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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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46 高校生より落ち着きがない



「礼!」

と言うと見物者も含め、講堂内一同がザッと礼をする。

アーツと揃いが違う。優雅かつ厳粛だ。



チコは講堂に集まっていたうち、アーツと今後(ちょく)に関わる者たちを前に集めて座らせ話を始めた。ここはベガスミラの、藤湾という学校群である。


「藤湾の生徒たちの半分は、大学修士課程も高校生で取得している。ここにいる彼らも非常に優秀で、だいたいが東アジア国立大、倉鍵医大などの学士修士を持っている。」

「え?」

イオニアたちが驚く。通称アジア大は、アジア最高峰大学で世界ランキングでもトップ3に入る。藤湾は付属学校でもあるらしい。

「東アジア大ってそんなに偉いの?」

「偉い偉い。」

リーブラにイオニアがテキトウに相槌を打っておく。


「次は勉強猛特訓なのか?これなら辛くても筋トレの方がいい…。」

正直、何の向上性も期待できない分野だ。なお、どっちも嫌だと落ち込んでいるのはCDチーム。

「…勉強するにも、日天にってん塾中学生から始めたいのですが…」

Aチームのキファが泣きそうだ。日天塾は幼小中学校メインの大手塾。名前は強そうだが、ロゴとマスコットキャラはかわいい。


チコが呆れ顔にため息だ。

「お前らに勉強教えるなんてそんな無駄なことをするわけないだろ。」

おそらくほとんどのメンバーが、高校以上のレベルは何一つ習得できないであろう。やるだけ無駄である。


横でカーフも困っている。最初から醜態を見せてしまい、よく見ると高校生ズが驚いていた。大人相手にバカにもできずかわいそうだなと思う。しても全然かまわないのに。

「困っているイケメンかわいい…。」

もう、ファイを相手にしたくない男ども。


「せっかくここまで力が伸びてきたのだからサイコス、霊性、武道や剣術はこっちで学んでもらった方がいいと思って。」



「中卒の者はここで高卒課程も取得してもらいたい。大卒希望者も受け付ける。」

横でエリスが言った。

エリス様。こんな頭のいい人子供たちの前で中卒とか言わないでください、との思いを悟ったのか付け加える。

「藤湾の生徒たちには、小学校にも通っていなかったり字も書けなかった者たちもたくさんいる。大人になってから通っている者も。大丈夫だ。」

地頭が違うんでないでしょうか?と思う一同。辛烈ナンバーワンのエリスが慌ててフォローしてくれるとは、救いようがない。



「聖典も完読しろ。一部以外ほとんど聖典歴史と関わっている民族ばかりだ。知っていれば、役に立つことも多いし、理解が広がる。」

チコが加えた。

アーツは40%くらいは習慣的正道教で、後は主軸が仏教系か旧教教的信仰。昔からある新教旧教は役割が違うだけで、現在ほとんど正道教と区別がなくなっている。無宗教は少しいる。ただ無宗教と言っても主義ではなく、親が放置していた者でそこに信念があるわけではない。


実はここも買われている。


無知でも無節操でも困るが、固定観念がないのでどの民族の間にも入れる可能性が高い。東の方にある島の特別行政地区にルーツを持つアジア人は、一番どの世界に入っていきやすいと言われている。ほぼ混血だが、アンタレス民の何割かはその血を持っていた。



もう一つ。彼らには変なプライドがなかった。


兄弟関係的な序列はあったが、能力があれば年下に学ぶことにも抵抗がない。VEGAをはじめとする組織が前時代からつまずいて来た理由が、若年層の指導に反発する者が非常に多かったからだ。これはアンタレスにも言えた。有能な人物を立てても、若すぎず女性でなく相応に地位のある人間をいちいち準備しないと交渉もさせてくれない。この時代のアンタレスにさえその傾向が一部の特権層で残っていたのだ。本当に効率が悪かった。前時代から何十年経ったのだ。

その雰囲気を打ち破れるかもしれない。


…ただ、もう少しプライドがあってもいいとは思うが。



チコが続ける。

「ここでは都市計画や移民移住計画の研究もされている。そちらは社会人や大学生以上も関かかわっているしおもしろいと思うが?ただ、移民に関わる以上、今まで以上に社会学、宗教、民族の分野も学んでもらう。」

大学は現役学生だけでなく、社会人も学べ様々実地できるところらしい。


「してみたいです!」

タウやキロンが楽しそうに言う。さすが大卒。

「目的があれば、そういうの知りたくなるし。」


「私たちは、異民族同士の間に入る人がほしいのです。特に私たちは、隔離環境にいるため受け入れ地域側の市民との繋がりも薄いです。アンタレスには優秀な団体職員や人員がそれなりにいますが、全然人員が足りません。」

また、無駄に顔のいい高校生ががサラッという。下町ズは高校時代、そんな世の他民族を思うなんてことを考えたこともなかった。自分の日常が回ればどうでもよいのだ。


「イケメンが解説してる!」

ファイ、ご機嫌である。


「ユラス人や一部民族は、気性や民族色が強すぎて、できることが制限されたりするのです。」

ここの学生を見る限りそんな風には見えないが、民族歴史的にそうなのだろう。ユラスと言えば文化が違い過ぎて、東アジア人にはあまりはっきりした存在ではないが、宗教や内戦のイメージがあるので納得はできる。


アジアも主に近隣国同志あちこちいざこざがあったが、数十年前に大分解決している。飛行機もない時代は近隣しかケンカ相手がいないのでそんなものだろう。旧時代に至っては、大体王家の親族同士の勢力争いで分裂し、近隣国家が出来ていただろうことがDNAの分析でも分かっている。


そして、前時代から数十年。生活圏に共同機関が多く発生し、連合諸国を中心にアジアやユラスの行政管理は、各地帯ごとにほぼ統一状態である。その象徴がアンタレスをはじめとするアジア数都市であった。その中でも東アジアは世界で最も経済規模が大きい地域であった。



そんな中、シグマがいきなりぼそっと一人ごとのように問題発言をした。

「髪、きれいに入りそうだな…。すごいきれいだし。そのままの方がいいか。」


は?


一同無言になってしまう。

「カミ?」

藤湾高校生たちが意味が分からなくて戸惑っている。


下町ズには分かる。ただどうでもいいことを考えていただけだという、前後事情を。

「シグマ…。」

チコが少し引きつる。

「お前ら、10分も緊張を保てないのか?」と小声でささやき隣にいたヴァーゴに肘を入れておく。

「お、俺じゃないんすけど…。」


「あ!何でもありません!淡い色の髪がキレイだなとうらやましくて。」


チコがトントンと軽く机を叩く。

しかし下町ズは気が付かないのか。

「分かる。俺は茶系だけどそれでも脱色2回だった。根本はやめてもらったけれど。」

ローが短いオレンジ頭を掻き分け、茶色い部分を見せた。

「まあ、禿げる時は禿げるっしょ!」

「えー。ハゲてもかっこいい人いっぱいいるし。大丈夫だって!」

「だいたい髪短いとすぐ根本目立つし。」


ズダ!

っと、また机が鳴った。

アーツ。驚いて黙り込む。

机にクレバスはできていないも、高校生の手前、怒りを制御したチコが青筋をたてて、笑って…いない。


高校生たちも無言で驚いている。


「君たち…。今なんの話をしているか知っているか?」

チコさん、『君』という敬称を知っていたのか!そして小さい声で付け加える。

「あと、体のことはタブーだ。ここの人間はそんなに気にしないと思うが、悪気はなくても暴動になることもある。」

「はい、ごめんなさい…。」

どっちが大人なんだ?と言いたいが、初日からティーンの前で叱るのはかわいそうだとチコは言葉を飲みこんだ。




「チコさーん。もうお昼なんだし、親睦会という事で飯にしましょーよ。チコさんに聴きたいこともあるし!」

ローが12時前を指している時計を見せつけた。

「はあ?!今、私が何を言ったのか分からないのか?なんでお前が仕切るんだ?12時に飯を食うという決まりでもあるのか?高校大学はまだ」授業の時間だろ!!」

言った矢先にこの低落。

「今日も通常トレーニングしてきたので、お腹が空きました…。緊張もしたし。」

ジェイはコンビニの頃の2倍は食べているも、まだ足りないのでボソッと呟く。


「なんだ?おやつタイムでも必要なのか?幼稚園児か?」

チコがブチキレ寸前の顔で笑っている。

「そういえばサバイバル訓練していなかったな…。1週間、東アジア軍の演習場貸してもらうか…。」

今、飯が大事なのか?もっと過酷なところにぶち込むか?こいつら、と苛立って来る。チコはまだよく分かっていないが、大房民に落ち着きがあるなら、底辺大房の学校は荒れていない。


「サバイバルか…。カウスさんもサバイバルしたいとずっと言っていました。」

「やばいって。カウスさんのサバイバルとか、不眠不休で断食とかして死者がでそう。」

「つうか、なんでそんなのしたいんだ?カウスさん、頭おかしくね?」

「俺はしてみたいけど。ユラス人とサバイバルって勲章もんだろ。」

「平和過ぎるアンタレスで、解消したいこといっぱい溜まってるんだろうな。」

その名前はタブーじゃないのか?と、怯える一部アーツ。


「土の中で寝たりするのかな?」

「ABCD混合でチーム分けしたい!」

「カウスさんが参加したいんだろ。そしたら民間人救出作戦みたいになっちゃうじゃん。」

「アーツVSカウスでいいんちゃう?」

それでも瞬間で負けそうだ。キャンプにもならない。日帰りだ。

「ここでほふく前進がやっと日の目を見るのか?」

「別に対戦じゃなくて、普通にキャンプでいいだろ。」

「最後カウスさんしか生きていなさそうですね!」


そこでさすがにサルガスが止める。今禁句のキーワードが含まれまくっている。「カウス」は禁句だ。

「まだ話し合っているだろ。いい加減にしろ。」


しかし遅かった。

ガバっとシグマの胸元を掴むチコの目が座っている。

「お前ら本当に気が緩んでいるな…。トラック10周を延長する…。20周にするか?」

「はは。チコさん、ごめんなさい!許してください!頑張って走りますので…。それ以上走っても体に負担になるだけです。」

シグマがチコを宥めた。


走るのか。お前のせいで。冷めた目でみんながシグマを責めた。



チコがシグマを持ち上げたまま周りを見ると、高校生たちが目をぱちくりさせていた。

「イケメンが揃って驚いている。かわいい。」

ファイの心の声が漏れている。ついでに言うと、メンズだけでなく女子もいる。


チコは高校生の様子に苦笑いをして、シグマを優しーく席に座らせ、頭を撫でてやった。

「ハハハ。今度から気を付けるんだぞ。」

エリスはもう口も出さない。


「はい!チコ!」

場の雰囲気を変えたのはファクト。

「なんだ?言ってみろ。」

「お腹空きました!」

「……」

これ以上言葉がないのか、チコは考えこんだ。


「…なら一旦昼にしよう。」

ため息ながらもやっぱりファクトに超甘である。


「1時間後、13時に再集合する。高校生の授業の邪魔になるので、近くの店でも学食でも好きなところで食べてこい。」

そして考えて付け加える。

「ほんっとにお前ら。問題を起こすなよ…。」



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