42.フランカ王女の企み1
その日、私はお茶会に出席するため、王宮へ招待されていた。
私にお茶会の招待状をくれたのは、フランカ王女。
そう、私がずっと、ラルと婚約するのではないかと思っていた、あの王女様だ。
どうやらそれは本当に単なる噂に過ぎなかったということは、先日のフランカ様の誕生日パーティーでよくわかった。
それでも、王女様と親しくなく、お茶会をするような間柄でもない私に突然お茶会の招待状が届いたことに、戸惑いを隠せない。
それに残念ながら、ラルは仕事だ。
仕事じゃないとしても、招待されているのは私だけだからラルは一緒に行けなかっただろうけど。
ともかく、私は今とても心細いのだ。
けれど、王女からの招待をお断りできるはずもなく、こうして一人、おしゃれをして侯爵家の馬車に揺られながら王宮へ向かっているわけだ。
「――本日はご招待いただき、誠にありがとうございます」
王宮内にある中庭に設置されたガゼボに通された私は、落ち着かない心臓を抑えながら静かに王女を待っていた。
私が着いて間もなく、侍女と一緒に現れたフランカ様は今日も銀色に輝くサラサラの長い髪をたなびかせ、キラキラ輝くようなオーラを放っていた。
「どうぞ座って」
「はい」
立上がって頭を下げていた私は、フランカ様の許可を得て再び椅子に腰を下ろす。
……それにしても、本当に綺麗な王女様だわ……。
私よりひとつ年下だけど、とてもそうは見えない。
大人びていて、何を考えているのか読めない芯のある表情に、お顔も小さくて、肌が白くて。まつげが長くて目が大きくて艶のある小さな唇が可愛らしくて……
「貴女、ラルフレットと婚約したそうね」
「はい……っ!」
そんなフランカ様にみとれてしまっていた私は、突然ラルとのことを聞かれて弾かれるように返事をした。
いつの間にか、お茶を用意してくれた侍女は少し離れたところに下がっている。
それにしても、いきなりそんなことを聞いてくるなんて、やっぱりフランカ様はラルのことが好きだったのだろうか。
そして、私とラルの婚約を解消させたい……とか?
「私もそろそろ婚約者を決めなければならないの」
「はい……」
それはそうでしょう。フランカ様はもう十七歳だもの。王女であることを考えたら、まだ婚約者が決まっていないのは遅いくらいなのだ。
「でも……私にはずっと好きだった人がいるの」
「まぁ……」
先ほどから淡々とした口調で語っていたフランカ様だけど、その言葉を口にすると、ひっそりと声量を落として少し顔を寄せてきた。
私も自然と顔を寄せ、息を呑む。
きっとこの話は聞かれたくないのだろう。それで侍女を離れた場所に控えさせたのね。
でも、聞かれると困る相手だということは……やっぱり、ラルなの……?
「ああ、先に言っておくけど、ラルフレットじゃないわよ」
「えっ、は、はい……!」
不安が顔に出てしまっていたのだろうか。早々に否定してくれたフランカ様に、ほっと胸を撫で下ろす。
「相手は隣国の次期侯爵なのだけど……父が他国に嫁ぐことを許してくれないの」
改めて、声を抑えてそう囁いたフランカ様。
なるほど……。相手は隣国の貴族なのね。
国王がフランカ様のことをとても可愛がっていることは、私でも知っている。
だから未だに婚約者が決まっていないのは納得できる。
でもまさか、フランカ様が隣国の貴族に恋をしてしまったとなると……、国王としてはとても複雑な気分なのだろうなと想像できる。
「それで、貴女に頼みたいのだけど」
「なんでしょうか」
そこで、フランカ様がまっすぐに私を見つめた。
その大きくて美しい青い瞳に、なんとなく緊張感を覚える。
「彼と駆け落ちするから、協力してほしいの」
ひっそりと、だけどはっきりと。
フランカ様の可愛らしい唇から発せられた言葉を聞いて、息を詰まらせた。




