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13.ラルのお願い

「ラル……っ」


 すると、ラルはこてん、と私の肩に頭を乗せてきた。


「重い?」

「ううん……」

「じゃあ、少しこのままでいて」

「……わかったわ」


 少し低い声で静かにしゃべるラルは、やっぱり疲れているのだと思う。


 それはそうよね。本当なら、今日は無理に帰らなくても、あのまま救護室で何日か療養するべきなのだから。


 それなのに、父やギドさんの前で辛い様子を見せずに、笑顔まで浮かべていたラルの表情を思い出して、やっぱり泣いてしまいそうになる。


 ラルはいつも頑張りすぎよ……。


「ありがとう、エレア」

「ううん」


 ……でも、少しドキドキする。


 私の肩に頭を乗せるラルの顔にちらりと視線を落とすと、綺麗なゴールドベージュのまつげが目に映った。


 髪と同じ色の彼のまつげは、男性なのにとても長くて綺麗。鼻筋も通っていて、本当に整った顔立ちをしているなぁと、改めて思う。


 命がけで戦ってきたのだ。相当疲れているに決まっているけど、肌荒れひとつないなめらかな肌に、凜々しい眉。


 私がずっと、好きだった人。憧れだった人。兄になった人……。


 そして私はこの人と、結婚できるかもしれない――。


「……エレアの心臓、すごくドキドキ言ってるね」

「ごめんなさい……っ! うるさかった?」

「ううん。可愛い」

「……っ」


 そう言って頭を持ち上げると、今度はラルが上から私の顔を見つめてきて、怪我をしていないほうの手を私の頭に乗せると、撫でるように少し動かした後、そのままゆっくり頰へと滑らせた。


「もしかして緊張してるの? どうして?」

「……えっと」


 それは、ラルがこんなに近いから……!!

 そう言いたいけど、私の気持ちを伝えたいけど……。

 こんなかたちで伝えるのは、なにか違う気がする。


「そういえば、僕に話があったんだよね。昨日は帰れなくてごめんね?」

「いいえ……お仕事だもの……話はまた今度、ラルの腕が治ってからにするわ」

「僕は今でもいいけど」

「……」


 俯く私の顔を覗き込むように、ラルが言った。

 私がなんの話をしようとしているか、彼はわかっているのだろうか。


 ……待って。っていうか、なんか近くない……?


 狭い馬車の中で、こんなに近い距離で、二人きり。

 もう私は何も考えられなくなってしまって言葉を詰まらせていると、ゆっくりと馬車が停車した。どうやら屋敷に着いたようだ。


「……残念。もう着いてしまったね」

「ええ……」


 使用人により、外から馬車の扉が開けられて、先に降りたラルはしっかりと私の手を取ってエスコートしてくれる。


「ありがとう、ラル」

「いいえ」


 怪我をしているし、すごく疲れているだろうに、やっぱりラルは辛そうな顔は微塵も見せない。



「――おかえりなさいませ、ラルフレット様。奥様がお会いしたいとおっしゃっておりましたが、お身体は大丈夫ですか?」


 キルステン家の使用人たちは、討伐から無事に帰ってきたラルを手厚く出迎えた。

 そして、執事長のトーニが前に出てラルに声をかける。


「平気だよ。怪我しているのは腕だけだからね。それに動かないと身体がなまってしまうから、僕のほうから母上の部屋に行くよ」

「かしこまりました」

「それじゃあ、またねエレア」

「はい」


 このままお母様のお部屋へ向かうことにしたらしいラルから手を離し、彼と向き合う。


「あ――そうだ」

「……?」


 すると別れ際、ラルは何かを思い出したように声を上げ、そっと私の耳元に顔を近づけ囁いた。


「今度着替えを手伝ってもらおうかな。一人で着替えるのは大変だから」

「ええっ!!?」


 どうして私!? それこそ、そういうことは使用人にお願いすればいいんじゃ……!


「……ごめん、冗談だよ。エレアがいつまでも心配そうな顔をしてるから。でも真っ赤になって、エレアは本当に可愛いね」

「…………ラル」


 クスクス、と楽しそうに笑いながら、ラルは今度こそお母様のお部屋のほうへと足を進めていった。



 その背中を見つめながら、ラルが帰ってきてくれて本当によかったと、心から感じた。



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