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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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53 帰ってこない



全体がにぎわっている中、会議室を駆けだす。


「おい!ファクト。どこ行くんだ!」

ヴァーゴが叫ぶ。

「俺もクソしてくる。」

何言ってんだ?という顔にサラサも混じっている。

「本当にレサト(あの子)はかわいくない…。困った…。」


レサトというかわいくない学生は、既に同2階ロビーにいる。

「レサトくーん!トイレこっちにもあるよー!」

ファクトがラムダの手を引いたままの最速で追いかける。ラムダ故にもちろん遅い。


「は?なんだ?」


「あわわわわ!!離して!離して!」

引きずられるラムダが声にならない声で叫び、レサトは唖然としてこちらを見た。


ファクトがロビーまで近づくと、ゲッという感じで吹き抜けの手摺に手を掛けてジャンプをする。

「危ない!!」

ラムダが顔を青くするが、ファクトもラムダの手を離し、同じように手摺を飛び越えた。


「うわあああ!!」

手摺に走り寄って2人が落ちた下を見ると、レサトもファクトも建物の様々な部分に手を掛けて、トットコ1階エントランスに着地したようだ。

「はあ……」

腰を抜かしそうになる。


逃げるレサトを追いかけて、ファクトはそのまま玄関を出て行く。


「なんなんだ?!」

レサトはさぼりがバレたのかと、とにかく逃げる。

「待てよ!」

なぜアーツのメンバーに追いかけられているのか分からない。

「レサト君。ちょっと聞きたいんだけれどー!」


「はあ?先のならカーフに聴け!あっちの方ができる!」

レサトが先方右に曲がると直感したファクトは右の壁を上がり、その上の屋外フロアを斜めに横切る。そしてその勢いのまま、もう一度1階に飛び降り、予想通り右に曲がったレサトの前に出た。

「なっ。」


驚いてUターンしようとするが、ファクトは肩を掴む。

「待ってって言ってるじゃん。」

しかしレサトは、掴まれた側の手を後ろに回し、ムギのように組み技に持っていこうとする。それから逃れて、ファクトは勢いよく後ろ回し蹴りを入れた。

が、そのまま足を掴まれ、あれよあれよと地面に制された。

それでもファクトがかかってきそうな勢いなので、首をヘッドロック風に締め上げる。

「ウグ!」

外せない。


「なんだよ。大人しくしてろよ!。追っかけてくんな!」

とレサトが言ったところで…


バシ!


レサトは後ろ斜めからラムダに(はた)かれた。

「あがっ!!」


「ファクト!大丈夫か!!」

「グホッ!」

絞められた首を抑えせき込んでいるファクトと、いきなり平手を食らって動転しているレサト。そして、ものすごい息切れをしているラムダ。

3人は言葉もないまましばらく息を切らす。


「…なんだよ急に!俺が被害者なんだよ!」

レサトがラムダに食って掛かる。

「え?そうなの?」


「どう考えても、こいつがいきなり走って来ただろ!」

「え?…。」

舌打ちするレサト。

「…くそっ。」

「………そうだね。そういえばそんな感じだったよ。レサト君すみません。ファクト、何がしたかったの?」

初めてラムダは冷静になる。トイレに行く人をいきなり追いかけたのはファクトだ。


ファクトは2人の横で胡座をかく。片手は膝、片手は相手を宥める格好で、まだせき込んでいる。

「あがっ、あの話があって。グっ。」

取り敢えず3人で息が戻るのを待つ。



変な間の後、ようやくファクトが声を出した。


「…君が…メッセージをくれた人?」

「はあ…?何の?」

「『ゴールデンファンタジックス』!」

「は?」

「ゲームだけど知ってる?」

「…?ゲームなんてシューティングかブロックゲームぐらいしかしたことないけれど。」

「じゃあ、ファーコックも知らない?」

「全然知らない。」

「………」

あからさまに落ち込む。


「なんだ…、知らないのか…。じゃあ違うな。」

「なんだよ。」

「ごめん。友達になった持ちキャラと雰囲気が似ていたからもしやと思って。」

ベガスに来る前に友達申請をしてきたキャラにちょっと似ていたからだ。南海での話を聞いて、接触してきたのかと思った。

「ファクト。オンラインゲームやファンタジーの持ちキャラを自分と似せる人ってあまりいないよ。」

少なくともアジア人は自分より理想に寄せる。


「違うのか…。目が合ったからてっきり。」

「ゲームの話とかお前らバカだなーと思っただけだけれど、なんなんだ。」


「じゃあ、やっぱり全く知らない人かな。誰だろ。」

「それが聞きたかっただけか?」

「…ごめん。」

「僕もごめん。叩いてしまった…。」

ラムダが申し訳なさそうにする。


「あ!」

ファクトがまた突然ひらめくのでビビってしまう。

「なんだ?まだあるのか?」

「先の組み技!なんの武術?」

「……いろいろ混ざってるけれどクンフーと空手かな。」

「よし!決めた!俺それやる!」

「……。」

自体内展開が早すぎて、本人以外話に付いていけない…。


ファクト以外時が止まっていると、人影が現れた。

「お前ら。初日からさぼるとはいい度胸だな。」

「!」


サルガスだった。

「連れションかと思いきや、ゲームの話か?この面子を集められるのは今日ぐらいなのに。」

「連れベンとか言ってたけど。」

後ろにヴァーゴもいる。

「サラサさんがめっちゃ怒ってるぞ。」


「………。」

満足そうなファクトと、ボーとしているレサト以外の3人は頭を抱えた。




***




こっびどく叱られた後、ファクトは南海の基礎以外に、クンフー(カンフー)、棒術、電気先導、宇宙科学、途上地域教育開発、基礎学習教員、衛生教育などを選んだ。

そして、加えてまた座禅をやらされることになった。週に3日は大学内の寺院に通わなければいけない。


分かったことは、カーフ、レサト、その他数名はずば抜けて武道、サイコスが優れている。アーツが習う項目にない、サイコスを使える者もいるらしい。

タウを始めとするABチームは何かしらのスポーツ分野で、一般の領域を超えていた。タウや一部の人間はもともとパルクールのトレーサーだったので、当然と言えば当然である。


そしてサルガスは、妄想CDチームの予想通り、剣術や各種銃の扱いをマスター。ハーネスやライフルも習うことになった。妄想チーム一同、予想が当たって非常に満足であることを、本人たちは知らない。



メンバーの半分は、商売などを習う。


「うーん。この輸入の仕組みが全然分からない!」

リーブラがいつも唸っている。

「基本的なことだけ頭に入れて、後は交渉や経理とかに強い人と一緒にやればいいんだよ。」

「でもなんでこれが違法になるのか分からない!」

「だから、認可を得ていない成分が入っていないか確認できていないだろ?」

「じゃあこっちは?輸出元では平気だし、成分もシンプルなのに~。」

「非加熱のまま売れない物とか確認して見ろよ。国によって違うことも多いし。」

「あ~、分からない!」

「こっちは脱税になってるぞ。」

「もう、黙ってて!」

こんな感じでシュミレーションをしている。



「イケメンやイケ女がいっぱいいて困る。」

「勝手に困ってろよ。」

ファイは毎日ハートマークだ。


しかし、リーブラも含めアーツ勢は思う。

イケメンが多くて目が疲れる。いつも顔を合わせる高校生ズはスッキリした感じだが、大学部には濃い顔でモテることをアピールする者も多く、心身ともにげっそりだ。美人は3日見ても飽きないが、濃く、甘いイケメンは揃いすぎると疲れることも分かった。イケメンに慣れたいと思う疲れ切った下町ズであった。


ちなみになぜVEGAが高校生を中心に選んだかというと、その前後が最も特別な層が揃っているらしい。

信仰心も厚く厳格な中で育ってきた。厳格だが、祖父世代よりはるかに柔軟で、なぜかチコを非常に敬愛している。ナオス族が多い世代というのもあり、扱いやすいのもあったのかもしれない。


始めは、こんな優秀な層を自分たちに付ける必要はないのにとアーツの面々は思ったが、学習上の話もしやすく、無駄なこともしなかった。基礎を学ぶには効率が非常にいい。



というのは、一般大学生など一部学生は、アーツに突っかかってくることがあったのだ。


20代中盤以上のメンバーはそういう事が面倒にしか思えないのだが、血気の多い20代前後は衝突することもあった。

タウやイオニアたちは美形とは言わないがもともと顔は悪くないし、人としても悪くない。シグマやキファ、ローのようなファンキーさも混じった感じは、ベガスにいないタイプなので顔立ち関係なく余計に注目される。



特にユラス中央から少し外れる北西側地域の人間は、文化的民族性が違うらしく、カーフたちのような規律性がなくめんどくさいイザコザも起きていた。


ただ、サルガスは冷静に対処していった。

3か月間、無料で学ぶことができる。人生でそんな機会はまずなかっただろう。

しかも相手が自分たちの基準に合わせてくれる。


この機会を絶対無駄にするなと戒めた。




***




ある日の昼。

ガタンとアーツ女子寮のドアが開く。


正確にはルームシェアなのだが、ここで蛍がイータと治療を受けていた。


蛍はリーブラやファイと違って静かなため目立たないが、アーツの中で夫婦で試用期間に参加しているメンバーだ。背も高めで柔道もしていて体格もいい。そしてとてもやさしい。

横で蛍に手をかざす初老の女性はカストルの妻、デネブ。なかなか妊娠せず筋腫もあるため、緩和治療を受けながら手術をするか相談している。


そこに転がり込んできたのはチコだった。


「まあ、チコ。お久しぶりね。」

「デネブ夫人、まさかいらしたとは…。」

「いたらいけないかしら?」

明るく返す目が暗に追及している。


「プライベートでここに来ているの?」

チコはこれまでプライベートで他人と関わったことがほとんどなかった。

「………。」

答え方が分からないチコ。

「蛍、少し待ってね。チコ?どうしたの?」


チコに向き合う。

「あの…。」

蛍やイータも見守る。何かあるのだろう。


「私もここに引っ越したらダメですか?」


え?と2人が固まる。リーブラたちなら、超絶大賛成であろう。毎晩あれこれ追及するに違いない。

しかしデネブが一瞬で切る。

「ダメです。」

「ムギたちの部屋でもいいんです。」

「ダメです。」


「あの家は私には広すぎます。」

「広くて何か問題でも?」

「一人でいいところに住んで、職権乱用とか言われそうです。」

「何の職権も利用していませんよ。たったの2LDKでしょう。リビングも狭いし広くありません。」

「………」

チコが苦々しい顔をする。

「…チコさん…。」

イータが心配そうだ。


「チコ、もう少し待ちなさい。ムギがきょうと一緒に帰ってくるそうよ。」

「響が?」

「時々響に泊りに来てもらいなさい。」


厳しい顔をしていたデネブがやさしく微笑む。

「ムギちゃん里帰りから帰ってくるの?」

蛍とイータがうれしそうだ。デネブが頷く。




しかし、波乱は週明けに起こる。



帰ってこない。


そう、帰ってこなかったのだ。


ムギも、そして…

奴も帰ってこなかった。




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