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47.一夜明けて

「おはよう、エレア」

「……ラル?」


 翌朝、ラルのやわらかな声で目を覚ますと、目の前に寝間着姿で無防備な格好のラルがいた。

 いつものような可愛い笑顔で私の額に口づけると、「寝起きのエレアも可愛い」と呟かれて、そのままその胸の中に抱きしめられる。


「…………っ!!」


 そうだ、私たちは昨夜、同じベッドで眠りに就いたのだった。


 ラルは「何もしないから安心しておやすみ」と言っていたけれど、ぎゅっと抱きしめられていたからドキドキして全然眠れなくて。


 朝方にやっとうとうとし始めたと思ったら、すぐに朝を迎えてしまったらしい。


 ……ああ、全然眠れなかった。


「エレアは今のうちに部屋に戻ったほうがいいかもね。メアリが来る前に」

「そうね、起こしてくれてありがとう」


 メアリが私を起こしにきて、そこにフランカ王女がいるのがばれたら大騒ぎになるだろう。

 寝坊してしまいそうだった私を起こしてくれたラルに感謝しながらベッドから出ようとしたら、くいっとラルに手を引かれた。


「まだ一緒にいたいけど……すごく幸せな夜だったよ」

「……っ」


 朝から、なんて甘いのだろう……。


 後ろからハグされて、耳に唇を当てながらしゃべるラルの声が、やけに色っぽく聞こえるのは、彼も寝起きだから……?


「私もよ、ラル……。それじゃあ、私はフランカ様を起こしにいくから」

「うん、また後でね」


 名残惜しげに身体を離してくれたラルの腕から抜け出た私は、静かにその部屋を出て隣にある自分の部屋へと戻った。


 心臓が飛び出すのではないかと思うほどドキドキ鳴っていて、顔も耳もすごく熱い。


 この状態でフランカ様にお会いできるかしら……。


 そんなことを考えながら、深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けるよう努めた。


 食事はラルがうまいこと言ってくれたおかげで、今朝も私の部屋に二人分運ばれた。


「エレア様、急に食欲が出てきたのですね」

「ええ、そうなの」


 用意された二人分の朝食が今日もすっかりなくなっていることに驚きながら、メアリは朝の支度を手伝ってくれた。


 私がそうしている間、フランカ様にはベッドの中に身を潜めてもらっている。


「メアリ、私は今日も勉強に集中したいから、用がない限り誰も部屋に入れないでくれる?」

「かしこまりました。ですが、あまりご無理なさいませんように」

「ええ、ありがとう」


 フランカ様を連れて出掛けるのも、お一人で残していくのも、どちらもリスクが高い。なので、今日はフランカ様に一日付き合ってこの部屋で過ごそうと思う。


 フランカ様がいつまでここにいるつもりなのかわからないけれど、長引くようならもう少し考えなければならないと思う。


 それに、今夜も私はラルの部屋で寝るのだろうか……? 毎日続いたら、寝不足で倒れてしまうかも……。


 ソファにゆったり座って昨日の本の続きを読んでいるフランカ様を見つめながらそんなことを考えていたら、思いの外早くその悩みは解消されることになった。



『フランカ、フランカ……!』


 フランカ様の魔道具から、突然陛下の声が聞こえたのだ。


「あっ、お父様だわ!」


 フランカ様は読んでいた本をローテーブルの上に置いて、通信用の水晶を取り出した。


「はい、お父様」

『おお、フランカ……! 無事だな? 一体どこにいるのだ!』


 フランカ様の手の上に乗った水晶玉から、陛下の切羽詰まったような声が聞こえる。


「言わないわ。手紙にも書いたでしょう? お父様がジャックとの結婚を認めてくれるまで、私は帰らないから」


 ジャック、というのがフランカ様の想い人の男性なのだろう。

 フランカ様のはっきりとした口調に、私は緊張感を覚えながら陛下の次の言葉を待つ。


 もし、陛下が怒ってしまったら……。


 そしたら、国家間の問題になってしまうかもしれない――。


『わかった。私が悪かった。もう一度話を聞こう。どうか帰ってきてくれないか、愛しのフランカ』


 けれど私の心配をよそに、陛下はとても弱々しい声でそう言った。


「私と彼の結婚、認めてくれる?」

『うむ……もう一度その青年を連れてくるといい。前向きに話を聞く』

「前向きに……本当に本当ね?」

『約束する。ただし、そのためには相手の話を聞く必要がある。それからでなければ結婚の許可は出せん。わかってくれるな?』

「わかったわ。彼を連れて行く」


 頷いたフランカ様に、陛下が安堵の息をついたのが聞こえた。


 きっと陛下も、本当はすぐに連絡したかったはずだろうけど、一晩葛藤していたのだろう。

 もしかしたらろくに寝ていないのではないかと、声の調子から窺えた。


 フランカ様がいなくなって、どれだけ心配されていたのかがとてもよくわかった。


 でも、本当によかった。ここからはお相手の方次第というところもあるかもしれないけれど、フランカ様はジャック様のことを王女の結婚相手として申し分ない方だとおっしゃっていたし、陛下が前向きに話を聞いてくれるのだから、うまくいくかもしれない。


「ありがとう、エレア。世話になったわね」

「いいえ、よかったですね」


 陛下との通信が切れたので、フランカ様を侯爵家の馬車でお城までお送りするため、私たちは支度を始めた。


 もうばれてもいいからと、メアリたち侍女を呼んで支度を手伝ってもらおうと思ったら、彼女たちはフランカ様を見てとても驚いていた。


 ……まぁ、当然の反応よね。




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