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20.僕が彼女を幸せにしたい1※ラル視点

 それから五年の月日を僕とエレアは兄妹として過ごすことになるのだが――。



 うちに来てから、エレアはまともな食事がとれるようになり、侯爵家で貴族令嬢として相応しい扱いを受けた。

 ちょうど成長期だったことも重なり、彼女はどんどん美しく成長していった。


 日に日に女性らしくなっていく義理の妹を好意的な目で見ていることに何度も頭を抱えたが、同時に僕の目の届くところにエレアがいてくれることがとても嬉しかった。



 王立学園に入学した僕は、騎士科に進んでいた。


 騎士科は男ばかりのコースで、年頃になるとよく女のことが話題に出た。

 どこどこ伯爵のなになに令嬢が美人だとか、スタイルがいいだとか。


 そんな話に興味のなかった僕に、将来騎士として共に国に仕える予定の友人たちに言われた言葉はこのようなものだった。


「お前は、婚約者はまだか?」

「ああ、ラルフレットはフランカ王女と婚約するんだったか?」

「いいなぁ、王女様はとても可愛らしいお方だ。きっと美人になる」

「しかしまだ婚約していないのだから、お前ならいくらでも相手をしてほしいって女がいるだろうに、もったいない男だ」

「ラルフレットはまずは妹の婚約者選びが先だもんな?」

「そうだったそうだった。このシスコンめ」


 心の中で密かにエレアを想っていた僕は、彼らのように他の女性に興味を持ったりしなかったのだが、それが彼らには少し偏物に見えたらしい。


「ラルの妹は俺がもらってやろうか? あの子、結構タイプなんだよなぁ」


 たまにそういうことを言ってくる奴もいたが、ひと睨みすればすぐに、


「――なぁんてな、冗談だよ、冗談……」


 と、慌てたように付け加える者ばかりだった。

 そんな中途半端な気持ちの男にエレアをやれるものか。


 エレアも王立学園に入学すると、共に登校し、共に下校する時間が増えた。馬車の中ではエレアと二人きりの時間を過ごせたから、僕はその時間が大好きだった。


 エレアは魔法科に進んだ。

 彼女もそんなに魔力が多いわけではなかったが、魔法に興味があったのだ。

 花嫁科に進むよりずっといい。僕はそう思った。



 エレアが社交界デビューするときも僕がエスコートした。

 美しく成長した彼女を悪い虫から守るために。


 それからパーティーに出席する際は必ず僕がエレアをエスコートすることがお決まりとなった。

 婚約者のいない娘が兄弟からエスコートを受けることは一般的だ。


 やがてエレアにも婚約者ができるのだが、それまでずっと僕がエスコート役を務めてきたから、結婚するまではこれまでと変わらず僕がエスコートすることに、エレアは疑問を抱いていないようだった。




 *




「エレア、砂糖はひとつでいいね」


 休みの日も、僕はよくエレアの部屋を訪れて、二人でお茶をした。それは成長していっても変わらなかった。


 使用人にお茶とお菓子を用意してもらったら、あとは二人で過ごすのだ。


 兄妹だから(・・・・・)、できるのだ。


 僕たちのこの関係は、兄妹だから成り立っている。

 それ故に一線を越えてはいけないということも、よく理解していた。


「あ……私、お砂糖はいらないわ」

「どうして?」


 エレアは甘いものが好きだ。紅茶には必ず砂糖を入れる。


 しかしエレアが十五歳になったある日、いつものようにエレアの紅茶に角砂糖をひとつ入れようとした僕は、エレアの言葉で手を止め、首を傾げた。


「最近太ってきたの……だから少し、ダイエットしようと思って」


 照れくさそうにそう言ってはにかむエレア。


 ああ……そんな。


「それは太ってきたんじゃないよ。エレアは成長期なだけだ」

「でも……」


 男の僕に言うのが恥ずかしいのか、言いにくそうに頰を染めているエレアはとても可愛い。


「今までが痩せすぎていたからね。でも本当にダイエットなんてする必要はないよ」

「そうかしら……」

「それじゃあ、砂糖はやめようか。でも、クッキーは三枚まで食べてもいいことにしよう」

「そうするわ!」


 年頃の女性は自分の体型が気になってくるものだ。きっと友人たちともそういう話題になるのだろう。


 だけどエレアは本当に太ってきてなどいない。健康的で女性らしい身体つきになってきているだけなのだ。


 だからそう提案すれば、素直に笑って頷くエレアはやっぱり可愛い。

 幸せそうに可愛い口でクッキーを頰張るエレアを見ている時間が、僕の幸せだった。


「美味しいかい?」

「ええ、とっても!」

「よかった」


 だから、この時間がずっと続いてほしい。


 一年先も、五年先も、十年先も、三十年先も――


 そう願った。




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