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17.好きな子が妹になった日1※ラル視点

 熱を出してしまったエレアの看病を買って出て、ずっとエレアのことを想っていたという気持ちを打ち明けて彼女の部屋を出た。


 エレアにはもう求婚しているというのに、思えばちゃんと想いを伝えたのは今日が初めてだった。


「自分で相手を探す」と言ったエレアに、僕はもう我慢ができなかった。エレアに僕の気持ちをちゃんとわかってもらいたかった。


 エレアは僕に何か話したそうにしていたけど、それはきっと僕がどういうつもりで「結婚しよう」と妹に言ったのか、確認したかったのだと思う。


 エレアの覚悟ができたときに、その真意をちゃんと伝えようと思っていたのだが……もう、これ以上自分の気持ちを抑えておくことはできなかった。



 部屋を出て扉を閉めてから、その場で少し立ち止まり、気持ちを落ち着けようと深呼吸した。


 口元に運んだ手は小さく震えていて、自分がどれほど緊張していたのかを知る。


 ……情けない。


 まるで鍛錬のあとのようにドキドキと速く脈打つ心臓と熱くなる身体に、自分が少し怖くなった。


 さすがの僕も、このときばかりはとても緊張していたのだ。


 僕の気持ちを家族愛だと思って気を許してくれていたエレアに、本当の想いを伝えてしまった。


 気持ち悪いと思われただろうか。もう、今までのように僕と接してくれなくなってしまうかもしれない……。


 しかし、エレアの可愛さと、他の男を探すという言葉に、一瞬理性が保てなくなりそうだった。


 他の男にエレアを渡すなんて、あり得ない。そんな言葉、エレアの口から聞きたくない。


 つい勢いで自分の気持ちを告げてしまったが、彼女をベッドに押し倒してしまわなかっただけ、僕にはまだ理性というものがちゃんとあるらしい。


 僕がエレアに伝えた「愛してる」という言葉は、もちろん家族としての〝愛〟ではない。


 今までも似たような言葉を口にしたことはあったが、兄というだけでその意味は正しく伝わっていなかった。


 これまではそれでよかったのだ。


 妹となったエレアと僕が将来結婚できないのはわかっていたし、僕にキルステン侯爵家の嫡男としての務めがあるのは物心ついたときから理解していたのだから。


 エレアと出会って恋をしてからも、僕はいずれ父が望む相手と結婚するのだと心のどこかで覚悟していた。


 エレアもよき相手を見つけて幸せになってくれればそれでいい。一生〝兄〟として近くで見守ることができればそれでいい。


 だから僕の〝愛してる〟は家族としての想いでいいと、今までは思っていた。



 ……僕は自制心の強い男だと思っていたのに。


 今回のことで、一度枷が外れてしまえばもう戻れなくなっていくだけなのだということを知った。


 それも仕方ない。

 僕が恋というものを経験したのは、エレアが初めてなのだから。

 エレアが初恋で、エレアのことしか愛したことがない。

 想いを伝えたのも初めてだから、本人にこの気持ちを打ち明けたらどうなるのかなんて、知らなかった。


 自分が思っていたよりずっと、僕はエレアへの気持ちを我慢していたのかもしれない。



 ――ラルフレット・キルステン。


 それが僕の名だ。


 次期キルステン侯爵。騎士として代々王家に仕えてきた力のある家系に生まれた僕の人生は、この世に生をなした瞬間から決まっていた。


 生まれた時から色々と約束されていたのだ。


 金も、地位も、名誉も、両親のおかげで見た目も。

 しかし、恵まれた暮らしを得る代わりに、自由はなかった。

 騎士となり王族に仕え、次期侯爵になるべく勉強を欠かさず、人柄もどうあるべきか父に厳しく言いつけられ、そしていずれこの家のためになる相手と結婚する。


 人として間違った行いはしなかった。父のおかげでまっとうに育った。


 しかしまだ子供だった頃、友人たちが「あの子が可愛い、この子が好きだ」などと言い出すようになり、女の子に興味を持ち始めても、自分にはよくわからなかった。


 たぶん最初から期待していなかったからだ。いずれ父が相手を決めるのだから、恋をする必要はないと思っていたのだ。


 友人の中には子供でありながら既に婚約者がいる者もいたが、他の女の子を可愛いと言いながら目移りしている話を聞いて、顔をしかめずにはいられなかった。


 婚約者がいるのならその人だけでいいではないか。なぜ他の女性とも親しくしたがるのだろう。意味がないのに。


 いずれ自分に婚約者ができたら、その相手のことは大切にしようと思った。父が母にしているように。


 しかし十一歳のとき、僕は突然恋に落ちた。



ラル視点が続きますが、お付き合いいただけたら幸いです!

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