え、しかし刑務所なんかに入れておくような余裕も無いため、犯罪者達を隔離して町を丸々一個作り上げた。
滅びかけた人類は、犯罪者の、その子や孫の代まで延々と労働奉仕を引き継がせることで、なんとか社会を維持している!
ここは地獄の、まさに1丁目!補陀落町!!餓鬼と畜生が血と暴力で互いに合い食む三途の地!!!
三千世界を普く照らす光となれ!カンゼヲン!!