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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第五章 再起動

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69 ファクトVSカーフ



「私は…やめておきます。」

ひるむカーフ。

「は?命令だ。」

チコが真顔だ。


「ファクトにはサイコスを許可する。カーフは防御ならいいぞ。」

「………。」

カーフが何とも言えない顔をしている。


「ファクトもいいだろ?」

チコに言われても、ファクトも分からない。強いのだろうけれど、どれほどなのかも知らない。

「相手になるか分かんないけれど…。」


カーフがカストルを見ると、彼も頷いたので仕方なしにため息をついた。

「分かりました。」


カーフは長い髪を結い直している。


「髪を結い上げるイケメン、かわ…ウグ!」

いつものセリフを言いかけて、ファイはイータに口を押えられ防御される。

「男子がげんなりしているからやめなさい。かわいいけど。」

男にかわいいという神経が信じられないし嫌悪しかない下町男子ズと、歳をとると何でもかわいく見えるんだなーと改めて思う女子たち。


「はあ、ヘッドギアをはめないで。なびく髪が見たいのに…。」

まだ言うのかと、さすがのリーブラも呆れる。リーブラにとって、婚活対象外は魅力対象外でもあった。そもそもカーフは、かわいくはない。



カーフには衝撃が緩和されるグローブが渡される。本人はまだ困り顔だ。


「ファクト、気ぃ抜くなよ。」

カウスがやって来てアドバイスをする。

「実践なら、あの長い髪を引っ張って終わりなんだがな。」

物騒なことを言うなと、聴こえていた観衆が震える。普通髪を引っ張ったくらいで終わらない。一体それで何が終わるんだ。



「では、双方前に。」


周りに礼をして、フロア真ん中に向かい二人が握手をすると拍手が起こる。一般の人にはレサトが取っつきにくいタイプだろうが、ファクトはカーフの方が苦手だ。


ムギは気を取り直し、床に座って響と一緒に二人を見る。

シャムだけでなく、レサトも起き上がって椅子に座った。


「強いの?あいつ?」

シャウラがサルガスに聞く。

「さあ?強いとは思うけれど。」

特警たちやカウス同僚も黙って眺めていた。


マリアスが号令を出す。スタートだ。



「ファイト…

GOーー!!」




お互い構えで様子を見合う。


試しにファクトが手を出してみると、向こうも軽く受ける。全力で戦う気はないなとファクトは感じ取った。アーツは藤湾のリーダーサイドの格闘術を知らない。彼らからはサイコスの訓練しか受けていないからだ。


何度か打ち合い、外目(そとめ)には激しく見えるが軽くかわされている。

「あいつら、何遊んでんだ?」

呆れるチコ。


精神的に激しい打ち合いではないが、ファクトとしては手を抜いているわけでもない。何度か打ち込まれて振動は来る。


そこでカーフに思いっきりダン!と横蹴りを食らった。

「ガッ!」

と、声が出て床に倒れそうになる。


「有効!」


どうにか持ちこたえて、また様子見の打ち合いになる。


ファクトはイライラしていた。

なんだ、この生ぬるいの。必死ではあるが撃ち応えがない。カーフも打撃を食らってはいるが、何だろう。この手応えのなさ。そこまで手を抜いているわけでもないのに。

腕でガードするも、カーフに顔側面に蹴りを入れられる。


「一本ーー!!」


オオーーーーー!!!と歓声が上がった。

なんかムカつく。めっちゃムカつく。


イライラは一気にムカつきから怒りに変わった。

そしてここで、ファクトの超得意技が活かされる。


感情が顔に出ない。出ないというより、ぽけーと生きてきたこの人生。比較的穏やかな性格のためそういう感情がよく分からない。なのでカーフも気が付かなかった。


ファクトの超絶なイライラを。



一気に間合いを詰めるファクト。

カーフは受けて打つつもりでいたが、一瞬ファクト側から円形の光が走った。


バジン!!

と音がしてカーフが弾かれる。その隙に後ろ回し蹴りでカーフを床に叩きつけた。


ダズッッ!

と音がして、床のマットがよれるほどの衝撃が来た。

オオオオオーーーーー!!!!!!!!

とみんなが注目する中、ファクトは容赦なかった。



その上にジャンプからの…


エルボー・ドロップをくらわす。


ズダンっ!!!!

と音がした。

「ひい!!!」

一部ギャラリーが目を背ける。


マリアス、思わず変な判定を下してしまう。

「二本ーーーー!!!」


ウウォォォォォーーーーー!!!!!!!!!


「エルボーキターーー!!!!!!!」

と、男性陣を中心に大盛り上がりである。

「あ、一本を2本という事で!」

マリアスが訂正した。そんなのあるのか。二発目はなしでは?


止めてくれよ、と思うハウメア。


「おー、あいつもやるな!」

「でも大丈夫か?」



分かる人々は気が付いていた。


今、少し肘が入っていたよな…?

肘は危険すぎる…。ファクトは素人なので、エルボー・ドロップで肘を使うことが、反則というか危険という事をよく分かっていないのか。展開が早く、一瞬死角になって分からなかったマリアスが、周りの指示で状況に気が付いた。

「やめ!」


ファクトとしては、肘をずらしたつもりだが、うまくいかず肘も少し入ってしまったというのが本音である。


「カーフ大丈夫か?やめさせるか?」

と、大人たちが動き出す。

「ファクト、少し待て…」

と、構えたままのファクトを制してマリアスがカーフに近付いた時…


ズダン!と反動を付けてカーフが起き上がり、すぐ構えた。

うお!と、驚く場内。


マリアスは様子を見ながら号令をする。

「始め!」


そしてギャラリーの下町ズは見てしまった。



ヘッドギアの奥で据わった目をしているカーフを。


あの目はヤバい。


俺たちはあの目を知っている。



カーフが下町ズの方に顔を向いていたのが致命傷である。アーツにはそういう危険を見抜く力が備わってしまっていた。


カーフは完全に攻撃を脚に切り替え、一気に何発か蹴り上げる。先と衝撃が違う。マリアスがポイントを入れずにそのまま試合を流す。ファクトが倒れたところでカーフがファクトの首から顎を持ち上げ拳を振り上げそうになった時………



キターーーーーーー!!!!!!

ヤバい奴!!


男子下町ズ、さらに大盛り上がりである。



今までの拳と握り方が完全に違う。カウス同僚たちが騒めいて立ち上がった時…


「終了ーー!!!」

と、マリアスが止めた。

「カーフ勝利ーー!!!!」


ワーーーーー!!!!!!と場内に声が響く。



「え?なんで終わっちゃったの?マリアスでも止めるの?」

ファイがハテナで一杯だ。打ち込むこともなく、一見、生ぬるい終わり方をしてしまった。

「先、判定がなかったけれど、蹴りがすごかったからじゃない?既にポイントだらけでしょ。」

リーブラが頑張って答えた。


起き上がれないファクトをマリアスが支え起こす。

「立てるか?」

「あ、うん。自分で立てる…。」

「カーフは?」

「あ…、立てます。」


2人は礼をしたくさんの歓声を受けるがすぐにヘッドギアを外せず、それぞれ椅子に座って周りに外してもらった。エリスがカーフに向かい、プロテクターを外して声を掛けて胸部、腹部に手をかざしている。


「あいつ派手にやったな…。」

エリスがぼやく。

「ハハ…。油断しました。」

やっと笑えたカーフ。


ファクトは電気伝導の指導でも、電気溜まりを飛ばすだけで、1か所に集中させて弾かせる技など今までしていなかった。チコもそんなことができると考えていなかったので、カーフの元に駆け寄る。


「カーフ。すまん。まさかファクトからあんな技が出るなんて…。見誤った…。」

「大丈夫です…」

「エリス、痕にならないか?」

チコが不安そうに言う。

「まあ、大丈夫でしょう。火傷する感じではありません。」

「ちょっと、大きめにバリっときた感じです。光のわりには威力はなかったです。」

「腹を見せろ。肘が入ったところは?」

「大丈夫です。」



「………。」

呆然とカーフの方を見るファクト。


目が合うとカーフが手を振ったので、振り返しておく。そんなにひどかったのか?大丈夫かな?と。


そして、みんなが近寄って来た。

「おー!!ファクト、がんばったな!」

「お前、まさかあいつにエルボー食らわすとは!サイコーだ!!」

下町ズのファクトの株が上がりまくりである。リゲルも来た。

「先の蹴り、痣になるぞ。多分。

あいつヤバいな。試合じゃなかったら殺られる系だ。」

クルバトたちも興奮気味である。

「あいつ殺す気だったぞ。」

「でも一気に親近感湧いたよな!離れて見る分には!」

「完璧な優等生かと思ったら、完璧にイカれた男だ!!あいつ!」

「あ、うん…」

最後に入れようとしていた拳は明らかに危険技だった。まともに受けたら歯の数本は折れていただろう。



「チコさんいいな!イケメンのお腹見てる!やっぱり髪上げてるイケメンも最高!」

もう何も言いたくないリーブラとしゃべり続けるファイ。


響は何も言わないムギの背中を優しくなでてあげた。まだふくれっ面をしている。




その後アーツではこんな噂が流れる。


いつもニコニコしている奴ヤバい。

名前頭に『カ』のつく奴ヤバいと。



そして、妄想CDチームに、新たな心の友として加わったカーフであった。




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