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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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47 ジャンルが変わってしまう



エリスの祈祷で締めて解散。

祈ってばかりでめんどくせー、と思う大部分の下町ズに対して、ユラスの面々はまじめに共に祈りを捧げていた。動くことも、途中目を開けることもしない。


すげーな。


ファイは多少の信仰心もあり、ゴスペルチームのメンバーなので他のメンバーよりは祈るが、それでもユラス人程ではない。でも他大陸のハレルヤ系でにぎやかな教会から来ているので、ユラス系の堅苦しい信仰はちょっと物足りないらしい。


その後、リーダーを中心とする一部のメンバーたちは、高校生とそのまま話し合っている。




しかし意識高い系の横で、どうでもいい思いに囚われる、アーツCDチームの一部メンバー。やたら秀麗な顔が数人いる向こうの陣営を眺め、ため息しか出ない。


アジア人でも小学校から身長170センチ超える男子は多少はいる。でもなんというか、ベガスの彼らは体幹が非常によく顔立ちも端麗な者が多い。代表者の多くは、南海に多くいた東ユラス人とは少し出身も違うらしい。

それに引けを取らない一部下町ズもうらやましいというか、感心してみてしまう。


向こうの面々と自分たちを比べると、明らかに世界が違った。

本気まじ、ジャンル変わっちゃうじゃん?」

「俺らがヤング○○漫画系なら、あっちは『ゴールデンファンタジックス』って感じだな。」



『ゴールデンファンタジックス』とは前時代初代ゲーム機から爆発的人気を誇り、150年以上シリーズを出しているRPG。絵が非常に美しく、他と一線を引くご長寿ゲームの1つだ。


ただし、初期数作のドット画から画面がポリゴンに進化した頃に、やたらイケメンを出してくるようになった。それ以来「それちゃう」「このゲームにそういうの求めていない」と賛否両論の中で展開してきた。初期ファンが、新規ファンに「これだからおっさんは…」と言われながらも、「君たちも20年後に同じ思いをする」と言い返す不毛な争いを100年以上も続けているのだ。

開発自体も25年前後の期間に巡り巡ってまた初期シリーズ風に帰結するという、少し長い周期だがファッション界みたいなことを繰り返している。



でもファクトはそんな彼らが好きだった。

その世界のパイオニア放出時代を一緒に熱狂できなかったことが悔しい。


0と1の世界で全てが表現できると知って、それを世に出した誰かたち。

8ビットの小ささに、世界中を熱狂させる広大なフィールドを描いた先駆者たち。


その中に詰められている色がたった数色で、雁字搦めの制限の中で作ったものだとは当時ほとんどの人が知らなかっただろう。そして、小さな動きや色を表現するために、どれほど夜を徹したのだろうか。その情熱はすさまじかったに違いない。


量子コンピューターの時代を越えても、開拓時代のドキドキ感は超えられないだろう。


ドット画、胸熱すぎる。



「水と油だな。」

最新ゲームに例えられているのに、ドット画を思い出して世界飛行をしていたファクトをジェイが現実世界に戻してしまう。

「つーか、ここのティーンと比べると、俺ら世紀末系じゃね?悪役の方。」

「一応現実世界の、世紀末は終わったんだけれど。」

アジアは一度、大国の小競り合い、膿出し、経済崩壊などで全体が総崩れし立て直しをしている。その時に統一も進んだのだ。


「いや、世紀末系は悪役集団でもせめてヴァーゴやタラゼド、アクバルぐらいの厚さがいるだろ。」

「俺らは悪役にもなれないのか。ストーリーの都合で死ぬ脇役、チンピラや民間人、ザコって感じか?」

「そうですね。僕は悪役にもなれない普通アニメの『その他通行人』です。末世漫画だと死ぬコマが最初で最後みたいな。」

ラムダが落ち込むので、ファクトが慰めるよう肩を叩いた。

「大丈夫。彼らもアンタレスでぬくぬく暮らしていれば、孫の代にはひょろひょろになる。」


180超えるタウたちがいなかったら、自分たちは少年漫画になりそうだ。俺らは青年漫画にもなれないと、切ないCDチームの諦め気味一部メンバーである。



しかしそこで勇士ファクトは裏切らない。


「俺はキロンが一番好きだ。」

世界を見据えた顔で、向こうの代表者たちを見て清々しく言う。


そう、彼らではない。俺たちの作るべき世界は…。

そして、世間を見定めるように下町チームに向き直った。


「俺なら、選択キャラ『キロン/スチームパンク技士冒険家』で選ぶ…。」

ファクトが、話が飛び過ぎて一部の人間しか分からないことを言っている。

それに頷くのはジェイ。

「分かる。黒髪黒目、メガネのフレームは黒一択だな。」

ラムダも頷いている。


僕らのゲームフィールドは壮大だ。

自分たちは人の作ったものにあやかるだけだが、そこから世界を作っていける。


前方で並んている両リーダーたちをよく見極めた。

「彼らも2、3人は必要だ。」

「チコさんは仲間というか、ボスら辺だよな。仲間にいたらゲームすぐ終わりそう。」

「タウは拳闘士系、武闘家?サルガスは素手ではそこまで戦っていなさそうだから、銃とか剣とかやっといてほしいんだけど。銃より…なんだろな?あの髪と無精髭ならメインで戦うタイプではない。それかアクションシューティング系だ。女が出を出さないジャンルのゲーム。それなら主役でイケる。」

いつの間にかさらにジャンルが変わっている。

「ファクト、勝手にファンタジーからコマンド系にするな。」

「あの少しカールが入っている生徒。魔法も剣も使えそう。」


「やっぱカウスさん系も要るよな?でも、装備はアジア軍でも西アジア系が好きなんだけど。東アジア都市部の軍は迷彩入ってないから警察っぽいし。砂漠やサバンナ地帯まで行くと薄すぎるし。ユラス軍もネットでみたら乾燥帯が多いから淡いんだよな。色をコマンドーな感じにするなら…」

「……」

ジャンル替えするなというのに、真剣に悩んでいるファクトを寒々した目で見るみんな。


「てか、なんでアーミーなんだよ。戦士とかでいいじゃん。」

ミリタリーを外せないファクトを他のメンバーが切る。


「だから世界観がおかしくなりすぎて、シリーズ16以降さらに批判されてるんだぜ。ファンタジーなのにネタ切れとか言われて。MMORPG(大勢でできるオンラインRPG)になってからガチアーミーしょく入れてくるとかありえない。現代装備は禁止だろ!」

「そうだよ。ガチ現代系にするから嫌がられるんだ。」

ラムダ以外全員に攻撃されている。

「でも、迷彩なのに髪の毛、鮮やかキャラとかおかしいし。迷彩の意味ないじゃん。」

「そこがファンタジーだろ?ファクトもファンタジー装備に迷彩色入れ六くらいにすればいいのに。」

彼らが話しているのは『ゴールデンファンタジックス』のオンライン版だ。


遠回しにマイキャラ、ファーコックを批判されて怒るファクト。

「これだけシリーズが長いと他展開せずにはいられないんだよ!それに、アーミーが悪いんじゃない!初期からそういうキャラはいた!絵が初期作家と違う雰囲気だからだろ!」

「それ、違うゲームですればいいのに。『コマンドナイン』オンラインとか。」

「ファーコックは小2からの付き合いなんだよ。」


そういえば、ファーコックをずっと放置していた。3か月も放置したのでチームから外されていそうだ。これは悔しい。無念すぎる。また一匹狼になるのか。



すると、どこからか声が響く。


『アホか。』


ファクトは前席の端の方で、ユラス側の聞き捨てならない悪口を拾った。


「あの人?」

「あ?なんだ?」

「あの人、俺らのこと『アホ』って言ってた。」

向こうを指さす。


近くにいた全員で目を凝らす。


いたいた。

代表者が話し合っているのに、面倒くさそうに頬をついて端に座っている、すこし尖った感じの奴がいる。見た目は薄い薄褐色肌の典型的なユラス人だ。


「機嫌が悪い時のチコさんみたいな態度ですね。」

ラムダが人差し指で久々のメガネを上げる。トレーニングに邪魔なので普段はコンタクトだ。

「唯一仲間になれそうな人物だな。」


すると、下町ズが彼を見ているのに向こうも気が付いた。


『マジバカな奴らだな…。小学生か。』


呆れてこちらを見た彼は、まじめじゃないチコさん系な感じだが、尖ったチコさんそのままに顔は良かった。

「顔で差をつけてきました…。」

「足の長さもな。」

「ムカつくな。」

そして、すごくバカにしつつ嫌そうな顔で、代表同士話し合っている講堂正面に向き直る。

横顔もきれいで、余計にムカつく。



そしてふとファクトは思う。


ユラスの青少年たちにはなぜか時々カーフのように東洋顔、東洋的色素の人が混ざっている。それも不思議なのだが、チコはどの系統とも顔が違う。


ユラスは大陸が広い。

様々な肌や髪色をしているが、共通することが、だいたい鼻が高めで彫りが深いことだ。


けれどチコの鼻は高くない。外部から帰還した混血のユラス人なのだろうか。一般市民とは違うので、両親も国を越えやすい立場にいるのかもしれない。

ユラス地域内部だったら紛争が多かったから人が流入することは少ないし、人種的にはそんなに混ざっていないだろう。近隣の他民族にしても地域的には似た顔立ちなので、チコのような顔立ちになることはあまりない気がする。他大陸の混血か、アジア寄りの地方出身者なのだろうか。


あの髪の色はどこから来るのだろう。優生の色ではない。

突然変異?



ファクトの世界に一瞬、荒野が駆け抜ける。

チコはどこから来たのか、


プラチナブロンドに象牙色の肌。


普段はカラーコンタクトで隠しているようだが、深い青緑に紫と二色が輝く瞳、アースアイ。



西方ユラス人の淡い髪とも質が違う。


戦場に行っていたとしたらケガなどで、もしかして義眼かもしれないし、髪も地毛ではないのかもしれない。鮮やかな色がなければ顔立ちは東洋人っぽい。


でも、もしサイボーグにしてもあらゆる箇所が人造でも、戦場に行ったり特殊任務を果たすような人間に、バイカラーや目立つ色を与えるだろうか?自分なら茶系にする。戦地を降りて公で仕事をするようになったため、パフォーマンスカラーを与えたのか…。


ユラス人にも典型以外のタイプがたくさんいる。カウスも肌は象牙色で髪は茶系。でも何だろう。

このチコのしっくり来ない感。ユラス人と思って見れば見るほど、チコがつかめなかった。




「あの高校生にあからさまに呆れられたな。」

「でも、中心にいる人たちより、明らかにこっちを気に掛けている。」

「ファクトのせいじゃね?ミザル博士に似てるから。」

「『氣』を送ってみよう。」

1人が冗談で気を送ってみると、本当に気が付いたのかジェスチャーで「あっち行け」とされた。


やっぱり高校生にバカにされたのか。



でも、ジャンル違いの世界に、少しだけ安らぎを見付けた下町ズであった。

見た目はどう見ても相いれないが、何かが仲間だ。


その上、「今日の昼飯は彼を連行していく選択肢しかない」と思う、恐れ知らずのファクトであった。




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