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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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57 タラゼドVSシグマ



「響、暑苦しい。」

ずっと抱きしめるのでチコが嫌った。

「ふふ、いいのいいいの。私はあったかい。」


「そのお姉さんが通りがかって助かった。」

横でファクトがチコに報告する。


「私、役に立ってた?でも彼らも私のこと助けてくれたんだよ。たばこ臭かったけれど。」

チコをやっと解放して、タラゼドとジェイを見て言うと二人は動揺した。

「え!俺ら禁煙してます!吸ってません!!」

ジェイが慌てて弁解する。

「でもたばこの臭いがするけれど。」

タラゼドは思わず口を覆う。ジェイはそれが霊性で見ているものだと分かったが、なんとなくジェイも口を押えてしまう。

響はちょっとイヤな顔で、

「染み付いているね。」

と言った。


「みんな、響はベガスでのムギの姉替わりだ。ムギ、一緒に寮に帰れ。響も仕事は明日にしろ。」

「どうも、きょうと言います!」

黙っていればミステリアスな雰囲気もあるのに、話すと抜けているお姉さんは手を振った。


「待って、響さんは話が終わってからで。」

警官に止められるが、チコがこの場の警察ボスに何か説明すると、響の聴き取りは免除になった。でもチコ自身は忙しいので二人の時間は取れず残念そうだ。


「久々に会ったから、チコといろいろ話したいのに。」

「私は今は無理だ。こんなことになったから、今の仕事の安全を再確認しないといけない。」

「俺ら試用期間中止とかないですよね?」

せっかく新しいことも覚え軌道に乗って来た。経済クラブや商工会とも話を付けて、新しい仕事や雇用推進など企画している最中なので、アーツのメンバーが不安がる。

「大丈夫。今のところ通常通りだ。」

チコが安心させるように笑った。


「…?」

響が不思議そうに下町ズを見た。

「この子たちがチコの新しい仕事の相手?」

「まあね。」


「またずいぶん今までと雰囲気が違うね。そっちはユラスの子でしょ?」

カーフたちを少し眺めて驚く。

「あ!あのちっちゃかった子たちだ!わー大きくなったのね!」

最後に会ったのは2年前なので、そこまで小さくはないと思う藤湾高校生ズ。大人の感覚なのか、女性の感覚なのか、響がおかしいのか。女性の言う事はよく分からない。




***




「お姉さまサイコー!」

超絶、響を持ち上げているのはリーブラだ。


チコに消灯を守れと言われているが、女子寮は大盛り上がりである。時間まであと30分。この興奮は収まるのだろうか。


アーツ女子も集まってムギたちの家で歓迎会アンドお帰り会である。ムギのお土産に加え、響もあれこれたくさん買ってきている。


「お姉さま、漢方医でもあるんですねー!待ってました!」

「薬剤師手前みたいな感じで医者でも何でもないけれど。今、薬剤師の国家試験のために勉強しているところ。医学部のオスキーもパスしたんだけどね。」

「オスキー?すごい!とにかく、頼りになりそう!」

ユラスの質の高いオイルを手掛けたいリーブラはそれでもうれしい。内戦で荒れた地に、再びバラや木の実の栽培が始まったユラス。強力な相談相手ができた。


「私、試用期間が終わったらお姉さまの講義に参加しまーす!」

響は大学や病院に通いながらも、様々な講習を務め、ミラの高校や大学でも講師をするために来ていた。この2年、実際は1年半ほどだが、新しい勉強や仕入れのために研修で病院に入りながら、他の大陸やアジア都市を回っていた。


「ムギも大きくなったんだね~!」

ムギを抱きしめて楽しそうな響。

「響、やめてってば。」

過度な接触に慣れていないムギ。


蛍の両手も握る。

「時間が取れる時は、温治療してあげるから!陶器やハーブで温めるの。」

「お願いします!」

「蛍さん多分タメですよ。24?」

「そうです!」

「じゃあ、タメ口でいいよ!」


「ハウメア様も!」

響がハウメアにも抱き着く。

「何なんだそれは?抱き癖?」

「親愛の印です!」


「お茶を淹れたよ。」

ムギと同室の西アジアの女性がお土産のお茶を淹れてくれ、ムギや響がお土産のお菓子も出した。


「わーい!ミニ女子会だー!」

ファイがうれしそうだ。

「これが女子会?」

ムギがハテナマークである。

「試用期間が終わったらもっとみんなで騒ごーね!チコさんも加えたい~!」


他の部屋の女子も集まって来て、ホームパーティー状態の女子寮である。

それでも、午前に基礎トレをしたリーブラたちは、起きれなくなると困ると10時に自室に戻った。



一戸分の間取りがあるヴィラこと女子寮は広い。ムギたちは4LDKに7人で住んでいる。響も加わって8人。だいたいの移民はもともと大家族。部屋も広く、メインバスルームとは別に、シャワートイレ付きの部屋も2つあるためそんなに苦ではない環境だ。元の家よりだいぶ広いと感じる移民もいる。響は職場が固まったら、研究部屋が必要なため家を移るがそれまではここにいる。



リビングがまだ賑わっている中、ムギと響は個室に入った。


「取り敢えず私と一緒の部屋でいい?」

「もち!」

寝る準備をして布団を並べ、ムギが電気を消し二人向き合って横になった。


「チコ、雰囲気が変わったね…。」

響がやさしく笑う。


「うん…。」

ムギは少し顔を伏せた。

「ファクトが来たから…」

「弟だって言ってた子?会えたの?」

「先のコマ騒ぎの現場にいたよ。黒髪の子。」

「ホント?どの子だろ?」

半分以上、あの場は黒髪だった。

「それにチコが彼らのチームも作って、私にはよく分からないけれど楽しかったみたい…。」

「チコが作ったの?今の仕事?」

「うん。正確にはあのガラの悪い人たちが、押しかけて来た……」


ちょっと驚く響。

「そうなんだ……」

それを受け入れたことが驚きだ。


「私は何もできなったのに…。ずっとずっとみんな緊張してて、もうみんなが協力するのも無理だって。チコもいなくなっちゃうんじゃないかって思ったのに…。」

言葉が出てこないようだ。


「…あの人たちは勝手に来て、勝手に推し進めて、勝手にケンカもして…、勝手に……」

顔は見えないがムギが泣いているのが分かった。


響はムギの耳元の髪をそっとすくう。

「ムギ。頑張ったね…。大丈夫。チコは知ってるから。」


ずっとずっと優しく髪に触れる。


「みんなそれぞれできることが違うの。チコに対してできることも、故郷にできることも、ベガスにできることも。彼らに対してできることも…。」

「…。」


「彼らもそうだよ。彼らもできることが違う。ムギにしかできないこともあるから。

ムギ、私はムギが大好きだよ。」

そうして頬を向けさせ少しゴシゴシと撫でた。


「…」

ムギは何も言わずにまた顔を布団にうずめる。


「おやすみ。ムギ。」


響は布団越しに、ムギが寝入るまで背中をそっと柔らかく叩き続けた。




***




実は男子は大騒ぎであった。

時間は夕食後まで戻る。



コマちゃん騒ぎⅡの現場が落ち着いて、帰って来た最終メンバー。


リーダーたちへの報告や今後の話し合いのため、解散せずに一部メンバーは南海広場のミーティングルームに集まる。カーフをはじめとするその場にいた高校生も一緒に来ていた。しかし、ただの話し合いではなくなにやら騒がしいため、まだ寮に戻っていないメンバーが何事かと集まってきていた。



室内には新しい女性キャラがいた上に、タラゼドと言い合いになっている。しかもムギまでいて意味が分からない。


ムギ、帰って来たのか?これでチコの怒りは半減するのか?


「なんで突然ニューキャラが来た上に、タラゼドとケンカになっているんだ。」


お姉さんがタラゼドに食って掛かる感じだ。

「だいたいね!女性の腰に手を回すってどうなの?!」

「はあ?あの状況で何が言いたいんだ?怪我すんぞ。」

「何もなかったし!」

「結果論だろ。」

響がダイエットダイエットとうるさいので、タラゼドが「うるさいな…。どうでもいいだろ。」とボソッと水を差しケンカになったのだ。


「なんなんだ?」

みんなが見に来る。

「タラゼドが女性の腰に触ったそうです。」


「え?タラゼド陥落?」


「チコさんの友人らしい。」

「うわー。それは絶対に触れたくない。一物(イチモツ)がなくなりそうだ。」


タラゼドが怒って無言でミーティングルームから出てくる。

そこで、野次馬たちと目が合い、たまたま通りかかったシグマが拍手をする。

「落城1号おめでとう。」


シグマが言うと、始めは「はあ?」という顔だったタラゼドが意味に気が付き無視したのだが、それが気にくわなかったのかシグマがさらに煽りケンカになったのだ。


タラゼドとしては敢えて堅実な環境を作って来たし半年の覚悟もあったので、女性にはそこまで執着がなかったが、酒と煙草が一気になくなったもどかしさはあった。しかもこの時代、中間層は煙草を吸わない。一部の高級層か、粗悪な品を柄の悪い層が吸っているというイメージがある。そこにうるさい女が来てやっと喫煙できた煙草のことを指摘された上に、気にもならない女のことをシグマに煽られて少々キレてしまった。


無視するのに突っ掛かって来るのでタラゼドは「うるさい」など少し言い返し、それで終わるかと思いきや、シグマがムカついて手を出す。


タラゼドはシグマの入れた蹴りを脚で受け止めたが、タラゼドには勝てないシグマが逆上。さらにパンチを出しケンカ状態に。

そこに止めに入ったはずのキファとタチニアもなぜか乱入状態。ローも制することができず、いつの間にか乱闘に加わり、誰の蹴りが入ったのか、ステンレスの戸がへこんでいた。


「だいたいてめぇ、ムカつくんだよ!」

シグマがさらに煽る。


実はもともとみんながみんな仲が良いわけではない。シグマは歴然と物事を進めるタラゼドがムカつく。普段から気に入らなかったのだ。

うっとおしいと、タラゼドが胸元を掴んだまま掛かってくるシグマを廊下のガラス窓に流すようにぶつけると、ガラスに粉々にひびが入いった。

「うわ!ちょっとやめなよ!」

ハウメアも抑えようと向かうが、興奮しているうちは危ないからとヴァーゴに止められた。


「なんだ!」

(いか)ったシグマが横のガラスを蹴り砕く。


ファクトは20代メンバーの大騒ぎに見ていることしかできない。

周りも年長組やABチームのケンカを止められるわけもない。

藤湾高校生ズも困っている。仲裁に入るべきか、アーツに任せるべきか。


「……」

響も唖然としている。




この後、上への報告から戻って来たサルガスやタウたちが止め、ムギがものすごい速さで全員を蹴り上げて、

「チコに迷惑を掛けるなーー!!」

と大声を出すまで大騒ぎであった。


知った顔の教官が駆けてきた時には、多少血が飛び、何人かが廊下に倒れ込んでいた。





そして、翌日。


あざだらけの男性陣が教官にこっぴどく叱られただけでなく、響も響で試用期間中の人間に絡んだことをチコにかなり叱られたのであった。




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