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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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54 大物を捕まえる



火曜日の午後、さっそく禁句な質問をしたのはキロンだった。


「はい!チコさん質問いいですか?」

「なんだ?簡単なことなら。」


「カウスさんはもう来ないんですか?」

「………」

だからお前、それを言うなー!と思うアーツ一同。キロン、普通人のくせに最近シグマよりグイグイ来る。カウスの休暇は既に延長1週間を越えていた。


ダス!

と、教壇の音が響く。


一旦講堂に集められたアーツと、現在参加できる学生たち。学生たちは何かあったのかと気を引き締め、アーツは「ヤべーよ。怒ってるよ」と、どうフォローしようか考える。


「カウスさん、俺らのこと見てたのがそんなに嫌だったのかな…。」

ジリが落ち込む。

「まあ、しょーもないとは思っていただろうな。」

「そういえばムギちゃんもいないじゃん。」

「ムギちゃんはもともとVEGAのスタッフでもないらしいぞ。藤湾の学生たちは、存在自体を知らないみたいだし。」

「チコさんとムギはセットだと思てったのにな。」

「金魚の糞だからな。」


ダス!

もう一度チコが教壇を叩く。

「お前ら、黙れ。」


誰が見てもチコが怒っているのに、藤湾学生側にも空気の読めない奴がいる。

「あのー。『チコ様』。」

「なんだ?」

「アーツの先輩方に直接指導されたんですよね。私たちにも少し何か指導してほしいのですが!」

1週間ぶりに藤湾に現れたチコに、背の高い黒人系の学生がここぞとお願いした。


「………。」

「武術でも、何でも構いません。お手合わせでも!」


いやいや、お手合わせをしたのはカウスだけだし、このモードのチコに指導を頼んだら、締められるだけだ。お前ら筋トレやりたいのか?とばっちりを食らって俺らも追加トラックの走らされるからやめろと、思うアーツ。


「忙しくて…。今日もこの後他の仕事がある。」

「あ…いつも大変なのに申し訳ありません。」

「いや、いい。こちらこそすまない。」


学生が謝るが、アーツは思う。

忙しいという理由は絶対ウソだ!

なぜなら、午前中のトレーニングは南海までそれなりに見に来るし、最初の試用期間では短い時間でもけっこう顔を出していた。俺らのことを構っているなら、1回ぐらい高校生にも講習をしてやれよ。名誉講師だろ、やっぱりアーツには息抜きに来てたんか?!


「はいチコ!」

今度はファクトが元気よく挙手する。嫌な予感しかしない。

「なんだ…」

「里帰りって聞いたんですけど、ムギも帰ってこないんですか?」


グチャッ!!


さすがに学生の前のうえ、公立学校の備品を壊すのは躊躇したのか、ペッドボトルをつぶす程度に控えた。南海のフォーラム会場も公的施設なので毎度そうすればいいのにと思う。なお、以前壊した机は非常に叱られた後リモデリングされた。


「カウスのことは忘れろ。」


忘れていいんですか。


「ムギは観光をしているらしい。」


遊んでいるんか。中学生なのに。



「帰ってこない人がいるし、サラサは今、別の仕事も持って忙しいので、その分をここにいるメンバーで埋めてほしい。」

藤湾の人間と、サルガスとタウ、ハウメアに指示を出す。


チコは少し必要な話をすると、小さなボールをヴァーゴに投げつけて去って行く。



よく見るとそれは先のペットボトルだった。




****




その日の帰り、普段は大してまとまりがあるわけでもないのに、集団で帰るアーツ。そこらの食堂で飯でも食っていこうと、高校生も数人さらって来た。


ファクトやサルガス、一部メンバーは、レサトに実践訓練を受けていたので少し遅れて行くと伝えてある。




食堂の方はお酒も飲んでいないのに、既に出来上がっていた。


「で!カウスさんは今何をしているんだ?」

シグマが聞く。


「え?私たちも知りません。親族の子に、国に帰ったとかは聞きましたけれど。」

「はあーーー!!ユラスに??職場放棄じゃん!」

「そこまで俺らが嫌だったのか…。」

「俺らに構ったところで何の利にもなりませんからね。」

「でも長期かどうかは何も聞いていなかったのですが…」

「まあ食え!」

出て来た肉料理を差し出す。大の大人が学生にたばこやお酒を進めているような構図でユラス学生に問い詰めている。脅しだ。


「これは帰ってこないな!」

「やっぱ奥さんに落城されたか…。」

「奥さん、すごいのかな。」

「みんなやめなよ。高校生がいるのに。」

リーブラにめられるとは、心外である。


そして今日はシグマのテンションが高い。なぜならカーフという大物を捕まえて来たのだ。初日の学食以来だ。


「はい、質問!カーフ君はお兄さんいますか?」

言った矢先にこのリーブラ。みんな引く。

「……ユラス人はやめた方がいいですよ。ユラス地域にいた人だと、婚約者がいる人が多いですし、ものすごい部族、氏族社会なので外から来た人はけっこう逃げます。身内でも逃げるくらいだから……」

「婚約とかすげーな!」

「……」

リーブラは黙り込むが、高校生にそんなことを聞くなと思う一同。しかも意図を悟られてアドバイスまでされるとは。


カーフよ。リーブラやファイにまじめに返答などしなくてもよい。


「でもー、若い世代なら大丈夫でしょ!」

ファイが今日もときめいている。

「何千年もそうしてきたので、百年過ぎたところで解決できてはいないですね。」

高2の言う事が高校生らしからぬ時点で、大房(おおぶさ)民とは合わないだろう。大房民は百年どころか十年前にすら執着しない。

「まあ、私は見てるだけでいいけれど。見てるだけで満足!萌え心だけでいい!」

「??」

世俗に染まっていない高校生は、結婚の厳しさは分かっても萌え心は全く理解できていない。



アジアも本来は超氏族社会だ。


今は大きくは個人主義だが、どちらがいいのかは分からない。

個人主義社会は孤独死や自害も多く生んでいる。男だろうが女だろうが、糞尿や虫にまみれた遺体は当たり前だ。システムの発展で放置されることは減ったが、それでもシステムにあやかれない人、あやかろうとしない人、非常に強情な人も多く自滅的になって壮絶な死に方を選ぶ人、いろいろいる。怨みつらみもあるが、孤独が原因の問題が圧倒的に多い。

氏族家族社会もつらい、孤独もつらい。どちらもつらい。人間とは難しいものだ。



「それで、なぜ君たち高2なんだ?」

「高2?」

「なぜ高校生がチコさんに仕えているんだ。」

実際の年齢層はもう少し広いが、中心にいる数名が同級生なのでそう聞いてみた。


カーフが返す。

「こちらが先にが聞きたいんですけれど、皆さんこそなぜお二人に指導を受けているのですか?」


「………。」

なんでだ?

それは自分たちが聞きたい。最初は大して公益心のないボランティアで赴いただけだ。

「サルガスがファクトに付いて行って…、サルガスが俺らに声を掛けて…」

「それは理由でなくて、経緯でしょ。」

ファイが頭の回らない大人に説明してあげる。


「さあ?仕事がなかったから、紹介してもらえると思って。」

「おもしろそうだったから!」

「ヒマだったから…。」

その答えに驚く高校生ズ。

やはり彼らも思うのだろう。自分たちも驚いている。だとしても、なぜチコとカウスが?


下町ズは1つの結論を得ている。

チコはファクトに関わる口実ができるのと、厳格すぎるユラス社会に楽チンというオアシスを見付けたのだろうと。カウスは面白そうだったのに、かえって暇すぎてスタミナを持て余し逃げたのだろう。


「安心しろ。チコさんは君たちの方を全面的に信頼している。俺らはただの脱アルバイター要員で、捨て駒だ。未来は君たちにある!」

高校生を励ますおやじ気分だ。

「で、なんで君たちで?優秀だから?学校に他にも人がいっぱいいるじゃん。」

シグマが話を戻す。


少し考えて、カーフの近くにいた高校生が口を開く。

「言っていいのかな?」

「安心しろ!俺以外は口が堅い!」

シグマが自信満々に言う。カーフがその高校生に頷いた。



「俺たち…。父や叔父、兄たちが殉職しているんです。チコ様と同僚だったり、一緒の作戦で。」



もう過ぎたことだしという感じで、高校生はあっさり言うが、アーツは固まってしまった。



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