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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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55 忘れ形見



「………」

高校生の言葉に固まってしまうアーツ。


何と返したらいいのか分からない。

殉職って…。職に従事する中で亡くなったという事だ。


「あまり詳しくは言えないけれど、ユラス大陸は数年前まで内戦をしていて…一般の人は知らない一番激戦だった時に、父や叔父たちが前線とかにいて。」

何とも言えない顔をしているアーツ陣を気遣って続ける。

「あ、気にしないでください。もうだいぶ前のことです。」


でも、チコが30代だとしたら、そんなに昔ではないはず。


「その時、家系から殉職者を出した家門の子供を、アジアや他の先進地域に送ったんです。家の状況で順序を決めて。後継ぎがいるか、殉職に限らず何人亡くなっているかとかでも。それに対する回顧主義や原理的な人たちの反発もひどくて…。」


「早いと16歳で従軍するから、高等教育を受けさせたいからって急いで軍人以外の母子を先に国外に出したんです。ユラス人の都市にも大学はありますが、そこにいるとどういう形で従軍するかは分からないし。」

「もともとチコ様も年配者に負い目があったし、いろんな責任を取って、チコ様が頭を下げて送る形になって。」



年配者やインテリ層には言葉でなじられ、一部勢力には下げた頭に足を乗せられた。


大勢の人の前で、チコのブロンドの頭にションベン臭い汚い街を歩いたブーツが乗せられ、「起きろ」とそのまま靴底で顔を蹴り上げられた様子を、幼い彼らは忘れなかった。


ほんの少し前まで、ユラス族議会にトップとして正装で堂々と立っていた女性が、自分の親族に邪険にされるのは信じられなかった。

当時は子供たちのほとんども大人たちと同じくチコを、訳の分からない理由で将来の人材を他国に送り、国力を弱めさせるどうしようもない人間なのだろうと思っていた。


チコは多くの女性たちにもよく思われていなかったが、職場の人間や、カーフ、レサトの母をはじめとする一部の女性たちが裏で奔走して、必ずユラスにも貢献するように子供たちを育てると理性勢力を説得し、最初の一軍を他の移民と共にアジアに送ったのが始まりだった。命の危険のない、落ち着いた場所で教育をさせたかったのだ。そして、多角的視点を持てるように。


何も話さないアーツに学生たちは続ける。


「なので、僕たちの何人かは半政治的亡命という感じでもあります。」

「今は事実上終戦で大分落ち着いたけれど、当時は本当に揉めに揉めて。今でもあれこれ言う年配の方はいます。」


子供なのに、政治的亡命。


「でも、ユラスのほとんどの部族は権力争いとか、目障りだからと子供まで巻き込む文化はあまりないですので、俺たちは大丈夫ですよ。どちらかというと、子供の取り合いですから。」


「あまりない」とは、なくはないという事だ。

それに人の子を取り合うとは。



大勢いるのでみんなが聞いていたわけではないが、一番うるさいアーツメンバーが黙って、食堂は少し静かになってしまった。




***




「俺、全然ダメなんだけど!」

少し薄暗くなりかけた道でヴァーゴが叫ぶ。


ごっつい顔でせっかく30代まで童貞で生きて来たのに、魔法使いにもなれなかったヴァーゴの横で、今までステキな彼女がいたサルガスが、両手の間に電気溜まりを作る。小さく無感触で触れたら消える程度の物だがやっと形になって満足だ。


そんなふうに、少し残って特訓していたメンバーが、歩きながら練習をしていた。



「僕はなぜ頭に…。」

ラムダの電気溜まりは、なぜか小さく前頭部の上に出てきて、手には作れない。そして手を近付けると消えてしまう。

「まあ、お前らの頭が悪いからだな。」

レサトが無表情で言う。


ジェイも落ち込む。

「俺は電気自体が出ない…」

「いいよ。ジェイは他のができるじゃん!両方やると混乱して分からなくなるから、1つできれば十分だよ。それに霊も現世界に作用するときは、電気に変換されることもあるって言ってたし。知らずに電気技使っているかもよ。」


その横で、ファクトが大道芸のごとくミニミニ電気だまりを飛ばしまくっている。


「めっちゃ楽しい。」

「ムカつくな。」

「親がすごいとああなるのか。」

小さな塊が1つレサトにぶつかってパチ、ふわっと消える。

「俺に飛ばすなよ。」

「お、悪い!」

見せつけるように笑い、ひんしゅくを買っている。威力はともかくこのコントロール力で動かせる人は初めて見たと言われた。子供の頃流気道をやっていた成果だと感じる。道場に通っておいてよかった。




そんな時ファクトが少しくうを見た。

「…?」


何の音だ?と辺りを見渡す。

「…」


「どうした?ファクト。」

「近くで音がする。……下?」

ファクトがしばらく固まっているので、他も耳を澄ます。

「なんだよ。早く行こうぜ。」


「するな。」

レサトも言う。


2人も言うのだから、もう一度みんな聴き入る。

「工事か?まあ、車が通らないわけでもないし…」


………。


ドン!


「?!」


すると、昔地下鉄を想定して作っていた高架線の下の地下出入口階段から、天井を擦ってコマが1機顔を出した。戦闘用には見えない。コマはそのまま天井を壊して地上に出た。


「コマちゃん!」

乗り物型の車両タイプロボットだ。

「いいいいっ!!!」

「またか?!!なんでだ?」

コマは固まってこちらを見ている。


「待て。警察とかじゃないか?」

「そんなにそうそうサイバージャックされないだろ。」

「え?ジャックされてるの?そんなことあるの?」

ジェイがありえない顔をする。

「いくら半廃墟でも、通常時に公安や軍が地下道壊しながら歩かないだろ。おかしいぞ。」

「手、振ってみるか?軍が周辺に駐在してるって言ってたし、軍のかもよ。」


ヴァーゴが手を振ると、突然コマがダダダダ!!と突進してきた。


「!」

「マジか!」

レサトがラムダを、サルガスがジェイを横に逃がす。


コマはみんながいた地点に前足を振りかざした。

ドガ!

と地面が割れる。

コマの動きは鈍いが、初めて見たメンバーは固まってしまう。

「な、なんで?」


するとありえないことに、コマの中からもう1機二足歩行アンドロイドが出て来た。


「人型アンドロイド!」

いかにもマシーン的なタイプだ。


最初にレサトと目が合って、そこに飛び掛かる。

「!」

ガジン!と地面の音がする。


安全な存在ではないようだった。





***




食堂が盛り上がっている中、長身でがたいが良く三白眼気味の男、タラゼドは少し風を浴びたくて外に出ていた。


「はあ、酒飲みて。」

前髪を掻き分けてヤンキー座りでボーとする。

煙草もないので手も持て余す。


試用期間が終わったらどうしようか。大房に帰るか。ここまでベガスがデカいならここで仕事を見付けるか。開発を続ける限り仕事には困らないだろう。それに、今なら他の場所でもいろいろできそうだと考える。とりあえず、まだない特殊運転免許はいくつか取っておこう。

貯金は少ないけれど、自分1人なのでどうにかなる。


大房でもいいが、自分の中の価値観が変わってしまったので、多少他の生き方もしてみたい。



ため息を吐いて、一番星が見えている空を見た。


すると、藤湾学校のある方の道からわずかな衝撃音がする。

「ん?」

事故?工事か?


立ち上がってジーと見つめる。小さいが変な動きをしている物がある。

なんだ?

サルガスたちが歩いてくる方だ。



店内に戻って、タウに耳打ちした。


それに気が付いたカーフも立ち上がる。

「あ、いい。お前はここを見てろ。何かあったらこいつら見ていてくれ。」

タウはカーフを座らせるとタラゼドと数人を連れてバイクを走らせた。




***




「どうしたら…」


ゆっくりだがヴァーゴたちの方に向かうコマにファクトは焦る。

「動きが鈍いな。」


「おい、コマ!民間人に手出すな!」

ファクトが上からコマに言うと、少し停止してファクトを見る。

「おっ、お前素直だな。」

ファクトがコマを撫でる。


そこに150キロ近くで走って来たタウたちが到着し、コマやニューロスともみ合っているレサトを見て驚く。

「何だこれ?!」

「タウ!あそこ!」

「サルガス!」


「タウ!あっち!」

サルガスが横道に逃げたメンバーを指す。

「ジェイたちを頼む!」

「分かった!」


その時レサトをすり抜けたアンドロイドが、コマの上のファクトに向かって飛び掛かる。

「うわ!」

「ファクト!」


危ない!と思った瞬間、見知らぬ一台のバイクが突っ切ってハーネスが伸び、アンドロイドの脚をそのまま絡めた。




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