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33.もっと一緒にいたい

 ハイン家の養子入りは問題なく進み、私は無事、エレア・ハインとなった。


 すると、ラルは速やかに教会に婚約の申し入れを行った。

 必要書類を提出して、受理されれば婚約は完了する。

 私たちの結婚は、私の十八歳の誕生日――つまり、四ヶ月後に決まった。



「――ああ、楽しみだ。これで僕は正式にエレアの兄ではなく、婚約者だね」


 夕食の後、ラルはいつものように私の部屋を訪れて私の隣に座ると、とても嬉しそうにそう言った。


「そうね、なんだかまだ実感が湧かないけれど……」


 ラルが仕事を休んでいるおかげで、ラルとの婚約は思ってた以上にスムーズに進んだ。ハイン家での挨拶も、教会での手続きも、こんなに一気に進むとは思っていなかったから、まだ少し気持ちが追い付いていない。


「実感なんてすぐに湧くよ。もちろん、これからは兄としてではなく、婚約者として接するから、そのつもりでいてね?」

「え、ええ……」


 婚約者として接するって、具体的にどういうことだろう……?


 ポールとはとくに婚約者らしいことをしなかったと思うし、ラルとは元々普通の兄妹より親しい関係だったように思う。


 婚約者というのは具体的にどのようなことをするのかよく知らないけれど……とりあえずこれ以上親しいことがあったら、私の身が持たないかもしれない……。


「結婚式のドレスのデザインも、今度一緒に決めようね」

「ええ」

「当日身につける装飾品も、一緒に選ぼう」

「ありがとう」


 隣に座っているラルとの距離が近くて、それだけで私はドキドキしてしまう。

 ラルは平気な様子でいつも通りの可愛い笑顔を浮かべているから、私が変に意識しすぎなのだろうかと思ってしまう……。


「……どうしたの、エレア」

 だからつい、顔を逸らしてラルとの距離を取るようにソファの端へおしりを滑らせたけど、顔を覗き込むようにしてきたラルと、余計に距離が縮んでしまった。


「ううん、なんでもないの……」


 しかも、これ以上逃げ場がなくなってしまった。

 だからなんとか笑顔を作って、平静を装う。


「そう? 外出が続いて少し疲れているのかな。今日はもうゆっくりおやすみ」

「ええ、そうするわ」


 ラルとこうして一緒にいられるのはとても嬉しいけれど、やっぱりこんなに近い距離で二人きりはドキドキしてしまう。


 とくに、この間のようにキスしそうな雰囲気になったらどうしようと思うと、余計意識して緊張してしまう。


「……本当は一緒に寝たいけどね」

「…………え?」


 ラルはもう自分の部屋に戻るだろうと思って気を抜いた瞬間――、耳元で静かにそう囁かれて、私の身体はピタリと硬直する。


「それは……、さすがに……」


 確かに、結婚すればそうなるかもしれない。それはわかっている。

 でもまだ結婚していないし、そもそもつい先日までラルのことは兄だと思っていたのだ。いくらずっと好きだった人でも、まだ完全に気持ちが切り替わったわけではない。


 だから、ラルのそんな言葉に私の身体はかぁっと熱くなっていく。


「僕はエレアと一緒にいたいだけだけど……何を想像したのかな?」

「え……っ!?」


 そしたら、ラルはきょとんとした顔をした後、すぐにふっと息を漏らして笑った。

 深い意味なんてなかったの? やっぱり私一人で意識し過ぎなの!?


「だ、だって……、好きな人と一緒に寝るなんて、そんなの緊張するに決まってるわよ……。ラルはそれくらい全然平気なのかもしれないけど……」


 赤くなっているだろう顔を俯けて、一生懸命この想いを口にする。

 そしたらラルは慌てたように「ごめんごめん」と口にして右手を私の頭に伸し、ぎゅっとその胸に抱き寄せた。


「ごめんね。エレアがあまりに可愛いからついからかってしまったけど、僕だって全然平気なわけじゃないんだよ?」

「……」


 そう言いながら穏やかに私の頭を撫でているラルの心臓は、その落ち着きのある声とは異なってドキドキと大きく高鳴っていた。


「ラル……」

「僕もエレアのことが大好きだから、一緒にいたらとても緊張する。でも、それ以上に一緒にいたいという気持ちが大きいから、早く寝室が一緒になればいいと思ってるのも本当だよ。もちろん、エレアが嫌なら僕はいつまでだって待てるけど」


 ラルの鼓動を聞きながら、同時に自分の鼓動も高鳴っているのがわかる。でも、あんなに余裕そうに見えたのに、ラルも私と同じように緊張していたなんて、少し意外で、とても嬉しい。


「あんなに想っていたエレアと結婚できるんだ。これ以上の幸せはない。本当に、夢のようだよ」


 頭の上で、ラルの優しい声が聞こえる。

 夢のように幸せなのは、私のほうだわ……。

 そう思ったけれど、優しく私の頭を撫でてくれるラルの温もりから、本当にそう思ってくれているのが伝わってきた。


「私のほうが信じられないくらい嬉しいけどね」

「いや、僕のほうが嬉しいよ……というか、あんまり可愛いことを言わないでくれる? 父上には内緒で、エレアを僕の部屋に連れ込みたくなってしまうから」

「……ラル」


 また、私をからかってる?

 まんまとドキドキさせられてしまうけど、そんなことをラルに言われたら、私だって嬉しい。


「――でも、また明日の朝ね。おやすみ、エレア」

「おやすみなさい、ラル」


 けれどラルは最後に私の額に口づけて、やっぱり余裕に見える笑顔を残して部屋を出ていった。

 その日の夜は、ラルのことを考えながら、ドキドキと高鳴って落ち着かない胸の鼓動を抑えるようにラディをぎゅっと抱きしめて眠りに就いた。



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