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22.僕が彼女を幸せにしたい3※ラル視点

 エレアが別の男と婚約したことで、はっきりわかった。


 僕はエレアが自分のもとからいなくなってしまうのを、黙って見ていることなんてできないと。


 幸い僕たちは血が繋がっていない。

 父には一手間かけさせてしまうが、ポールの浮気の証拠を掴んだら二人の婚約を白紙に戻し、エレアと僕の結婚を認めてもらおう。


 そう決心したばかりのところで、あの事件は起きた。


 王城で夜会が開かれていたあの日――

 僕が王女と踊っている間、エレアから少しだけ目を離した。その隙に、彼女の姿が見えなくなってしまったのだ。


 王女とのダンスを終えた僕はすぐにエレアを探した。

 その日警備の仕事に就いていた同僚の騎士にエレアを見なかったか尋ねると、ある部屋から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。

 すぐにその部屋へ駆けつけ扉を開けると、エレアが婚約者のポールに肩を掴まれ壁に押し付けられているのが目に映った。


 その瞬間、僕は殺意に似た感情を胸に抱いた。

 すぐにエレアに触れているその手を掴み彼を咎め、騎士仲間に彼を連れていかせた。


 いつまでも言い訳をしようとするポールには、一刻も早くエレアの前から消えてほしかった。



 それから家に帰ってすぐエレアを主治医に診てもらい、父に先ほどの出来事を伝えれば、父も僕と同じように怒りを露わにした。

 当然のようにエレアとポールの婚約を白紙にする手続きを行うと語る父に、僕は心の底から安堵した。


 そしてもうひとつ、僕の想いを父に伝えた。

 エレアと兄妹になったあの日から、僕はずっとこの想いに蓋をして我慢してきたのだ。


 しかし、もうやめだ。


 その日、僕は思い知った。

 やはり彼女は誰の手にも渡したくない。これ以上誰にも触れさせたくない。もう二度と傷つけさせない。

 僕とエレアは血など繋がっていないのだから、何も問題ないのだ。


 父は一瞬驚きに目を見開いたが、どこかで僕の気持ちに気づいていたのか、すぐに頷いてくれた。


 正直、「なぜだ」とか「馬鹿を言うな」とか、もっと反対されることも覚悟していたのだが、父もエレアのことを本当の娘のように可愛がってきたのだ。


 このままエレアが形を変えて義娘としてキルステン家にいることに、異論はないのだろう。

 もしかしたら、心の中では父もそれを望んでいたのではないかとすら思えた。



「――しかし、どうする? エレアの籍を抜くとして、ホルト家に戻すつもりか?」


 エレアが元いたホルト伯爵家の今の当主は、彼女の元義兄であるツィロ・ホルトである。

 だが、ホルト伯爵家は父の力添えも虚しく、今や衰退している。

 そして、残念ながらツィロがどんな酷い人間であるのかも、僕と父はよく知っている。

 彼女があの家でどんな目に遭っていたのか、今でも忘れるはずがない。


「それはあり得ませんね」

「だな。ではエレアを養子として出す家を新たに探すか」

「はい。僕が探します」


 僕は次期キルステン侯爵となる男だ。

 僕の我儘で妻を決めるのだから、そのための手続きはできる限り自分の手で行いたい。

 あの愛しいエレアを自分の妻にできるのだ。そのためならなんだってやろう。

 そう覚悟を決めて、エレアを養子とする家を探し始めた。



 ――五年前のあのとき、十三歳だった僕はどうするのが正解だったのだろう。


 どうしていれば五年経った今、エレアに〝男〟として見てもらえていたのだろうか。

 傷つけずに済んだのだろうか。


 子供だった僕にはとてもわからなかった。


 考える時間はなかったし、あったとしてもきっとわからなかっただろう。

 何せ大人になった今だって、正解なんてわかっていないのだから。


 しかし、婚約者に裏切られてエレアが傷ついたのは確かだ。

 こうなる前に、もっと早く僕が行動していればよかったのではないだろうか。


 であれば後悔するのはもう終わりだ。

 これからはもう自分の気持ちに蓋をして、我慢するのはやめよう。


 なんたって、エレアをこの世で一番幸せにできる男は僕だと、自信を持って言えるのだから――。



「僕と結婚しようか」



 あの瞬間、あまりにも自然に、スッとその言葉が口から出たのは、僕がその想いをずっと胸に秘めていたからだろう。


 蓋を開けた途端に、これまで溜め込んでいたものがどんどん溢れてくるのがわかって、思わず泣いてしまいそうなほどだった。


 エレアに求婚した。


 僕はそれをしてもいいのだ。


 もう、この気持ちを我慢しなくていい――。


 そう自分に言い聞かせるたび、じわじわと込み上がってくる想いが僕の胸を締めつけ、熱くなった。


 僕はエレアを心から愛している。


 あのときからずっと、この想いはまったく色あせてはいなかった。


 しかし、エレアはその言葉の意味を、しばらく理解できていない様子だった。


 無理もない。僕たちはこの五年間、兄妹として育ったのだから。


 けれど戸惑いを含んでいるエレアのその表情がまた可愛くて。


 五年ぶりに彼女を強く抱きしめて、僕は一生エレアを守っていこうと胸に誓った。


 この抱擁の意味を彼女が正しく理解してくれるのは、もう少し先になるのだが――。




ラル視点、お付き合いありがとうございますm(*_ _)m


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