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27.ピクニックへ

 先日の夜会以来、ラルに元気がない。


 あの日、ラルはフローラさんと姿を消した。


 そして私は、ラルの代わりに一緒にいてくれたギドさんと少しお話をして、一曲踊った。


 踊り終わる頃にはラルが戻ってきていたから、フローラさんとの話が案外早く終わったことに、私は内心安堵していた。


 ラルはギドさんに一言だけお礼を言うと、右手で私の手を掴み、少し強引に馬車へと向かった。


 帰るのだろうということは理解できたけど、何かラルの様子がおかしいということにはすぐ気がついた。


 それから、ラルの胸元にフローラさんの唇と同じ色の紅が付いていることにも、私は気づいた。


 その瞬間、ザワりと胸が鳴った。

 ラルは、フローラさんと何をしていたのだろうか。何を話したのだろうか……?


 ポールのように、唇には紅が付いていないけど、フローラさんがラルの胸に顔を寄せたのは間違いないと思う。


 二人が寄り添っているところを想像して、私の目頭がじわりと熱くなった。


 けれど馬車の中でも、ラルはずっと何かを考えるようにぼんやりと外を眺めていて、なんとなく話しかけづらい雰囲気を醸し出していた。


 フローラさんと何があったのか気になったけど……、結局聞くことはできずに、馬車は静かに屋敷に到着した。


 ラルはすぐに部屋に籠もってしまったし、翌日もあまり話せなかった。

 笑顔を浮かべて「おはよう」と言ってはくれたけど、なんとなくいつもの笑顔とは違う気がした。それに、すぐに顔を逸らされてしまったのだ。


 それから数日、そんな感じが続いている。




「――ラル」


 だから今日は、思い切って私のほうからラルを誘ってみることにした。


「前に、私の風邪が治ったらどこかに出掛けたいと言ってたわよね」

「ああ……」


 部屋で本を読んでいたラルにそう声をかけて、私は窓の外に目を向ける。


「今日もとってもいい天気よ。どこかへ出掛けましょう!」


 明るく笑ってそう言えば、ラルも外に目をやった後、にこりと微笑んでくれた。いつもの笑顔に見えた。


「そうだね、出掛けようか」


 いつまでもこのままなんて、嫌。


 もし聞けそうなら、ちゃんとフローラさんのことを聞いてみようと思う。


 きっと、ラルはフローラさんのことで何か思い悩んでいるのだと思う。

 ラルの態度がおかしいのは、明らかにあの後からなのだから。


 ラルは私に結婚しようと言ってくれたけど、もし、やっぱり気が変わってフローラさんとの結婚を考えているのだとしたら……それもちゃんと聞かなくちゃ。受け入れなくちゃ。


 それも覚悟して、私はラルを誘った。




 ――行き先は、ラルに決めてもらった。どうせなら、ラルの行きたいところがいいと思ったのだ。


「エレアと二人でピクニックなんて、いつぶりだろう」


 今日はサンドイッチを用意して、湖までピクニックをしに行くことにした。


 馬車で向かい合って座りながら、にこやかに発せられた言葉を聞いて、ラルが少し元気になってくれたのを感じ取った私も、嬉しくなってしまう。


「そうね……いつだったかしら……二人で行ったのは、もう一年以上前だったかもしれないわ」


 ラルが王宮で騎士として正式に働き始めてからは、本当に忙しかったから。出掛けても街へ買い物に行ったりする程度だった。


 ゆっくりピクニックなんて、本当に久しぶりだ。


「それより……腕は大丈夫? 誘っておいてなんだけど、本当はまだ安静にしていたほうがよかったかしら?」


 まさかピクニックに行きたいなんて言うとは思わなかったから。だから包帯の巻かれた左腕を見ながらもう一度確認すると、ラルは穏やかに微笑んでくれる。


「大丈夫だよ。もうだいぶ治ってきているし、少しくらい動かないと身体がなまってしまう。それに、ずっと家の中にいるのは退屈だから、エレアが誘ってくれてとても嬉しかった」


 本当に嬉しそうにそう言って笑うラルの可愛い笑顔に、胸がキュンと疼く。


「でも、無理はしないでね?」

「ありがとう。エレアは優しいね」

「そんなことないけど……」


 先ほどからサラリと口にされるそんな言葉たちを、ラルがどういうつもりで言っているのか、いちいち考えてしまう。


 兄として……? では、ないのかしら。じゃあ、一人の男性として言ってくれていると思っていいのだろうか……?


「この時期はちょうど花が見頃を迎えているだろうね」

「ええ……、そうね」


 ラルの真意を探るように、じっと彼のサファイアのような瞳を見つめてみるけれど、ラルはそれを受け流すようににこりと目を細めて笑顔を向けてきた。


 だから結局、私のほうがドキリと鼓動を跳ねさせることになる。


 湖のそばには綺麗なお花がたくさん咲いている。

 ラルと昔何度か行ったことがあって、私はとても気に入っていた。


 ラルはそれを覚えてくれているのだろう。


 行き先はラルが決めたけど、さりげなく私が喜ぶ場所を選んでくれるところが、本当にラルらしい。




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