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38.女同士の話し合い1

 王宮に仕える優秀な薬師が調合してくれた傷薬を塗り続けたおかげで、ラルの腕の怪我はすっかりよくなった。


 仕事にも復帰して、再び王宮に通うようになったラルと、また日中は一緒にいられなくなってしまうのは少し寂しいけれど、私も優秀な魔導師になれるよう、魔法の訓練に力を入れようと思う。


 あと、結婚式の準備もね。



「エレア様、お客様がお見えなのですが……」

「え? どなた?」


 そんなある日、昼食を終えて魔法の練習をしに庭に出ていた私を、メアリが呼びにきた。


「クリール男爵のご令嬢、フローラ様という方なのですが……お約束されていないのでしたら日を改めていただきましょうか?」

「……いえ、大丈夫よ。応接室に通してちょうだい」

「かしこまりました」


 フローラ嬢?


 ……って、もしかして、あのフローラさん?


 クリール男爵家に知り合いはいない。それに、フローラという名前で思い当たる人物は一人だけだ。


 けれど、彼女が一体私に何の用だろうか。


 ポールのことで用があるのかしら……?


 ポールと結婚したいのなら私に伺いを立てる必要はないわよと伝えてあげたいけど、残念ながら先日ポールの口から、もうフローラさんとは会っていないと聞いている。

 それに、やはり私はあの日フローラさんがラルに会いにきたことのほうが、よっぽど気になっている。


 けれど今日は私に用があるらしい……。

 一体なんだろうかと頭を悩ませつつも、一旦部屋に戻って身なりを整え、とりあえず会ってみようと、彼女を通してもらった応接室に私も向かった。




「――エレア様! 伺いも立てずに突然の訪問、誠に申し訳ございません」


 応接室に入ると、フローラさんは私を見てすぐにソファから立ち上がり、深く頭を下げた。


 なんとなく、それが意外だった。彼女を見たのはポールとの浮気現場と、ラルを呼び出したあの二回だけだけど、とても気が強そうなイメージがあった。

 だから、開口一番謝罪を口にし、こんなに深く頭を下げてくるなんて……。


「いいえ、それは構いませんが、一体どうされたのですか?」


 少し圧倒されつつも、ひとまず彼女に座るよう声をかけ、私も向かいのソファに腰を下ろす。


「……寛大なお心、感謝いたします。それから、自己紹介が遅れましたが、私はクリール男爵家の一人娘、フローラでございます。お見知りおきくださいませ」

「エレア……ハインです」


 一瞬、キルステンと名乗りそうになってしまった。

 けれど、私は今はハイン伯爵家に籍を置いている。


 フローラさんが私の事情をどこまで知っているのかはわからないけれど、彼女は私の名前を聞いて少しだけ目を見開いた。


 お茶を用意してくれた使用人に下がっていいと声をかけ、部屋には私とフローラさんの二人きりになる。


 攻撃的には見えないし、きっとそのほうが彼女も話しやすいだろうと判断したのだ。


「……キルステン家からは籍を抜いたのね。では、ラルフレット様と婚約したというのは、本当なのでしょうね」

「はい」


 二人きりになると、フローラさんの口調が先ほどより少し砕けたものになった。


 それでも私も毅然とした態度で答えると、彼女は自嘲するようにふっと笑みを浮かべて真っ赤な紅を塗った唇を開く。


「私、貴女に謝りたいの」

「え?」

「あのときはごめんなさい。ポール(あの男)にはまったく興味なかったのだけど、ラルフレット様のためにと思って」

「ラルのため……?」


 長くて美しい黒髪を後ろに払いながら、更に砕けた口調で語るフローラさんだけど、なんというかそのほうが彼女らしい。嘘や偽りが感じられないからか、不思議と嫌な気がしない。


「ラルフレット様、あの男が他の女性と浮気していることに気づいて、証拠を掴もうとしていたから」

「……えっ」

「貴女とあの男の婚約を白紙に戻したいのだろうなと思ったから、それなら貴女に直接見てもらうのが一番早いと思ったの」

「それじゃあ、もしかしてわざとポール様を誘ったの?」

「ええ」


 ……うそ。好きでもない相手と、そこまでするの?


 確かに、あの時のフローラさんの口調にはとても余裕を感じたけれど。だからって、どうしてそんなことをしたのだろうか。ラルのためって、どういうこと?


「でも、貴女は本当に危ない目に遭っていたかもしれないのよ?」


 そうよ、私があの場に現れない可能性だってあったのだ。それに、彼女は実際にベッドの上でポールに触れられていたし、キスだってしていたと思う……。


「それでも、ラルフレット様が喜んでくださるなら、別にいいと思ったの。でも、彼に怒られてしまったわ。貴女のことを傷つけたら許さないって。だから、それは本当にごめんなさい」

「……そんな」


 謝罪の言葉を口にしながら、彼女はもう一度深く頭を下げた。



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