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15.ラルの看病

「はい、エレア。口を開けて?」

「……大丈夫よ、ラル……一人で食べられるわ」

「こういうときは無理をしないで、僕に甘えて?」


 腕を怪我しているのはラルのほうなのに。


 彼は「移るといけないから」と言って侍女たちを部屋から追い出し、私の看病を買って出たのだ。


 風邪を引いたのはとても久しぶり。


 先日、ラルを待ってリビングのソファでそのまま寝てしまったのがいけなかったのだと思う。


「ラルに移ってしまうわ」

「僕は日頃から鍛えているから大丈夫だよ。それに、どうせ今は仕事が休みだしね」

「でも……」

「いいから。はい、あーん」


 有無を言わせない笑顔で、膝の上に置いたトレーに乗った器からパン粥を一口すくって。

 更にそれをフーフーしてから、片手で器用にスプーンを私の口元に運ぶラル。


 なぜだかとても楽しそうだ。


「……ん」


 食べて薬を飲まないと治らないよ? なんて言って少し強引にスプーンを口元に運ばれたから、思わずそっと口を開けて一口食べると、ラルはフッと笑って満足そうに呟いた。


「可愛いなぁ」

「……子供扱いしないで。自分で食べられるんだから」

「もちろん子供扱いしているわけじゃないよ? エレアがもう立派なレディだということはわかっている」

「そのレディの部屋に入ってくる男性は貴方くらいよ」


 私は部屋着に着替えて、ベッドに座っている。こんな無防備な格好をしているのに堂々と二人きりになるなんて。


 私たちが〝兄妹〟ではなかったら、きっとこんなことはあり得ない。

 だからやっぱり私たちの関係は兄妹という砦の上で成り立っているのだけど……もしこれで私がキルステン家の籍から抜けて、また他人に戻ったら……そしたら私たちの関係はどんなふうに変わってしまうのだろうか。


「それは光栄だ」

「貴方に婚約者がいなくてよかったわ……」

「え?」

「だってこんなことが知られたら、きっと私は嫉妬という刃に貫かれてしまうわ」


 それでなくてもラルのファンにいつも睨まれているのだ。

 もし婚約者がいたらと思うと……ぞっとする。


 まぁ、もしそういう相手がいたらさすがにラルもこんなことしないかもしれないけど。


「そんな人はこの先も現れないから安心して?」

「え?」

「言っただろう? 僕はエレアと結婚するんだ」

「……ラル」


 にこやかに微笑んで、私を安心させるようにそう言ってくれるけど。


 その言葉を本当に真に受けてしまっていいものなのか、私はラルに確認しなければならない。


「だから早くよくなって? そしたらエレアを養子として出す家を決めて、正式に婚約しよう」


 パン粥の乗ったトレーをサイドテーブルに置いて、私にそっと顔を寄せると、窺うようにはっきりとそう言ったラルと至近距離で目が合った。


 ……近い。もう少し距離を縮めれば、唇が触れ合ってしまいそうなほど……。


「き、気持ちはとても嬉しいけど、そこまでしてくれなくてもいいのよ……?」


 かぁっと顔に熱が集まるのを感じる。


 ドキドキと胸が高鳴って、手にじんわりと汗をかいて、ぎゅっと布団を握る。


「元気になったら私が自分で相手を探すわ……。だから、安心して?」


 ラルは侯爵家の跡継ぎ。王女とだって結婚できる人物。

 そんな人の将来を妹のせいで台無しにしてはいけない。


 熱のせいか、私はあの日ラルに確認しようとしていた言葉とは違うものを選んで口にしてしまった。


 違う。本当はこんなこと言いたかったわけじゃないのに……。


 けれど、それを聞いたラルの顔から、スッと笑顔が消えていった。



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