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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第五章 再起動

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59 おかえり、そして



その日のベガスは大騒動だった。


午後のベガスミラでの講義に前に、一同が藤湾の講堂に集められる。最初の20分はアーツだけ早く集められたのだが、高校生たちの中には早めに来て、後ろの方に座っている者も多くいた。


1人の講師が号令をした後、別の講師が現れる。

その知った姿にアーツ一同はあんぐりしてしまう。


「えーと、皆さんお久しぶりです。」

「は?」


迷彩は着ていないがメカニック対応のサイテニックの様な格好。一見普通の人に見えながらも非常に体格のいい男。事実上、爽やかお兄さんの名称を剥奪されてしまった人物。


カウスである。


「おおおーーーーー!!!!!」

アーツの盛り上がりに、高校生たちも何事かと驚く。


遂に来たのか!

生きていたのか!!

「カウスさーん!おかえりなさーい!!」

リーブラが手を振る。

「皆さんご歓迎ありがとうございます。」

と言うと、ものすごいブーイングも起こる。


たじろくカウスと高校生たち。


「俺らがプラス10周走ったつーの!」

「何が有給代休消化だ!それは負けを遂行したとは言えない!」


後部席にいた学生たちがファクトたちのところに来た。

「もしかして、あれがカウス様ですか?」

「え?そうだよ。知らないの?」

「実物をこんなに近くで見たことはないです。思ったより柔らかい雰囲気の方ですね。」

近辺にいたアーツメンバーは思う。そんなレアキャラなのか。

皆様の方がレアっぽいのに、カウスの方がレアなのか。姿も知らないとかどういうことだ。



「初めての方もいますね。カウスと言います。よろしくお願いいたします。アーツの世話役、指導役です。」

「勝手に休んでエリスさんやチコさんは怒っていなかったんですか?」

「総師長やエリスにはきちんとご挨拶してきましたよ。それなりに叱られたりしました。はい。」

「チコさんは?」


「まだ会っていません!」


この答えにみんな一斉に固まる。


「は?チコさんに会う前にこっちに来た??」

「それは許されることなのか?」

「いやー。分かりませんけれど、なんとなくこっちに来ました。」


なんとなくじゃなーい!!


誰もがそう思う。学校を無断でさぼった教師が、校長室で謝ったからと言って、学年主任や同僚に謝罪をする前に生徒の前に出るとは。昼休みなので余裕はあるだろ。


「怖いじゃないですか。皆さん守ってください。」

守ってじゃない!でも、悪いことをした自覚はあるのか。


「なんか思ってた人と違うな。」

レサトがつぶやく。

「レサトも知らないの?」

「遠目でしか見たことがない。」


めっちゃレアだな。


「ふざけんな!」

アーツの面々がカウスにこれまでのイライラをぶつける。

「俺ら乳酸出過ぎて死にそうだったのに!」

「たった200メートル10周でですか?」

「基礎トレ3キロに追加だ!」

「カウスさんにそれを言う権利はない!」

「怒らないでください。私も今日から10周走りますから。」

「カウスさんならハーフマラソンくらい走らないと意味ないっしょ!」

「末の皆さんより一回り年寄りなので無理言わないでください。」


またブーイングが起き、藤湾生徒たちが戸惑っている。

そこでヴァーゴが言った。

「まずチコさんに挨拶してきてください!」

拍手が起こる。

「え?イヤです。ストレートどころかリンチを食らいます。」

「頑張れカウス!」

シグマが言うと、カウスコールが起きる。


カウス!カウス!カウス!!!カウス!!


このノリに付いていけない高校生ズ。


「皆さん!」

カウスが教壇を叩いて一旦アーツを制す。

みんな静かになって聴き入る。


「総長は明後日まで留守です!!」


この日を狙ったのか!と思う下町ズ。

「ズルすぎる。」

「賭け分、他の方法で埋めてください!」

「でも…総長にお土産は持ってきました!」

お土産?

菓子か?オミクロン族の置物でも買って来たのか?熊の彫り物だろうか。


みんな声もない。


「はい!俺にもお土産ありますか!」

また、ファクトが余計なことを言う。


「あ、これ。あと3丁ほど持って来たので今度練習しましょう。」

カウスが腰から物騒な銃を出す。

「これ、いろいろぶち抜けるしモードを変えるとスタンガンぐらいにもなります。慣れていないと、操作がいろいろあるので…。」


いいのか、学校内にそんなもの持ち込んで。

しーんとしている講堂内に気付いて銃をしまったカウスが弁明する。


「大丈夫ですよ。ちゃんと許可を得て入管も通して入国してますので。違法では無いです。」

そういう問題ではない。

「あ!高校生大学生の皆さん!」

学生もいることを思い出したカウス。

「披露したことは黙っていてくださいね!」

この時点ではみんな知らないことだが、カウスは職業上、ベガス内どこでも武器の持ち込みが許可されている。みんなに披露していいのかどうかは別として。


「めっちゃよさそうだな!あれならまた何かあっても対処できそう。この前のニューロスは焦った。」

ファクトが楽しそうだ。

「…でも、ニューロス相手ならまだしも、あんなのはいやだな。」

意外にもレサトがそんなことを言うので驚く。でも確かに、相手がサイボーグや人間だったらどうするのだろうか。そもそもこの東アジア、アンタレスでこんなことが起こりえるのだろうか。テロに近い行為があること自体異常なことなのだ。

ファクトは少し考えこんだ。




「はい!そこまで!」

全ての流れを止めたのはサラサ。


「今日特別な会合のないリーダーはカウスと再構成のミーティングをします。藤湾のリーダーも参加したかったら来てください。」

解散、と言おうとしたところで、誰かが部屋に入ってくる。


ダン!


「…。」

チコだ。


「?!」

無言でチコが入って来た。変な緊張が走る。

付き添いか護衛のような人を2人連れていて、チコが入口で制すると講堂内を確認し1人は入り口に、1人は外に出た。


「…。」

みんな黙り込み、サラサも知らなかったのか驚いている。おののくカウス。


サラサは様子を見て全員を座らせた。

「一旦座って下さい。藤湾の学生は用があれば退出していいです。」

こんな普段見ないような場面、出て行く訳がない。ここに集まっている生徒は厳選しているのでサラサもそのままにした。


しかもチコはいつものラフな格好ではなく、この前カーフたちが着ていたような正装の民族衣装の白い服を着ていた。北西地域のロングジャケットにロングブーツ、つきそいも黒で同じような格好をしている。


「やだ!チコさん萌える!」

ファイがハートモードだ。こんな時によくそんなことを考えられるな、と呆れる男子たち。


「あれは何系でしょうか?」

ラムダが反応する。

「ナイト系…近衛?召喚系でもイケそうだ…。」

「複合系…?」

ファクトもひねる。

「カーキだったら最高だな!」

え?っと引く2人。どうしてファクトはアーミー(そこ)から離れられないのだ。



そして、チコは壇上(した)の椅子にドカッと座る。


「カウス、久しぶりだな。」

ニコリともしない。


全員反応のしようがなかった。




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