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52.大切な、ラディ

「やめて……!」

「なんだよ、新しい兄貴とはよろしくやってるんだろ?」


 咄嗟にその手から逃れ、ラルに助けを求めようとラディに手を伸す。


「……っ」


 けれど、ベッドの端にいるラディを捕まえるには、どうしてもそこに近づかなければならなかった。


 そのため、ツィロに後ろからベッドの上に押し付けられてしまった。


「嫌! やめて、離して!!」

「俺だって血も繋がっていなければ、戸籍上も兄妹じゃない。何も問題ない」

「問題しかないわよ!! 私はラルと婚約しているのよ!?」


 この人、一体何を考えているの? まさか、侯爵家で、この家の次期当主の妻になる私に乱暴なことをするつもりじゃないわよね……?


 あの日聞いた、サラの声を思い出す。


 ――気持ち悪い……!!


「あーむかつく。本当に世の中って不公平だよな。お前もそう思わないか?」

「離して……っ!」


 思ったことはあるけれど、彼だって伯爵家の嫡男で、恵まれた環境で育ってきたはずだ。前ホルト伯爵は、優しい人だった。


「ホルト伯爵が残してくれたものを潰したのは、全部自分じゃない――!」

「うるさいなぁ。お前に俺の苦労がわかるかよ。突然知らない女が母親になって、そう思っていたら父上に死なれて俺が伯爵? そんなこといきなり言われて、うまくできるわけないだろ」


 だから、キルステン侯爵が力になるために、一年もツィロに色々と教えにきてくれていたのに――!

 この男は何も学ばなかったのだろうか。努力はしたのだろうか?


「お前も昔は可哀想だったよな。実の母親にまったく相手にされず、使用人から嫌がらせを受けていただろう?」

「……知っていたのね」


 あの家の当主のくせに、それを知りつつも、彼は見て見ぬ振りをしていたということか。本当に最低な義兄だった。


「知っていたが、俺に関係ないだろ?」


 私の身体を押さえつけるように上にまたがっているツィロに恐怖を覚えつつ、ラディに手を伸ばす。


 ラル……!


「あ? なんだよ、このくまのぬいぐるみ。お前、まだこんなの持ってたのか。いくつだよ? こんな古くてきたねーもん、捨てちまえよ」

「ちょっと……! やめて! 触らないで!!」


 けれど、私の手が届く前にツィロがひょいとラディを持ち上げた。


「なんだよ? そんなに大事か、こんな古いぬいぐるみが」

「大事なの、お願いだから触らないで!」


 ラルからもらった宝物。辛いときも寂しいときも、いつも一緒にいて話を聞いてくれた私の友達。


 どんなに馬鹿にされても、私がラディの存在に救われてきたことは変わらない。


 だから私の年齢は関係ない。ラディはいくつになっても、一生私の宝物――。


「ふーん。こんなもん、すぐ壊れちまうだけだろ」

「な……っ」


 そう言って、ツィロはラディの腕をぐっと掴むと、ぶちりと引きちぎってベッドの下にぽいっと投げ捨てた。


「もうガキじゃないだろ? あんなくまのぬいぐるみより、大人の女は皆もっといいことをしてるんだぞ? あいつは教えてくれなかったか?」

「…………」


 腕をもがれてぽとりと床に落ちたラディを見つめて、私の中から何かがざわざわと込み上げてくる。


 ツィロが何か言っているけれど、聞こえない。


「本当にいい女になりやがって……」


 スッと、ツィロの息が首にかかり、彼がそこに顔を埋めたのだとわかった。


「大人しくしていれば痛いことはしないから」


 言いながら、滑らせるように脇腹を撫でられ、ぶるぶると身体が震えていることに気がつく。


「怖いのか? 大丈夫、皆していることだから」


 違う。怖くて震えているんじゃない。


 怒りで、だ。


 震えるほど強く拳を握りしめていたことに気づいた瞬間、身体中を巡っていた何かが一気に頭まで上り、そして胸に落ちてきたと思った途端に、身体から溢れ出すのを感じた。


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