49.ラルの希望
「――ありがとうございます。それでは、私に魔導師団の試験を受けるチャンスをお与えいただけますか?」
「魔導師団?」
「はい」
私は、予てから魔導師団に憧れを抱いている。ポールと婚約する前も、婚約が白紙になったときも、魔導師団に入団するための試験を受けるために日々魔法の勉強と練習を重ねてきたのだ。
「ラルフレットと結婚することが決まっているというのに、働きたいと申すか?」
「左様でございます」
陛下は私に問いながら、ラルにも視線を向けた。そしてラルと私が頷くのを確認すると、顎に蓄えている髪の毛と同じ銀色の髭を撫でながら言った。
「ふむ……入団したいのなら、試験など免除で入れてやろうぞ」
下働きならば、確かに大して魔力が強くなくても、コネなどで入ることができる。
けれど、私が望んでいるのはそういうことではない。一人前の魔導師になりたいのだ。
もちろん、そうなるにはまだまだ実力が足りないのは承知しているけれど、魔導師団でもっと魔法を学びたい。
「ありがとうございます。ですが、正式に試験に合格して入団したいのです」
だからその意思を伝えると、陛下は髭を撫でていた手を下ろし、うんと頷いた。
「そうか、わかった。よろしい。ではすぐに手配してやる。頑張るのだぞ」
「はい!」
再び陛下に深く頭を下げると、ふとラルと目が合う。
ラルは「よかったね」と言うように優しく微笑みを浮かべてくれた。
その後、魔導師団の入団試験を受けた私は練習の甲斐あって、無事魔導師団に入団することができた。
ラルも父も魔導師団に入ることを応援してくれたし、これで私は憧れの魔導師に一歩近づくことができたのだ。
「これから頑張るわ」
「エレアはこれまでも十分頑張っていたからね」
魔導師団との手続きを終えた帰り道、仕事が終わったラルと一緒に馬車に揺られながら、私は一年の遅れを取り戻すために頑張らなければと気合いを入れていた。
「でも、僕との結婚の準備もあるから、エレアは本当に忙しくなるよ?」
「そうね。もちろんそっちも疎かにしないわ」
「よかった」
忙しいのはラルだって一緒だし、次期侯爵夫人としての勉強も欠かすつもりはない。もちろん、結婚の準備だって積極的に取り組むわ。
「本当は、フランカ様がもう少しうちにいてくれてもよかったんだけど」
「え?」
当然のように私の隣に座っているラルが呟いた言葉に、私は彼を見上げた。
「そしたらエレアは、もう少し僕と一緒に寝てくれただろ?」
「…………っ」
きゅっと手を握られて、あの日のことを思い出す。
「む、無理よ……! 恥ずかしすぎて……何度もなんて、とても無理……!」
あの日は薄着のラルにずっと抱きしめられていて、彼の体温や筋肉の感触なんかをすごくリアルに感じて、本当にドキドキした。
それにラルがいつも寝ているベッドは、シーツも布団も空気さえもラルの香りがして、すべてをラルに包まれている気がしたのだ。
あんなのが何日も続いたら、私はどうなっていたことか……。
「でも、結婚したら毎日一緒に寝る予定だけどね?」
「……うう、それまでには……、頑張るわ」
一体何を頑張るのだと、自分で自分に突っ込んでいたら、ラルもクスッと笑った。
「冗談だよ。頑張らなくていい。嫌ならこれまで通り、結婚後も寝室は別でもいいよ」
そして、ラルは相変わらず私の気持ちを尊重するようにそう言った。
……本当に優しいのね。
「ううん。結婚したら、同じ部屋で寝るわ……」
でも、そう言われると余計頑張りたくなってしまうのだ。
……もしかして、計算だったりしないわよね?
「本当? 一緒なのは部屋だけで、ベッドは別だったりする?」
「……しないわ。同じベッドで寝る。……私が、そうしたいの……」
恥ずかしい気持ちをぐっと抑えてちゃんとそう約束すると、ラルはとても嬉しそうにぱぁっと顔をほころばせて可愛く笑った。
「嬉しい。すごく嬉しいよ、エレア」
「うん……」
私は、ラルのその笑顔にとても弱い。
ぎゅっと私を抱きしめて額に唇を寄せるラルに、くすぐったいような気持ちを覚える。
「ありがとう、一生大切にするから」
「……っ」
そして、突然男らしくしっとりとした声で囁かれるのにも弱いって……わかっていてやっているのだろうか――。




