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01.婚約者の裏切り

『君はなんて美しいんだ。愛しているよフローラ』


 フローラって誰?

 貴方の婚約者の名前はエレアよ。一文字もあってないわよ、ポール様。


 扉に耳を近づけると、部屋の中から知らない女性の名前を囁く婚約者の声が聞こえた。

 私は一人で目をぱちくりさせながら、もっとよく聞こうと更に扉に耳を押し当てた。


『――本当に素敵だよ、君は誰よりも美しい』

『でも貴方、婚約者がいるじゃない』

あれ(・・)とは家のために仕方なく婚約しただけだ。僕の心は君だけのものだよフローラ』


 ……ふむ。時々二人の声が同時に途切れるのはどうしてかしら?


 まぁ、そんなことはどうでもいいけど。

 ああ、それよりどうしよう。


 ここはバーンと勢いよく扉を開けて「婚約者(わたし)という存在がありながら何してるのよ!!」って強気に登場すべき?

 それとも「ポール様……! 一体何をされているのですか……?」と、か弱く泣き崩れるべき?


 どちらが正解かなんて考えているあたり、私は結構冷静だ。



 あの日(・・・)から、私が十七歳になるまでの五年間、キルステン侯爵夫妻は私をとても可愛がってくれて、立派に育ててくれた。

 そんな侯爵夫妻のためにも、私は扉の向こうでフローラさんとかいう女性とよろしくやっている婚約者――ポール・ヘルテンと結婚しなければならないことはわかっている。


 だけど本当は、心のどこかでこんな婚約、白紙になってくれればいいと願ってもいた。

 だから神様がその願いを叶えてくれて、このまま黙っていても彼に婚約破棄されるかもしれないと期待してみる。



『――じゃあ、彼女とは結婚しないの?』


 今私が一番聞きたいことを代弁してくれるフローラさんは、空気が読める。


『形だけの結婚はするよ。彼女はキルステン侯爵家の娘だからね。でも金が手に入ったらすぐに君を呼び寄せると約束しよう』

『あら、本当?』


 ――でも残念。どうやら婚約破棄(それ)はないみたい。


 伯爵家の嫡男で見目もそこそこいいポールが私なんか(・・・)と結婚する理由は、私の家柄にあるらしい。


 キルステン侯爵家は代々騎士の家系で、王族に仕えており、大きく力をつけてきた家だ。

 そのキルステン家と関係を結ぶことができれば、確かに大きな利益が出るだろう。

 でも私は、大切な両親のお金をそんなふうに利用しようとする人との結婚はやっぱり嫌。


「――よし」


 だから意を決して大きく深呼吸すると、扉を四回ノックした。

 コン、ココン、コン――


「ポール様、ご気分が悪いのですか? 入りますよ」

「――え? エレア――!?」


 最低限の礼儀(ノック四回)はしたのだ。許してほしい。


 だから返ってくるはずがない〝どうぞ〟の返事を待たずして、私は慌てた演技をしながら勢いよく扉を開いた。


「あ――」

「……まぁ!」


 私の目に飛び込んできたのは、寝台の上でドレスの裾が捲り上がり白い脚を露わにした、長い黒髪が色っぽい女性。

 そして、せっかく今夜のパーティーのために正装していた襟元をだらしなく乱した婚約者の姿。


 女性の腕は彼の首にからみつき、彼の手は彼女の太ももに這わされている。


「ちちち、違うんだエレア!!」


 私と視線を合わせてようやくその太ももから手を離すと、ポールは絵に描いたように顔色を悪くして私に両手を向けた。


「彼女が……その、気分が悪くなったからここまで運んで……本当にそれだけだ!」


 言いながら寝台に乗り上げていた脚を下ろすポールの唇には、真っ赤な紅がついている。

 彼にそんな趣味はないはずだし、その口紅は寝台に寝ているフローラさんと思われる女性の唇と同じ色。


 つまり、そういうこと(・・・・・・)


 彼がこんなに焦っているのは私のことを愛しているからではなく、私と結婚することで得られるお金を愛しているのだということはさっき本人の口から聞いたばかりだ。


「……はぁ」


 ポールの慌てふためきぶりにがっかりするような、呆れたような態度で大きく溜め息を吐くと、寝台で仰向けになっていた黒髪美人のフローラさんは立ち上がって赤いドレスの裾を払った。


 それから何事もなかったかのような顔で軽く髪を撫でると、まるで自分の役目が終わったとでもいうように部屋を出ていった。




「小説家になろう」初投稿から1年が経ったので、自分で記念して新連載始めました(*´˘`*)


面白くなりそうだ!続きが気になる!更新頑張れ!

などと思っていただけましたら、ぜひぜひブックマークや期待を込めて評価☆☆☆☆☆を押していただけると大変励みになります!


よろしくお願いいたしますm(*_ _)m

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