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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第四章 ベガスミラ

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45 ベガスの学生



風が気持ちよい。

午前中のトレーニングを終えて、バイクで指定の場所まで走るアーツメンバーたち。



「ヴァーゴ。RⅡはどうなった?」

ファクトはヴァーゴの後ろに乗せてもらっている。


「この試用期間が終わったら一緒に見てくれるって。部分しか残せないけれど。」

ベガスの整備屋で、気の合うおっさんに出会ったらしい。

あの日の1億7千万の時に、同じ痛みを抱えたヴァーゴ。元気が出てよかったと思う。


「ヴァーゴ。ヴァーゴはこれが終わったらどうするの?大房に戻るの?」

「…ん。まだ考えてないな。でも少し整備屋の勉強は続けようかと思う。ベガスの機種はけっこうすごいのが多くて、免許取らんと扱えんのも多いから。」

「いいな。いろいろ考えてて。」

「…お前が一番選択肢が広いだろ。」

「………。」

広くて困っているのに。

「受験する気はないんだろ。ならギリギリまで考えてろ!」


ヴァーゴは頭で後ろのファクトに頭突きをすると、一気にスピードを上げた。




***




一同はあんぐり口を開けるしかない状態だ。


「なんだ。こんなところがあったのか?」

ここは都会のオアシスか。よく言う都会のオアシスとはここのことか。



集合場所は、美しく整備された小さな都会だった。移民と聞いたら生活もままならないイメージがあるが、下町よりきれいだ。都会と言っても旧都市を整備したもので、高層ビルはほとんどなく緑を基調にした都市計画が立てられている非常にきれいな街だ。


少し先に見える女性たちも、アンタレス市内とは雰囲気は違うも非常にいい感じだ。なんというか、素朴さも洗練された雰囲気も両方持ち合わせている。


「これもベガスの一角なの?」

驚きまくる。教会や聖堂、聖殿もアンタレス中央にあるものに引けを取らない。


様々なお店も普通に経営している。病院や警察署もあり、役所もきれいだ。サルガス、一部のメンバーは存在は知っていたが来るのは初めてである。東アジア軍が周辺を管理し、ここも無法地帯にはならない地域だった。



『ベガスミラ』は現在のところ、移民計画の中央行政区に予定の場所だ。

ベガスはモデル構築都市で、移民以外の一般の統一アジア人はまだ行政、業務関係者とその家族しか入っていない。南海も行政地域だが、どちらかと言えば出入国管理、外国人教育の役割である。



端から見ると、見た目が暴走族状態のアーツベガスは完全に浮いていた。遅れて来たチコは、上空からバイクを乗り捨てみんなの真下に降りる。


「ごめん。話をしてきた。」

「チコさん。ここは?」

「この先、全員に同じことを教えるのは無意味だ。なので半日はここの人間に指導をお願いする。年下ばかりだが上司と思って接するように。」

「年下?」

「絶対に余計なことを教えないようにな。品行方正に振舞うように!」

「品行方正?俺らがぶしつけな人間ってことですか?」

「黙れ…。とにかく礼儀正しくまじめに行動しろ。」

ローが吊るし上げられている。黙っていよう…。



「こっちにこい。」

チコがアーツを招くと、少し先に女子集団がいる。


そこに、

「チコ様ーー!」

という声が少し先から聴こえた。『様』?『チコ様』?


そこに女子軍いたのは知っていたが、チコを待っていたのか?


「チコ様がこっち向いたよ!」

「彼らがそうなの?」

「キャーーー!!!!」

「チコ様!!」


はい??

何だ、この黄色い声援は。しかも、結構かわいい子も多い。


何人かは明らかにこちらに手を振っている。

チコが手を上げると、全員が揃って礼をした。45度を越えて頭を下げている子もいる。謝る以外で直角に礼をする人、初めて見た。


はあ?なんだここは??


入り口まで来たところで、男女の集団が待ち構えていた。

「チコ様!おかえりなさい!!」

数人の女子が泣きそうな声で言い、チコははにかむ様な笑みを見せてた。下町ズに最初の頃に見せたように、背筋を伸ばして颯爽と歩いていく。



チコさまあ??


は???


ヤバい。ファンミーティングなのか。それとも信奉者か?やば過ぎる。親衛隊か??

『様』とか、こっちが恥ずかしくてむずくなる。



「気にするな。軽く礼で返して前に進むぞ。」


先の集団のざわめきが止まらない。

「あれがチコ様が指導しているっていう?」

「ほら、あっちはご子息の?」

「向こうの(かた)ではないかしら?」

「よかった…。チコ様元気で。」


マジでやばい。震えあがる下町ズ。教祖か?





その集団の先の講堂入り口で待っていたのは数人の青少年たち。


彼らは先に来ていたエリスと共にいた。そして、代表者と思われる民族衣装か制服のような服を着た男性が1人前に出て、チコに膝をついて深く礼をする。


ふぁ?

何だ?


騎士団か?ここは王国か?


「いい。そういうのいいから、あっちに普通に挨拶して。アジア式でいいから。」

チコが行き所がなさそうに目の前の人物を立たせた。


「チコ様、お体は大丈夫でしたか?」

「ああ。」

「カーフ。本当にありがとう……」

チコはカーフと言った男性の両手をぎゅっと握って、うれしそうに笑った。


驚くことに、男の顔をよく見るとまだ非常に若い。

奥二重の大きな瞳は少し見開くと二重になり、とても秀麗な顔立ちをしている。アジア人に見えるが鼻が少し高く、長い黒髪が軽く結ばれなびいていた。


「カーフ、先にこちらに挨拶をしろ。アーツ代表のサルガスだ。」


「藤湾高等学校生徒代表でこちらの担当になります。カーフ・カプルコルニーと申します。2年生です。よろしくお願いします。」

「あ、よろしくお願いいたします。サルガスと言います。」

礼をすると手を出されたのでサルガスも両手で握手をする。


2年生?!一同ビビる。

普通に言う2年生だったら、ファクトと同い歳だ。


というか、高校生なのか。大学生だろ!ファクトと同じとかどっちかが詐欺だろ!



「ひとまず中にお入りください。」

カーフとかいう男は、高校生のくせにチコを軽くエスコートして中に入っていく。


エスコートって映画以外で初めて見た。

ただ、エスコートを受ける淑女というより、受ける側もかっこいい勇将のような感じで、姫感ゼロである。ネット小説マニアのラムダの目が輝いている。


2人とも長身で絵になるので、ファイがおかしなことを言い出した。

「何このスチ…。写真に収めたい……」


それと共に、下町ズにはもう一つ納得いかないことがあった。アーツの女子も含むほぼ全員が、一度はチコに襟首なり胸元をつかまれているか怒鳴られているのに、うちの上官はここではまるで猫を被ったように静穏かつ凛々しい。コマちゃんを襲撃したあの凛々しさに、高貴な感じを足したようだ。今となっては自分たちの前ではかったるそうなのに。


猫かぶりは許せん、と思う下町ズ。



その後、後ろや横に控えていた代表者数人が挨拶をした。驚くことに、こちらもなんというか、端正な顔立ちの者も数人いる。南ユラス特有の薄い褐色の肌に淡い髪色を持つ者が多いが、様々な民族や血が混ざっている感じだ。みんなそれぞれ制服らしきものを着ている。後で知るが、一部はユラスの昔からの正装の一つらしい。


向かって右から挨拶をしていく。だいたいが高2だ。


お前らやっぱり高校生なのか!

ティーンか、ティーンなのか!!

雰囲気に押されていたが、よく見るとまだ幼さも残る者もいた。背が高いと言っても半分はチコと並ぶくらいなので、ユラスの基準から見たら、まだまだ成長期だろうか。


アーツ側も部屋で決めた班長やABCDチームのリーダーが代表として挨拶をした。この中では背の低めなジリと、明らかに段差があるキロンが目立った。


目がハートなのはリーブラよりファイだ。

「あの人ステキ…。」

「おい、犯罪だからな。高校生だぞ。」

イオニアがぼやく横で、リーブラの婚活脳が起動。

「子供はちょっとね~。待っている間にこっちも歳を取っちゃうよ。」


というか、俺らはどこに迷い込んだんだ。


遂に下町とは完全ジャンル違いの世界に足を踏み込んでしまったアーツベガスであった。



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