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18.好きな子が妹になった日2※ラル視点

 僕が十一歳だったあの日――


 その頃、父がよく顔を出していた伯爵領に勉強のため僕もついていっていたのだが、そこの娘と出会って僕の人生は劇的に変わることになる。


 父の遠い親戚にあたるホルト伯爵が事故で亡くなり、爵位は当時まだ十六歳になったばかりの息子に継がれた。

 そんな若き伯爵を助けるべく、父は足繁くホルト領に通っていたのだ。


 十一歳だった僕は息抜きにとホルト家の庭に出て散歩をさせてもらうことにした。

 そこでよく一人でいる女の子を見つけたのだ。

 咲き誇る花のようなピンクブロンドの長い髪で顔はよく見えなかったが、彼女はいつも一人でしゃがんで花を眺めていた。


 最初は何をしているのだろうという素朴な疑問を抱いた。


 ここには娘がもう一人いて、ウェーブのかかった白金色の髪のその子はいつも母親にべったりくっついて「あれが食べたい。あそこに行きたい。あれが欲しい。これは嫌だ」などと我儘を言っている印象があった。


 母親は困ったような雰囲気ではあったが、すべて「いいよいいよ、そうしましょう」とその娘の我儘を受け入れていた。


 父から聞いた話によると、前ホルト伯爵は再婚しており、相手の女性にも連れ子が一人いたらしい。


 その母親の連れ子がいつも庭に一人でいる、ピンクブロンドの髪の子のほうであると知った僕は、あるとき庭に出て彼女に声をかけてみることにした。



「――何をしているの?」


 振り返った彼女――エレアは、翡翠のようなとても綺麗なエメラルドグリーンの瞳で僕を見た。


 その瞳に見つめられた瞬間、感じたことのないざわつきを胸に感じ、一瞬怯んでしまいそうになったのをぐっと立て直して、子供なのにしっかりと挨拶をしてくれた淑女に僕も精一杯の礼で応えた。


 エレアはとてもよく教育されたいい子だった。

 エレアと話をするのが楽しくて、それからホルト家を訪れる度に庭に行き、エレアと顔を合わせるようになった。


 エレアには僕の話をたくさんして聞かせた。


 尊敬する父のこと。優しい母のこと。

 なぜこんなに自分の話ばかりしているのだろうかと、そのときはすぐにわからなかった。


 ただ子供だった僕はエレアに自分のことを知ってほしかったのだと思う。僕という人間を理解して、できれば好意を持ってほしいと願っていたのだと思う。


 ときには剣術の大会でいいところまで行っただとか、先生に筋がいいと褒めてもらっただとか、子供らしい自慢話をしたこともあった。


 エレアが純粋な笑みを見せて「すごいわ」と言ってくれたのがとても嬉しくて、もっと稽古を頑張ろうと思えた。


 エレアのことももっと知りたくなって、彼女からも話を聞くようになったけど、エレアの話はどれも昔のことばかりだった。


 彼女がいつも一人で庭にいる理由を子供ながらに感じ取り、どうにかしてやれないだろうかと思った。


 だがそれを聞こうとしても、エレアは母親を庇うようなことを言った。一度も愚痴なんてこぼさなかった。


 エレアはたぶんとても寂しい思いをしているはずだ。それなのにいつも笑っている彼女に、胸が締めつけられた。


 僕の前では弱音を言わないエレアだが、本当はその小さな身体で色んなことを我慢しているのだとわかった。


 エレアはなんて健気な子だろうと、感じた。

 僕の周りの貴族の娘たちは例外なく高価な新しい服を着て、好きなものを買い与えられ、自分の思い通りに周りの者を動かそうとするし、そうするのが当たり前に振る舞っていた。


 しかし、エレアは違った。


 母がこれ以上辛い思いをしないよう、自分が母の負担にならないよう、エレアは文句も泣き言も言わずに生きていたのだ。


 本当は自分も辛いだろうに。



 そんなエレアに、僕はすぐ惹かれた。


 しかしまだ子供だった僕にはどうしてやればいいのか思いつかず、せめて時間が許す限り、エレアとたくさん話をしようと決めた。


 一年近くエレアと顔を合わせているうちに、やがて彼女を守りたいという強い想いが芽生えた。

 エレアに出会って、初めて父の言っていたことがわかった気がした。


〝男は強くあれ。騎士である前に、お前は一人の男だ。愛する者をその手で守れるような強い男になれ〟


 騎士になるのだから強くなるのは当然だと思っていた。国や王族を守れるほど強くなれば、愛する者を守るくらい、簡単ではないかと。


 しかし父の言っていた言葉の意味がわかったとき、僕はエレアに出会うために生まれてきたのだとすら思えた。


 僕はエレアを守るために、強い男になるのだ。



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