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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第五章 再起動

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72 宴Ⅱ



「みなさーん!お手元にグラスはありますかーー!」


周りがグラスやコップをかざす。

「では、6カ月の終了を祝ってーーー

カンパーーーーイ!!!」


エリスのあいさつと祈りの後、シグマの音頭と共にみんなの声が響き、拍手が起こる。



あの花札じじいの元で宴会をするのは癪だったが、現在南海で経営している中で一番店内が広い。なぜか藤湾に昼来た関係者たちも続々訪れたので、他の店にも料理の手助けを頼んだ。結果、近隣店も儲けることができたのでよかったとも言える。


「お前らたくさん食えよ!」

「札束数えんなよ。」

花札じいさんにキファが突っかかる。

「私のお金なんですけど!」

カウスが半泣きだ。

「奥さんに叱られまくって下さい!」

今回最初の注文分をカウスが支払う事で、全部チャラになった。賭けにお金が動いたとなるとうるさく言われるので、認識的には賭けとは別の上司のタダの奢りという事になっている。


「はい!注目してください!」

サラサがみんなを注目させる。


「皆さん半年間お疲れさまでした。」

拍手が起こる。



「いくつか連絡事項がありまして……


アーツ第2チーム準備が既に動き始めています!」



「は?」

何のことだと思う一同。でも、リーダーや班長は先に知っている。


今回のメンバーにまだ言っていないが、主に団体組織から就職先などスカウトが来ている。一定の評価を受けたという事だ。区長や自治会長と大房の一部の立て直しも検討中だ。


そしてベガスにもVEGAにも目論見があった。


アーツは、大きくはカストルとチコ、エリスの個人の責任範囲で動いている。

修了生も、一旦アーツ在籍という事でベガス内で自由に学べる。つまりアーツ所属なので、今のところ他からの命令で勝手にベガス構築に関して派遣命令などは出せない。あくまでアーツを通しての派遣だ。ここにはユラスの官位持ちもいるが、ユラス人でもないのでユラス上官の命令にハイハイ従う義理もない。つまり、勝手な海外派遣もできない。


「アンタレス内にベガスで働く安定人材がたくさん確保できるかも!」という、事務局たっての願いである。アーツ、どこまで使えるか分からないが、それなりにできる仕事もあると判断。

カウスたちが育てたユラス人の有能な部下たちは、かなりの数が海外に散ってしまったらしいし、おかげで休みも取れないのだ。


「フフフ…。ハハハハ…。」

普段、冷静沈着なサラサの笑いが止まらない。良からぬことを考えているのだろうと悟る一同。



「そして、第2弾チームのリーダーにシャウラを迎えます!!」

というと、シャラウが礼をして、拍手が起こるがアーツ陣は驚きだ。

やっべー。アストロアーツの店長を押し付けて、シャウラ放置しまくってたからな、と気まずい。大房アーツは怒ったシャウラにも頭が上がらない。


「今回は通いという形も含めていきます。本当は全員そろって完全キャンプ型にしたいのですが、そこまでできませんので、通いでもあなた方と同じ生活条件を保てることを約束しています。そういう意味では皆さんよりも大変かもしれません。」

つまり、お酒、たばこ、クスリ、性関係…この期間は全部なしだ。

外と接していれば誘惑も多いだろう。



しかし接近格闘術などを現、元軍人に教えてもらえる機会などないので、シャウラは絶対参加したかった。新規メンバーとして、主にシャウラの周りにいたメンバーも参加するらしい。紹介されてきた様々な希望者や、噂を聞きつけて来た者などの中で、面談をクリアした者が集まった。


「それから……リゲル!」

「あ、はい!」

急いでリゲルが立ち上がる。


「リゲルが高校卒業しました!!!」


「は?」

ファクトが戦慄する。

「…卒業?」


そう、半年後に高校を卒業したのはファクトではなくリゲルだった。ここでも拍手が起こる。

いつも控えめなのに、ファクトに向かってピースするリゲル。

「マジかーーー!!!!」

驚きまくるファクトだが、

「でも、卒業したら進路決めなきゃダメじゃん。」

と、卒業しない利点をいち早く見出し、前向きになる。正しくは、進路は卒業前に決めるものであるが。

「お前、本当にいい気に生きてるな。」

ジェイがファクトの性格の恐ろしさを知る。ジェイも人のことを言えたものではないが、ファクトは世間の希望の星である。こいつは真っ当な道を生きていけるのか?


それだけ話してサラサは席に座った。






「酒飲みてーのに!」

アーツ第2弾も酒は禁止。よって酒はこの場でまた禁止になってしまったのだが、ああいう奴のために酒の場にしないんだな、と納得するアーツ。


というのも、酒も入っていないのにめっちゃ女性を口説いている恐れ知らずの奴がいる。


イオニアだ。


超端っこの方で、細々とムギとピザを食べていた響に絡むバカ。

アーツ第1弾の唯一の有名大出身者である。


「えー。じゃあ響さんどこから来たのー?蛍惑(けいわく)?名前しか知らない。何がおいしいの?遊びに行こうよ。」

超引いている響と、明らかに怒っているムギ。蛍惑はそれなりに有名な地方都市だ。イオニアなら知っているだろう。

「ちょっと、あっち行ってよ!響に触らないで!」

「触ってない。ムギちゃんも固いなー。いつまで経ってもお姉さんに彼氏もできないよ。」

「要らない!!お前みたいなのいらない!!」


妄想CDチーム、そして生真面目に生きてきたユラスの学生が呆然と見ている。

「あれが、ナンパか。スゲーな。」

「ナンパをするという場に初めて遭遇した。」

「僕、あんな風によく知りもしない女性に話掛けられないよ。」


大人組も騒いでいる。

「つーか、イオニアどうしたんだ。」

「溜め過ぎたのか?」

「あいつ絶対生きてここから出られないな。」

「マジ酒はだめだわ。イオニア酒に弱いから、飲んでたらあのまま連れていきそうだな。」

連れて行っても会話もできないほど寝込んでしまうだけだが。

「大丈夫。その前にハウメアか蛍が叩きのめすから安心して。」

「すげーな。第1落城者はイオニアか。」

「違う、あれは自ら落ちていっている。」

「シグマより先にああなるとは。」


タラゼド、シグマも呆れる。



その時ムギたちに一番近い扉から、チコが入って来た。


「よう、イオニア。私と飲むか?お茶だけど。」

ザッと青くなるイオニア。


「チコ!一緒に食べよ!」

響が言うと、響側でなくイオニア側にチコが座った。

「いい度胸だな。」

「チコさんみたいな生き方をしていると、そういうセリフいっぱい吐きそうですね!」

「楽しそうだな。」

「楽しいです!」

「……」

チコが笑ったまま固まって、その後頭を抱えている。


「あ、チコさんが負けた。」

「イオニアが今日一番の勝者とは。」


響も固まっている。


「お前来い。」

チコに引きずられて、サルガスに近い席に来るイオニア。

「バイバーイ!」

ムギがうれしそうだ。


今度はチコと二人で話し始める。

「響はお前が思っているような女じゃないからな?」

「…爆弾抱えてんすか?」

「……」

考えるチコ。

「…いや、かわいい。」

「でしょ?!かわいいっしょっ!」


言いたかったことが分からなくなって考えているチコ。

「…あ!手!手出すなよ!軽く手、出すなっ。」

「軽く出しません。重厚な思いですし、唾つけとくだけです。」

「唾もつけんな!」

「じゃあ、見つめるだけにします!」


「………。」

次の言葉が出てこないチコ。



「何か知らんが、イオニアがチコさんを制した。」

みんながイオニアに感嘆を送る。


遠くから呆れるムギ。

「本当に何考えてんだろ、あいつ!」

距離を置きたい響は、アーツ大人組やタラゼドとも目が合って、思わず顔を逸らし近くのユラスの学生たちに話しかけた。


「期間中はほとんどそういう空気が視えなかったんですけどね。」

カウス、サラサがため息をつく。

「まあ、コソコソされるよりは分かり易くていいじゃないですか。今のところ、自制は効いていますよ。憑りつかれてはいません。」

「あれで自制できてるんですか?」

響はユラス人でも移民でも移民学生でもなく、成人している部外者なので口を出しにくい。


そして、今言いたかったことを思い出すチコ。

「あ!」

今度は何だと思う周囲。

「響はそれなりにいいところのお嬢様だからな。」

父の実家が地方の名家というだけであるが、母の家は大きめの自営業だ。それなりに田舎の。

「お前とは絶対合わない!」

「ウチも母方の祖母が茶道の師範です!家は自営業!めっちゃ気が合う!」

「………」

本当に言い返す言葉がない。


「…とにかくだめだ!」

「なんでチコさんが口出すんすか。親父(おやじ)っすか!」

「親父の代わりだ!」


「……」

「………お父様!!」


チコの手をガッシリ握るイオニア。

「娘さんに真剣交際を申し込みます!」

「うわ!離せ!気持ちわるっ!!」

イオニアの手を振り払うチコ。

「私に言うな!」

「え、じゃあ直接言う。」


「やめろ!このバカ!」


コソコソと食堂を後にする響。



イオニア強すぎる…と思うアーツ。


今日の勝利の全てをかっさらっていたイオニアであった。




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