63 私たちの光
「くそぉ…」
検索に夢中になっているムギに、髪にオイルを擦り込みながらファイが呼びかける。
「ムギちゃん、諦めなよ。クソなんて言っちゃだめだよ。ファクトみたいになるよ。155センチあれば十分だよ。私150センチだったよ。この前。」
「あー。ハウメアや蛍はいいな…。」
背が高い2人をうらやましく見る。
「ホルモン治療ってあるよ。甲状腺てなんだろう?」
「やめなさいってば。なんにもしなくていいよ。」
イータも止める。
一気に背が伸びて来たファクトが許せない。
「私…チコくらい大きくなると思ていたのに……」
「ムギちゃん大丈夫!これから胸や腰の方が大きくなるから!背だってまだ分からないよ。」
リーブラが言うが、このまま育ってもリーブラのようにはならないだろう。骨格も肉付きも違う。それに胸や腰よりムギは背と筋肉がほしかった。頭を机に付けて呻いている。
「大丈夫、大丈夫!ファクトはまだ頭の方はお子様だから!精神的成長で勝てばいいよ!」
「技…。」
「…技で勝てばいい…。」
突然ムギがガバっと頭を起こす。
「ちょっとムギ!座りなさい!」
今度は呼び捨てで怒るリーブラ。
「技でねじ伏せる!ファクトはまだ、組んだら外せないし!」
今まで身に付かないとそこまで力を入れないなかったけれど、サイコスももう少し高めようと決心するも、背中を叩かれてもう一度座るムギ。
「『技』って何?いい感じの?ムギからなら私が受けたい!男なんかにはもったいない!」
きらめくファイ。
「あんた本当にやめなさいってば。」
萌えるファイにリーブラが呆れる。
ムギは、皆が引くような少数民族の下世話な習慣にも詳しく、難民やスラムや裏街の女性子供も保護もしてきたため、風習、犯罪や事件性のある性事情にはやたら詳しかったが、反面普通の下ネタを全然理解していない。どれも中学生にする話ではないのだが。
チコを怒らせても怖いので、一応リーブラの良心があらゆることをとがめるのだ。
そしてチコが、ムギの貞操や「いい相手」に必死になるのも分かる。ステキな人と幸せになってほしい…。生意気な中学生だが、大人にとっては世俗から守ってあげたい、世間知らずのかわいい妹なのである。
いろんなお話をムギとするのは18歳になるか結婚するまで我慢だわ、と訳の分からないことを思っているのは内緒だが、リーブラ、ファイの心の声は、駄々洩れなのでみんな知っている。
「よし!サイコスも訓練しよう。」
ムギがその場で右の肘上を掴み、右手のひらに集中する。
何も出ないが、ハウメアも集中して横から手をかざすと少しだけムギの右腕を白い光が上がってくる。ハウメアの力を点火材にしてムギの中のサイコスを誘導しようと思ったのだ。見えるメンバーには、体の内部から腕の中にもその揺れが流れてきているのが分かる。
「わあ!」
リーブラとファイが思わず漏らす。
玉を作りたい。
でも、2分ほど耐えるがスーっと消えていった。薄っすら光っても維持はできないし電気も感じない程度だ。
はあ、はあ…
ムギは息切れをする。
「……ハウメアは…この前習いだして、もう使えるんだね……」
「それぞれあるよ。」
辛そうに言うムギを優しく励ました。
***
ミラの道場。
みんながカーフに注目する。
カーフが掌を出すと、手の周りに半径30センチほどの青白い光の輪ができパンとはじけた。
おーーー!!
歓声が起こる。
「電気溜まりをこんな感じで弾けさせられます。」
「すげー。これでファクトのコントロールと合わせれば、気功砲とかできそうだな。」
妄想CDチームは技の名前と妄想バリエーションを考える。
ファクトは思い出す。チコがコマちゃんに使っていたのだ。チコの光はもっとブワーと出て白と紫やピンクっぽかった。
もう一度カーフが同じものを出す。カーフにも同じものがあるのかと目を凝らすが今のところ見えない。
ファクトが何気なく青白い輪に自分で出した白い光を投げると、不思議な動きをして融合し軽く弾けた。
「うわ!」
痛みはないも、思いがけない光の登場にカーフが不意打ちを食らう。
「危ないだろ!」
藤湾の学生が驚く。
「あ、ごめん。きれいだなーと思って。なんとなく。」
「大丈夫だ。そんなに強くないから。」
カーフが宥めだ。
「てか、それは何なんだ?」
高校生が騒ぎ教官や先生たちも、「ほー」と言いながら感心する。
レサトたちとの居残り訓練で、アレンジして使えるようになった技だから周りは初めて見る。電気溜まりが勝手に手から離れてしまうので必死になっているうちに得た技だ。どうせ離れてしまうなら投げればいいという感じだ。
妄想CDチームは言い合う。
「あれって、ヒュージョンだよ!ヤバいよ!」
「真ん中に光があればエッジオン銀河かな?」
「違うよ。周りで光が回ってたから巨大ブラックホール?」
「命名『ギャラクシー・エレクトロニック』だな。」
「長げーよ。」
「はい!」
シグマが挙手する。
「どうぞ。」
「それって敢えて自分で受けたらどうなるんですか?」
カーフが考える。
「考えているイケメンかわいい。」
「マジやめろ。ファイ。」
男どもはげんなりだ。
「…。ビリってくるかな?弱いと電気治療にもなるし…。やけどする場合もあります。」
治療になるんか。
「強さによっては雷並みになりますが、そんなことできる人はまだほぼいません。それに現在この使い道は、回路を破壊したり狂わせることです。レベルが高いと、相手に対しある程度の操作もできます。」
「へー。」
みんな感心する。どのみち絶対電気は受けたくない。
「後は応用ですね。ファクトのように飛ばしたりすることで自分が受けないようにしたり。でも、まだ汎用な力ではないですが、10年20年後の人間はどんどん当たり前に使えるようになりますよ。」
そして思い出したように言う。
「あ、この技を使える唯一のニューロスがSR社のヒューマノイドです。レーザーや磁場のようなもので攻撃などするものは昔からありますが、そうではなく人間と似た作用で作り出すそうです。」
最後に付け加える。
「慣れるとそこまで意識しないので忘れてしまうけれど、霊性と違うのは物理的力が大きいという事。電気になる媒体がないと反応も小さくなります。でもこの力を動力にして動かす義体などもあります。」
その後、できる人間と、できない人間が組んで訓練をする。
「ファクト、先の飛ばすの教えてほしいんだけれど。」
カーフがやって来た。あまり個人で話したことがないのでびっくりする。最初はファクト君というので「ファクトにしてくれ」と言っておいたばかりだ。
「合気道とか、太極拳とかしていると多分入りやすいかも。してたことある?」
「…ないな…。」
「『気』でコントロールするんだよ。」
「『気』?」
本当は勝手に球が飛んで行ってしまっただけであるが、偉そうに答える。
コントロールできないので飛んでいるだけだが説明が分からないので、気でコントロールしたことにしておいた。
先のヒュージョンは電気同士引き合ったのだろうか。だとすると、カーフとは普段出す電気の質が自分と違うのだろう。
「ふーん。おもしろいな。」
合気道など調べてカーフが動画を見入っている。
そこに遅れてレサトが出てきた。
「あ!レサト君!先ヒュージョンが起こったよ!」
「ギャラクシー・エレクトロニックだ!」
「はあ?何言ってんだ。」
みんなうるさい。
「融合した。」
ファクトがピースをする。
「あ?」
「クソばっかしてるからいいところ見逃すんだよ。1日何回してるんだ。」
さぼり過ぎのレサトをジリが責める。
しかし本当に藤湾のこいつらはムカつく。
ファクトが電気溜まりをコントロールしているのを見て、カーフはその場で覚えてしまった。ファクトの説明が下手くそだったので、もう一度してほしいと頼む。すると数回見て、気と電気の流れを覚えてあっという間にコントロールしているのだ。ユラスは元々八徳や五行思想に近い物があるので東洋に繋がるだろうか。
この前まで手から球が5センチ以上離れなかったレサトも、両手から出して使いこなしていた。
「……。」
本当にこいつらは何なんだ。




