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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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52 新しい分野



昼の時間が終わった。


大き目の会議室の後ろから見て、右に藤湾高校生、左にアーツが座る。


サルガスが最初にアーツ側の連絡事項を話す。

「それで、明日は午前に身体測定、午後はスポーツテスト、体力テストをする。ラムダは終わったら、肝炎の予防接種2次を受けに行くように。」


「えー。チコさんまだスリーサイズ集めてるの?やばくない?何の趣味?」

「やばいところまで測られそう。」

「前より体脂肪率落ちてたら何か奢ってもらおうぜ。」

高校生ズが驚いているのにも慣れた。


サルガスは無視をする。

「あとチコから、ここのAからEチームの分け方、始めの時スポーツ体力の基準で決めただろ。それで変えたいかって聞かれたんだけど…」

「え?そんなのどうでもいいです。」

みんな意見がない。

「分かりやすいからそれでいい。」


そもそもDチームはABチームに混ざりたくない。あの人たちは自分たちに関わらず、好きに生きていてほしい。C2のファクトたちですら、超絶運動神経が良く見える。奴らダンクシュートができるとか、逆立ちで歩けるとか、綱もなく壁を這い上がれるとかおかしいだろ。


「じゃあ基本的な班はABCでこのままでいく。ただ、気を引き締めるために部屋替えはするからな。」

「あみだ?ジャンケンでいく?」

「花札にするか?」

「雀荘見付けたんだけれど……。」

「普通にくじでいい。」

サルガスが話を盛り下げる。



そこで、1人の女性が学生席から立ちあがった。

「はい、ではそこまででいいですか?学生たちが待っています。」

首までのボブにメガネのお姉さん。地味なオフィススタイルをしている。


そして壇上に上がって号令を出した。

「始めましょう。起立!!」


けっこうなハキハキ声だ。

全員、引き締まって礼をし、学生の1人に祈らせて着席させる。


「アーツの皆様、初めまして。わたくしサラサ・ニャートと申します。サラサとお呼び下さい。VEGAベガス事務局の総務をしております。以後お見知りおきを。」


「総務って何?」

「事務とか細かい事いろいろしてんだろ。多分。」

「カウスさんの代わりに来たんじゃね。」


「皆さんは私のことを知らないでしょうが、私は皆様をよく知っています。」

「マジで?誰?」

部屋やABCの班長たちは何度か事務局に出向いているので知っている。


「皆さんの何とも言えない日記や感想文などもまとめていました。」

そういう人には会いたくなかったと思う一同。

「早速本題に入ります。」


「これから基礎トレ、基礎学習以外にいくつか選択をしてもらい、得意なこと、好きなことをここで伸ばす機会を持ってもらいます。」


ダダーーと一覧をが出てくる。

最初に高卒、大卒学士、修士課程がいくつか出て、その後に様々な分野。


体育分野は基礎、一般スポーツから、格闘技をはじめとする武術。

サイコスは、視伝、伝令から電気伝導、気功伝導など。霊性は、別に分野がいろいろあるが、ここでは基本の力だけ載っている。上記は2つは必須となる。


リーダー学、組織運営。自治体運営、交渉スキル。

基礎救護、応急処置など。その他有事対応。これらも全員必須である。前の試用期間にも少ししていたが、実践も取り入れていく。


社会は政治、地理、経済他、民族、宗教、風俗学など。

経済、経営分野はアーツで数字を動かすことはあまりメインに考えていないので、いくつかの講義の後、経済クラブやその前衛の青年団と直接話をしていくらしい。その他は自治体運営。これも南海や他の自治会長や区長と話していく。


介護、福祉。衛生班補佐。国家試験もあるが、基本的な部分を学ぶことができる。


まちデザイン。


農業。

アジア内陸、ベガス地方の人々は農家だった人も多い。人材を育てて、大中規模の農家を運営していく人材を作り上げていく。農業そのものでも、運営でも希望の勉強をしていける。


その他ズラッと並んでいる。


「はい!質問いいですか?」

「はいどうぞ。」

「陶芸とかはないんですか?」

「お花とかは……?」

「茶道は…。」

「カルチャースクールは余った時間でしてください。」


「はい!サラサ総務!」

「はいどうぞ。」

「全部武道でもいいですか?」

「デスマッチ集団を作る予定はありません。」


「あの…」

「はいどうぞ?」

「何を選んだらいいか分かりません…」

「…終わったら、個人面談をしましょう…。」

サラサは額に手を当てて考え込んでいる。


「めっちゃサラサさん困らせてない?」

「お前ら相手にしていると疲れるんだよ。少し黙ってろ。」

「内心ブチ切れてそう。」


「はい!」

ファクトがうっとうしく、また手を上げる。

「電気伝導と気功伝導は何が違うんですか?」

サラサは学生席を見渡して、その後アーツ側に目を止めた。

「レサト。出てきてください。」


そういうと、アーツのいる列の後方席から少し切れ上がった目のユラス人がキョトンとした。

「早く!」

眠そうな感じで出てくる。

「あ!あの子だ!」

「尖ったチコさんだ。」


講堂でめんどくさそうにしていた彼が、仕方なしな感じを押さえてチコのように颯爽と出て来た。歩き姿もかっこいい。しかし、妄想CDチームは見逃さない。こちらと目が合ってフイっと、そっぽを向いたのを。アーツ側にいたのも隠れていたのだろう。


彼が前に出ると、講堂の電気を落とす。映像でも観るのだろうか。


そしてサラサが言った。

「気功と違って、電気そのものにフォーカスし、人間以外の物にも物理的に強く影響を与えさせます。」


「レサト。少し見せてあげて。」

レサトというのか。


彼が集中して右手を動かしながら掲げると、手の上に淡い光が広がる。霊性やオーラと違うのだろうか。


みんなが見ていると、淡い光がバチバチ鳴りそうな勢いで光を放つ。そして教壇にあった時計に手をかざすと、バチっと音がして時計が壊れた。


おおーーー!!!!


会議室がにぎわう。高校生たちで驚いている子もいたので、汎用的な力ではないのだろうか。明かりがついた。


胸が躍るファクト。


「あれ、チコさんがコマちゃん止めてた時のと同じかな?」

ヴァーゴが感心する。

「あの時はあんなにバチバチしていなかったけれど。」


「その時計…。講習用にこの前買い替えたばかりなんですけれど………」

サラサが引きつると、レサトはすみませんと一礼した。彼女は、教壇に講義用の昔ながらの大きなデジタル時計を置くタイプだった。

「後で弁償します。戻っていいですか?」

紳士ぽく言うが、指示を出される。

「弁償はいいけれど、隠れていないで前に座りなさい。」


レサトは少しだけ嫌そうな顔をして3列目の高校生ズに混ざった。

「一番前に座りなさい。空いているでしょ?」

「…………。」

無言で最前列に移った。ちょっと不貞腐れている。


「イケメンが不貞腐れている。かわいい。」

子供でもない、それなりにデカい男にかわいいというファイに、近くにいる下町ズがいつもながらにドン引きしていた。

「本人の前で絶対言うなよ。」

「思春期の奴を下手にこじらすと、来なくなるぞ。」

「ファイ。かわいい以外の形容詞はないのか?気持ち悪い。」

「超かわいい!」


まさか、みんなの前でサラサに叱られる第1号がアーツではなく、『ゴールデンファンタジックス』側とは思わなかった妄想CDチームはちょっとうれしい。心の仲間だ。


「これ、誰でもできるんですか?」

既にベガスでも、子供たちに空手を教えているハウメアが興奮気味に言う。

「ええ。誰でも電気自体は持っているので、本来なら多少のことはできます。でも引き出したりコントロールするのは難しいです。

力の加減が出来ないと、家電を手当たり次第壊したり医療行為を受け付けられなくなったりします。適性は見ないと分かりません。力の使い方も適応する分野がそれぞれ違います。なので希望は聞きますが、人選はさせてもらいます。」


「打撲とかに時々手をかざしているのもそうですか?」

「そうですね。ただ治療には主に3種類あって、電気治療の場合もあれば、そこに憑いている良くない霊体を取り除いたり、人間にとって良い波動を送って治癒することもあります。後者は霊性に関する、もしくは両者を含めた治療です。でもどれも電気が働いますけれど。」


サラサは続ける。

「対ニューロス部隊は、大なり小なりこの力が使えます。素手であそこまで突っ走っているのはカウスさんだけですね。壊すからやめてほしいんですけれど。」

「………。」

下町ズ、何も言えない思いになる。しかも、対ニューロス部隊って、普通に生活する分には関わる人たちではなのですが。まずニューロスが敵対する機会なんてない。家電や自動車が暴動を起こすようなものだ。

サラサは東アジア人っぽいので、カウス、こっちでもやらかしたのだろうか。



「アーツABとC1チームまでは警護、自衛官などの仕事につく身体的能力は既にありますよ。」

ここで初めてサラサが楽しそうに言った。


「もちろん、対戦闘用ニューロスと向き合うとかではしないので安心してください。今のところ。

希望者はこの期間に試験を受けてもいいです。総長は嫌がると思うので、お勧めはしませんが。」

「ここまで来て嫌とは?」

サルガス、思わず言ってしまう。何のためにこんなに筋トレ武術をしたのだ。チコとカウスの趣味か。


「めっちゃ楽しそう。」

ファクト、ウキウキワクワクである。

「あれで技とか繰り出すんですかね。雷龍破とかできそう。いいな。僕は無理そうだ。」

ラムダが落ち込む。

「希望は全部聞いてみた方がいいよ。何が合うかなんて分からないし。」



「それで担当がこれです。」

一覧の載っていたスクリーンの各分野に名前が出てくる。

「今ここに集めた藤湾の生徒たちは、各分野で博士、修士を得ていたり、師範だったりします。その他、既に現場で実践経験をした者たちです。少し…、大学生もいるのかな?」

「はい。俺たちです。」

何人か大学生も混ざっている。


ファクトは、一覧からベガス南海に来た時の希望の分野を見付ける。

「あった!」

「何々?」


『途上地域における、教育現場開発』

青空学校の先生だ。


「…楽しそうだね!」

ラムダもワクワクだ。ジリも前から顔を出す。

「こっちにスラムの衛生環境整備ってある。アンタレスのスラムから始めていっても経験になりそう。途上地域は衛生問題優先だし。」

「危ないから、ファクトのかーちゃんが許さないだろうな。」

ジェイがもっともなことを言う。

「でも、ここに『実践は既に安全が確保された地域にて進めていく』ってあるよ。」

後で知ることだが、ベガスの高校生、大学生、一般人が活動するのは、地元有力者や国や一定以上の機関において信頼関係を作り、最低限の安全が確保された地域だけだ。そういう現場の開発、確保もVEGAの役目であった。基本、銃が要るような現場には入らない。



「では、これから時間を取るので、希望のクラスの人と自由に話し合って下さい。」


「ねえ、ファクト。じゃあここの人に聞いてみる?」

ラムダが途上地域開発を指すが、この男は違う。

「とりあえず彼に話しかけてみる。友達になりたいだろ?」

「彼?」


取り敢えずと言った先にいるのは、前列から既に席をはずそうとしているレサトだ。

レサトは、さっそく先見せた電気伝導の講師役を、

「カーフの方が得意なんで。俺はクソしてきます。」

と言って、カーフに押し付け逃げていた。


「よし!つかまえよう!」

後方席にいたファクトは、ラムダの手を引っ張って立ち上がる。

「え?え?僕は『心の友』というだけでいいよ!」

と、言っているのに聞かないファクトであった。




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