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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第六章 それから後

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76 タウ&イータ



「すっごいきれい…」

一瞬見惚れて、それからイータの両手を取って泣きそうになるリーブラ。


今日は、タウとイータの小さな披露宴だった。


身内だけで花札じじい2の食堂で行う。じじい1の食堂よりキレイでレストランという感じだ。


イータはムギと同室の西アジア人の子、ライのお姉さんの花嫁衣装を着けていた。ライが着付けながら、ファイと簡単に裾を直していく。一気にお腹も目立ってきたので、胸下から絞るエンパイアドレスである。少し変わった形で絞りからリボンが垂れていて、あとは美しい西アジアの刺繡が細かく入っていた。ライの故郷の花嫁衣装はカラフルだが、半分近代化した地域だったので色は少しだけクリームがかった白である。


「うう、イータ。」

「泣くな泣くな。」

リーブラが止まらない。


「ライ、先に着てしまって申し訳ないよ。」

「いいの。姉さんも喜んでいるよ。」

ライの歳の離れたお姉さんは自国の子供の施設が襲撃された時、最後まで残って殉職した。それでも3人の子を残し、みんな元気に育っている。

「でも本当にお姉さんのを着てよかったの?」

「うん!」

事務局の女性たちも盛り上がっている。



その横でもう1人キレイな花嫁、ソア。

一部濃い人がいるためほとんど目立たなかった、アーツBチームにいたベイドの恋人で、説明会や何かの折に来ていた女性だ。


今後のことで職員とリーダーで話し合っていた時に、

「はあ、もう面倒くさい。みんな結婚してしまえ。」

との、チコの一言でまとめて簡単な披露宴をすることになった。タウとイータは式は済ませていたが、ベイドとソアはまだ。今回エリスにお願いする。


ソアはイータと同じダンスチームのメンバー。


タウは何もしたくないと言っているし、イータも今更感があって披露宴はする気がなかったが、写真も残していないしドレスも着ていないことを知り、南海の女性たちが絶対にしてあげてと準備したのだった。ご祝儀は3千円のみ、未成年半額、小学生以下無料。子供3人目から無料。会費ではなくご祝儀としてこれ以上は受け取らない。子供だけの世帯からは何も受け取らないことにした。


今回新郎はシャツにスーツパンツのみ、ソア以外全員スニーカーである。

こいつらスニーカーでも様になるとはどういうことだと思う、妄想CDチーム。くるぶし丈のパンツがイケるとは。


写真屋が入って写真を撮ると言ったら、ギャラリーは最低限にしてくれてとタウがいうので、仕方なくみんな出て行く。

「もー、超つまらない。タラゼドもタウもつまらない!」

リーブラが怒っている。なぜタラゼドがここで出てくるのか理解できない周りの人間。



写真が終わるころにチコが入って来た。

「タウ、イータ。お前たちももう一度式をするぞ。」

「は?なんで?」

タウがイヤそうな顔をする。とにかくみんなの前で何かするのがイヤなのだ。とくにアーツ(こいつら)の前で。


「…。」

チコが2人を見つめて言った。

「ご両親が来ている。」


「は?」

「タウ、お前の親が来ている。」




***




小さい会議室でタウの両親と妹、そして2人が何か話し合っていた。


「大丈夫かな…」

みんな心配している。

場面は一気に張り詰める。


下町の少々層が悪い場所で、かつタウの1人住まいに転がり込む形で同居し、自分の親と絶縁状態のイータ。平均的な中間層家庭のタウの両親から見れば、許せる相手ではなかった。しかも今回イータのために、タウは仕事もやめている。


「なんで分かったんだろ。」

「イータが連絡していたんだって。」

イータのまじめさに、ハウメアがため息をついた。

「こっそりしちゃえばいいのに。」

そういう現実に向き合ったことのないファイはそう思う。ファイも両親とは疎遠だ。

「…無視できないでしょ。イータの環境も確かに良くないし、だから結婚に反対し続けただけで、それ以外ご両親が何かしたわけでもないし。生まれる前にきちんと報告もいるよ。タウは再就職したからきちんと話すんだって言ってけど。」

「昨日の段階でお父さん、勝手にしろって感じだったみたいよ。」

「そうなんだ…。先、窓から見えたけど、お母さん泣いてた……」

ムギが何とも言えない顔をした。


最後にチコが呼ばれて、サラサと二人個室に入る。10分ぐらい後に、エリスも入って何か話し合っていた。


変な雰囲気の時間が流れる中、西アジアやユラスの女の子が多分二人のために祈っている。

本当に信仰深いんだな…と驚くアーツ。



その後、タウが母を支えて出てきた。みんな気にしないそぶりを見せながらも、一斉に注目する。

タウの妹がイータを支え、父親はエリスと話し合いながら出てきた。


廊下やフロアにいた面々は、結果も分からないし、どう反応していいのか分からない。


そもそも、人生経験値が低すぎる。結婚式とやらを見たこともないメンバーも多いし、もぞもぞするしかない。

「カウスさん、今度一般常識の教育もしてくれませんか…。」

思わず言ってしまうキファ。

「そうですね。サラサに頼みましょう。」

「え、カウスさんも自国の一応貴族みたいなもんでしょ?そういう事習わないの?」

「そういう事から、逃げまくっていましたからねえ…。全て兄任せでした。」

「……。」



少し人の多いところまで来たらタウの母親が止まった。

「あの、皆様。」

急に大きな声になる。


皆様って俺ら?アーツが固まる。


「うちの息子をいつもありがとうございます!」

母親が大声で言い、え!いきなり何を!という感じでタウがたじろく。


「あ、いえいえ。どうってことないです。」

なぜか、たまたまそこにいたファクトが答える。サルガスに頭を叩かれるファクト。世話になっている方である。


「どうかこれからも二人をよろしくお願いいたします!!」

思わずみんな礼をする。


ずっと頭を下げる母親を起こして、チコが笑顔で誘導する。

「行きましょう。」

チコが案内してそのまま近くの聖堂に向かった。


「タウのご両親、そんなに大きくないですね…。」

「なんであのご両親からあの兄妹が生まれるんだろう…。」

タウはもちろん、妹もそれなりに背が高い。




***




新郎が先に入っていく。


「こういう時、すっげー音楽かけたかったんだけれど、先、今日は自粛しろと言われた。」

さみしそうにジェイの横で音響をいじるモア。

「え?何かけるつもりだったの?」

「『黄金のリング』」

プロレスでよく使われるアクション映画のオープニングである。

「え、それめっちゃ残念。」

音響部屋まで移動したファクト、実に残念そうだ。


聖堂はそこそこ広いが、人が多過ぎてみんな入りきらない。大房からダンスチームやその他の下町の面々も来ていた。しかも、南海の人たちも入り混じって、身内だけのはずが何だかすごい人になってしまった。

ソアとベイドの両親や家族も来ていた。思いっきり手を振ってあちらは雰囲気が明るい。


音楽が流れ、イータとソアが父と入場すると、大きな拍手が沸き起こった。


父親がそれぞれ花嫁2人を牧師の前の新郎まで案内する。イータの手を引いたのは、タウの父だった。


「そっか、仲直りしたんだ。」

「子供までいるからね。」

「よかった。」

響が安心して笑った。


この中のけっこうなメンバーは、両親に愛されるという事がよく分からなかったし、親が亡くなっていたり、離れ離れになったままだ。とても不思議な感じがする。


父親から新婦を受け取ると、ソアの親父(おやじ)が泣き出した。それなのに周りにピースするベイド。

タウもイータの手を取って笑った。そして、父親に礼をした。


エリスが祝福をし、誓いを上げて指輪を交わしている間、しばらく厳粛な雰囲気になる。


タウたちは指輪はしないので細めのバングル。

そしてベイドはソアの口に、タウはイータのおでこにキスをした。


大きな拍手や歓声が起こり、口笛が鳴る。


「みんな、幸せを祈っています。」

エリスが4人にもう一度祝福を贈った。



「イータきれい。」

「ムギはお嫁に行かないでずっとここにいてね。」

ムギに寄り添っていた響が言う。

「ムギがいなくなったらさみしいもん。」

ちょっと泣きそうな響。

「大丈夫!結婚しないから。」

何を言わせるんだと、横で見ているハウメアである。


「おいでー!写真撮ろー!!」

記念写真を撮っているが、タウは数枚撮って逃げる。後は花嫁2人を中心に撮影会場になってしまった。家族写真の後は、ほとんど女子と明るいベイドソア親族の独壇場になってしまった。


チコ、サルガス、カウスなど大人組は後ろで見ている。

「お前はどうするんだ?」

「は?何が?」

いきなりチコが言うので、サルガスが聞く。

「もうけっこう歳だろ。」

「え?まだ25だけど。」

「あれ?そうだっけ?老けてるから。」

「失礼だな…。」

アーツでいろいろあり過ぎたせいで、普段覚えていることも吹っ飛ぶチコ。

「まあ、ユラスだったらもう子供が2、3人くらいいてもおかしくない歳だけどな。」

ユラスは子だくさんなのである。



「では新郎新婦。退場いたします!」


写真ですっかり砕けてきた雰囲気。


「もういいっしょ。」

と言って、退場の音楽に『黄金のリング』を掛けたのは、ファクトであった。ソアが音楽に合わせてガッツポーズをするノリの良さだが、タウは退場なんてなくてもいいだろと疲れ切っていた。普通にここから出ればいい。


それは入場曲だからいいのにっ。…今度絶対こいつを音響部屋に入れない!

と、悔しがりながら決意するモアであった。




***




この後の宴会場、なぜかレストラン外の近辺にもたくさん料理が準備され、明るい南海人が勝手に祝っている。


そして、タウのお父さんは既に出来上がっていた。


「全然言う事を聞かなくて、全然思い通りにいかなくて、本当にかわいくない子供だった!!」

タウのことである。

「全然自分の子という雰囲気がしなくて!勝手に危ないことも始めるし!似てないし!」

確かに顔も性格も似ていない。危ないことはしなさそうなお父さんだ。

「お父様、お気持ち分かります。」

隣りであれこれタウを上回るタウっぽい男、イオニアが宥めている。


「そうかな。言う事聞かないところ、そっくりだけど。」

タウ母こと奥様がその横でぼやく。

「ははは。ウチはママの方が全然言う事を聞かなくて。ソアがそっくりだよ!」

ソア父は横で大笑いしている。


イオニアがパパママ軍団につかまっているので、近くにいるわけではないが、響は彼の視界に入る位置にある料理をこそっと取りに行く。

しかしイオニアは目ざといのだ。

「あ!響先生!お父様、ちょっと失礼します!」


「響せんせーい!」

ビクッとする響。


焦って知り合いを見付けようとする響。この辺は男子が多く座っていたので、1人モバイルをいじっていたタラゼドを見付けてその後ろに隠れた。

「…。」

状況がよく分からないタラゼド。


「せんせーい!」

タラゼドの前まで来たイオニアに、タラゼドの横の席で顔を隠している響。不自然過ぎるし、タラゼドが言っておく。

「響さん。何してるの?イオニア呼んでるよ。」

「…あのねえ。かばってよ!状況が分からないの?」

分かるわけがない。


響の前まで来てしゃがみこんで顔を覗くイオニア。

「絶対無理です。」

と、響が言うと、タラゼドが響の目の少し前を覆って、

「話したくないんだって。」

と、イオニアに言った。

イオニアは、はあ?という顔をするが、その隙に響はあちこち見て一目散に逃げて行った。

響が行ってしまうと、イオニアも去っていった。


その様子を見ていたリーブラ。

「本当に面白くない!盛り上がって、上がって上がって上がりきる前にいつも下げる!タラゼド阿保!ばか!」

「さほど上がってないし、盛り上がらなくていいよ。」

横で言うシグマに襲い掛かるリーブラ。

「あんたが盛り上げなよ!あんたの役目でしょ!」


そして、チコは怒る。

「なんで響があれこれモテるんだ?!おかしい、響は今までそういう事はなかった…。」

「いや、見た感じ、タラゼドは巻き込まれただけですけど。響さん好きなのはイオニアだけです。」

ヴァーゴが訂正する。



そうして、今日の宴も過ぎていくのだった。




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