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21.僕が彼女を幸せにしたい2※ラル視点

 しかし、僕は兄であるからこうしてエレアの成長を見届けられるのだ。

 こんなに近い距離にいられるのだ。


 望んだ形とは少し違うが、今がとても幸せだ。


 家族として、誰よりも一番近くでエレアのそばにいられるのだから。


「そういえば、今日も同級生にラルのことを紹介してほしいって頼まれたわ」

「そうか……」

「でもラルはいずれフランカ王女と婚約することになるかもしれないものね」


 力ある侯爵家の嫡男として生まれた僕は、ふたつ年下になる国王の末娘、フランカ王女の婚約者候補として噂があった。実際にはそんな話はないのだが。


 だが、エレアもその噂を信じているようだったし、他の令嬢からの誘いを断るための体のいい理由になるから、敢えて彼女の前で否定はしていなかった。


 それが、僕が他の女性に興味を示さない理由になっていたのだ。

 僕がエレアを妹以上に想っているのではないかと疑われずに、安心してもらえる理由でもあったのだ。


 もしエレアと出会っていなければ侯爵家のためにもその話を本当に前向きに考えていたのだろうが、今の僕にはたとえ相手が王女であっても気が乗らなかった。


「でもラルは本当に人気者ね!」

「……そうかな」

「そうよ、皆言ってるわよ。ラルはとても格好いいって」


 無邪気に語られるエレアの言葉に、思わず「エレアもそう思う?」と聞いてしまえば、彼女は少し戸惑った様子で「ええ……」と答えた。


 こういう話になる度、僕の胸は抉られる。

 なんでもないような顔で笑うエレアの顔を見てつきんと胸が痛む。

 そして、自分を格好いいと思うかと聞いてくるおかしな兄に優しく頷くエレアを見て、愚かな自分が嫌になる。



 エレアの笑顔は大好きだ。エレアが心から笑っていてくれるなら、僕はそれだけで幸せだ。


 そう思う気持ちも嘘ではないが、本音ではその笑顔を独占したいと思っている。


 僕だけがエレアの隣にいることを許されたい。


 だから、「妹を紹介してほしい」というようなことは僕も言われていたけれど、エレアには黙っておくことにした。




 しかしついに、その日はやってきた。


 十七歳になるエレアに、父が婚約者を決めてきたのだ。


 高位貴族であるヘルテン伯爵家の長男、ポール。


 僕と同い年の彼との婚約を、エレアは文句ひとつ言わずに受け入れた。


 いつかこの日が来るのはわかっていた。

 彼女もそれを覚悟していたのだろう。


 エレアの幸せを願えば仕方ないことなのだ。

 兄として妹の幸せを願わなければならないことも、理解していた。


 しかし、その日だけはエレアの顔を見ることができなかった。


 覚悟していたはずなのに、エレアが他の男と結婚してしまうことを考えると、胸が痛くて、苦しくて、たえられなくなりそうだった。


 好きな人が幸せになるなら、身を引く?


 そんなわけあるか。

 そんなものは、単なる偽善だ。


 本当に好きなら、心から愛しているなら、自分の手で幸せにしたいと思うに決まっている。


 いつまでも自分と一緒にいてほしいと思うに決まっている。


 だからその日エレアを前にすれば、僕は無理やり彼女を奪っていたかもしれない――。



 ポールは同い年だが、彼は騎士科ではなかったので僕と親しくはなかった。


 それでもエレアと婚約した男がどんな奴か調べずにはいられなかった僕は、友人や知人を介してポールがどんな男か探った。


 父が決めた相手だけあって、家柄は文句がなかった。


 跡を継ぐポールの成績もよかったし、一見優秀な後継者であった。

 見てくれも悪くない。

 性格も派手ではなく、どちらかというと控えめらしい。

 女性関係の悪い噂もないようだった。


 しかし、まだわからない。

 彼はエレアをきちんと大切にしてくれる男だろうか。何があっても裏切らないだろうか。


 この僕よりも、エレアのことを愛してくれるだろうか?


 ――そんな男、いるはずがないと知っている僕は、ポールとエレアを二人きりにしないよう努めた。


 これまで通りパーティーへのエスコートは僕が務めたし、二人が顔を合わせるときも、エレアから目を離さないようにした。


 ポールの言動にも気を配った。


 そうしている間に、気づいた。


 あの男は、キルステン侯爵家の娘と婚約したことを周りに自慢げに言いふらすようになり、寄ってくる女性と二人で消えるようになったのだ。


 キルステン家と繋がりができたことで調子に乗り始めたのだろう。


 駄目だ、あんな男にエレアを任せることなんてできない。


 ――いや、やはり誰にもエレアは渡せない。

 僕がエレアと結婚しよう――。


 エレアが自分のもとからいなくなるかもしれないという恐怖を前に、ようやく僕の決心がついた。



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