表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/54

30.七年越しの想い

 ラルがこのあと何を言おうとしてくれたのかは、もうわかる。


 でも、今日は私に言わせて?


 ラルからの想いはもう聞いているから。

 今度は私がこの気持ちを貴方に伝える番だから。


 静かに私の言葉を待ってくれているけれど、ラルからは緊張しているのが伝わってくる。


 でも、私だって今までにないくらい緊張している。


 ラルの気持ちは聞いているし、あれは冗談なんかじゃなくて、本気で言ってくれたのだって、今はよくわかる。


 それでも未だに少しだけ、自信がない。

 ラルの言葉を疑っているわけではなくて、本当に私でいいのだろうかと……不安な気持ちが、残っている。


 きっと私が応えたら、その瞬間に私たちはもう〝兄妹〟ではなくなってしまうだろう。


 それでも、私は言わなくちゃ。


 もう十分、私はラルを待たせてしまっているのだから。


「ラルが私に結婚しようって言ってくれて、本当に嬉しかった」

「うん」


 震えそうになってしまう唇を開いて、ゆっくり言葉を紡ぐ。


 ラルになんと言おうか、ずっと考えていた。何度も心の中で繰り返して、練習してきたはずなのに……。

 その瞬間を迎えると、結局考えてきた言葉は全部消えて、頭の中が真っ白になる。


「……私はラルにも、お父様にも、お母様にも、十分すぎるくらいよくしてもらってきたから、これからはそのご恩を返さなければと思っていたの」

「うん」


 そのせいで、何を言いたいのか、自分でもよくわからなくなっているけど、ラルは静かに私の話を聞いてくれている。


「だから、お父様が決めた相手と結婚して、早く安心してもらいたかった。でも……でもね、やっぱり心の奥では、ずっと思っていることがあったの」


 とうとう、手が震えた。それをラルに悟られまいと、ぎゅっと握りしめて、一度唇を強く結ぶ。


「エレア、無理に言わなくてもいいよ」


 けれど、ラルは当然のようにそれに気づいてしまった。


 震える私に、心配そうに手を伸してくれたけど、その手が私に触れる前に、私は強く声を絞り出した。


「待って――」

「……」


 その途端、頭に触れようとしていたラルの手が、ピタリと止まる。


 ――ここでラルの優しさに甘えては駄目。

 頑張るのよ、エレア。怖じ気づいてどうするの。最後まで自分の気持ちを伝えるのよ。


「私は……私には、ずっと心に想っている人がいた。その人は私を助けてくれたヒーローで、憧れの人で……私の兄になった人」


 自分がちゃんと想いを伝えられているのか自信がなかった。


 けれど、それでも目を逸らさずに、まっすぐラルを見据えてはっきり言葉にすると、彼のサファイアのような瞳が小さく見開かれていった。


「一番近くにいて、一番好きで……。でも好きになっちゃいけない人だった。だから、その人に……貴方に、「結婚しよう」って言ってもらえて、信じられないくらい嬉しかった……私には、これ以上ないくらいの望みよ」


 目頭が熱くなる。

 気を抜いたら涙がこぼれてしまいそうだけど、泣いちゃ駄目。


「……でももし、本当に貴方もそれを望んでくれているのなら……許されるのなら、私は貴方と結婚したい。貴方とずっと、一緒にいたい。大好きよ、ラル。世界で一番、大好き」


 最後の言葉を紡いだら、気持ちを押し出すように、とうとう一筋の涙が頰を伝い落ちた。


 ああ……。本当は私も、ずっとこの言葉を言いたかったんだ。

 ラルにこの言葉を伝えたくて、たまらなかったんだ。


 口にしてみて、初めてわかった。

 今までずっと、好きになってはいけない人だと言い聞かせてきたその人に、こうして直接この気持ちを伝えられる日が来るなんて。


 口にした瞬間、ずっとかけられていた呪縛が解けるように、スッと気持ちが楽になった。


 こぼれた涙を拭おうと持ち上げた手は、素早く伸びてきたラルの右手に掴まれて、そのまま力強く引き寄せられる。


「……ラル」

「ありがとう、エレア、ありがとう……」


 片腕だけなのに、ラルはとても力強い。


 それに、ラルの声が小さく震えている。


 しっかり抱きしめられているからラルの顔は見えないけど、もしかしたら彼も泣いているのかもしれない。


 その声音を聞くだけで、ラルの想いがどれほどのものか伝わってくる。


 きっと私が思っていたよりずっと、ラルは私のことを想ってくれていたのだと思う。


 五年間……いいえ、七年間の彼の想いがひしひしと伝わってきて、胸の奥がぎゅうっと締めつけられる。


 ラルが泣いているのかと思ったら、私も一層泣けてきた。


「こちらこそ……いつもありがとう、ラル」


 そんなとても愛おしい人を、私も両手で力いっぱい抱き返して、これが現実であるということを彼の体温を通して実感した。



 私もラルも、もう何も恐れることはない。


 これからは自分の気持ちに堂々と生きていいのだ。


 ラルのことが好きだと、声に出していいのだ――。


「……エレア、泣いてるの?」

「ラルだって……」


 強く抱き合っていた身体を少しだけ離すと、至近距離でラルが私の顔を覗き込んで言った。


 でもそんなラルの瞳にも、やっぱり涙が溜まっていた。


「悲しくて泣いたことはないんだけどね。嬉しくて、こんなに感情が溢れてしまうことがあるなんて、知らなかった」

「……私もよ」


 涙を溢れさせながら、私たちは笑いあった。


 はたから見たら、たぶんとてもおかしな光景だと思う。


 けれどその涙はあたたかくて、優しくて、お互いのことを「好きだ」という気持ちで溢れていた。



「これからもエレアは僕とずっと一緒だよ」



 五年前と同じラルの温もりの中で。あのときと違い、これからはラルの妹ではなく婚約者になれる喜びを、深く深く、胸に刻んだ。






本編はこれにて完結とさせていただきます。

一周年作品、お付き合いいただき、ありがとうございます!


ラル、エレア、おめでとうー!と思って頂けましたら、ぜひぜひ祝福の評価をポチッと押して頂けると嬉しいです(*´˘`*)


続編開始しました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ