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29.私の気持ち

 ラルからの愛情が家族以上のものであるのは間違いないと、伝わってくる。


 それは「好き」や「愛してる」の言葉なんてなくても、わかるほどに――。


「……昔を思い出すね。エレアはいつも花を眺めていた」

「そうね……」


 あの頃、一人で庭の花を眺めていた私の救いは、ラルだった。


「ごめん、昔のことはあまり思い出したくないよね」

「ううん。そんなことないわ」


 私の表情が暗くなってしまったのを見て、心配そうにラルが言う。


「私も、よくラルと出会った頃のことを思い出しているのよ」


 私は、どうしてフローラさんと二人でいなくなったラルのことをあんなに気にしてしまったのだろう。

 どうしてこんなに優しい人のことを、少しでも疑ってしまったのだろう。


 ラルが、私が傷つくようなことをするはずがないのに。


「……ラル、ごめんなさい」

「……どうして急に謝るの?」


 私の謝罪の言葉に、不安そうに眉尻を下げて私を見つめるラル。


「私、あの夜会で貴方がフローラさんと二人きりで話をしに行ったこと、ずっと気になっていたの」

「え――?」

「ラルが、私が傷つくようなことをするはずがないのに……」


 ポールのことがあったとしても、ラルの言葉を、気持ちを、信じ切れていなかった自分を殴りたい。


 ラルはちゃんと気持ちを伝えてくれていたじゃない。


「すまない、エレアを不安にさせてしまったんだね。でも僕は、誓って彼女とは何もない。エレアを悲しませるようなことは、絶対にしない」


 はっきりと、まっすぐ私の瞳を見つめるラルはとても真剣な顔をしていた。嘘なんてついてないって、わかる。


「もちろん、信じるわ。一人で勝手に不安になって、ごめんなさい」

「……いや、よかった」

「……?」

「急に謝るから、僕は今から振られるのかと思ったよ」

「ラル……」


 小さく笑いながらそんなことを口にしたラルは、その笑顔とは裏腹に少し悲しそうにも見えた。


 そうよ……私はまだラルの気持ちに応えていなかったじゃない。


「でもエレアが不安になったのは、僕のことを少しは意識してくれているから?」

「え?」

「それはもしかして、やきもち?」


 そうだったら嬉しいかな。と付け足すラルに、胸の奥がぎゅっと疼く。


「そう、そうね。私はフローラさんにやきもちを焼いていたんだわ」


 だから正直に答えると、ラルは意外そうにその丸い目を見開いた。


「――本当に?」

「ええ……。ギドさんといながらも、ずっと貴方のことを考えてしまっていたもの……」


 ギドさんとのダンスに集中しようと思って彼を見つめていたけど、私の頭の中はやっぱりラルでいっぱいだった。


「なんだ……そうなんだ。僕は、自分でエレアをギドに預けておきながら、楽しそうに踊っている二人に嫉妬していたよ」

「え――?」


 そしたら、想像もしていなかったラルの言葉が帰ってきて、今度は私から高い声が漏れた。


「だって彼は〝兄〟ではないからね。もしかしたら、エレアはギドのことが好きなのかもしれないと思って――」

「違うわ!」


 思わず、少し大きな声が出た。だってそれは違うから。私が好きなのは、ずっとラルだけだから。


 けれど、この想いは口にしてはいけないと思っていたのだ。ずっと、胸の奥にしまっていたのだ。


 でも、だからあの夜会の後からラルは元気がなかったの?


 それなら、ちゃんと伝えなきゃ。

 いつも一人で苦しんでいる、目の前の愛しい人に、私はちゃんと自分の気持ちを伝えなければ――。


「ラルは、いつもいつも、私のことばかり気にかけてくれているのよね……。自分のことは二の次で、本当に優しい兄だと思っていたけれど……」


 でもそれは、私のことが好きだったからなのよね?


 そんなこと、あの頃の私に教えたらなんて言うかしら。


 きっと信じてもらえないわね。


「僕はエレアが一番大切だ。今までも、これからも。エレアが幸せなら、僕も幸せだ。だから、兄としてでもエレアの笑顔を守ってやりたいと思っていたんだ。だが、本当は――」

「ラル、貴方に話したいことがあるの」


 強い口調で彼の言葉に声を被せた私に、ラルは静かに頷いてくれた。




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