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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第三章 ベガスアーツ

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39 チコVSカウス



チコが実質腕しか使えないので、先の試合に比べれば地味に始まった。


間合いを取る。



そしていきなりカウスが大きく蹴りを振るが、チコが手のひらで止めた。

チコの腕で蹴りを受ければ、カウスの足の方が足にガードが入っていないと折れる可能性がある。カウスはそれを知って、わざと大きく振ったのだ。

自分に遠慮するだろうと。


変な姿勢で受け止めたため、横に大きく揺れるチコ。サンドバッグが吹っ飛びそうな威力だ。


チコの背が高いと言っても170ほど。190越えのカウスとはリーチが違い過ぎる。チコの脚は長いが、それも使えない。



ここで観衆は気が付いた。

これって、すごく卑怯なハンディじゃないか?


片方だけ蹴り、投げ、組み、挟み、掴み、飛び技なしって、手と腕しかない。頭部は禁じ手だろう。そうなれば、全て許される相手に対してパンチ、肘撃ちぐらいしかないのではないか。

そんな相手に蹴りができるってかなり卑怯では?これを許した自分たちはかなり男が廃る……。

でも絶対チコの応援しないけれど。


というか、カウスさん、やっぱり一般人じゃないやん。と思うアーツ一同。普通の人はあんな蹴りはしない。



年齢的なものもあるだろうが、マリアスとは全然動きが違う。スタミナも重さも違うのだ。

一方的に数発足技を与えられるチコ。


その瞬間、蹴りを斜め上から入れられたチコが、床に叩きつけられた。


ダン!!!!!!


とすごい音がする。



「一本ーー!!!」


マリアスは判定を入れても二人を止めない。

え?「流し」ってそういう事?「やめ」「始め」の間も時間を止めないという事だと思っていた。



「ひいいい…」

またファイが目を閉じる。

カウスがそのまま俊敏に動き、チコの後ろ襟首を掴み引きずり上げ、後ろから締め上げる。首は禁止なので、腕をクロスで包み、その上でなんとチコの肩の関節に拳を入れてた。


これこそ禁じ手じゃないの?

カウスさん、思ったよりえげつない。そもそもチコより強いのではないか。


傍から見たらかなりひどい人だ。でも実践だったら関節に親指を入れていたであろう。


「止めようよ…。」

ハウメアが気が気でない。

あの時すごい音がした。床に叩きつけられた時点で止めてもいい。もしチコに義足などが入っていても、女性と男性では筋や筋力自体が全く違う。

というか、止めなくては。さすがに一回り細い女性にすることではない……


……のに、マリアスはまだ止めない。


その瞬間、チコが腕を広げ、カウスの腕を圧迫から引き離した。後ろに手を回して肩を掴み、体も引き離す。投げ技可なら、そのまま肩から持ち上げて前に飛ばしていただろう。



下町ズは思う。それって1ギアですか?

重量の全く違う腕を押し上げるのっていおかしくない?


チコは後ろにいるカウスのヘッドギアに一撃入れる。軽い一撃に思えたが、カウスが吹き飛んだ。受け身ができない。口を噛んだのか血が流れる。


「一本!!」


チコはカウスに乗りかかり顔面にもう一発入れに来る。ケンカ状態だ。カウスの顔を弾くが、脚でひっかけ後ろに投げられた。投げるというより、のけぞうるように150度回転して背中から床に叩きつける感じだ。でも、チコはブリッジで耐える。


2人が離れ同時に立ち上がり、また間合いを取った。緊迫した空気が流れる。



その時見てしまった。


カウスの正面にいた下町ズは。

ヘッドギアで口を拭にくいカウスが、滲んだ血を舐めた。そして据わった目で笑っていたことを。


ああ、ヤバい。やっぱここみんなヤバい人たちだ。

マリアスだけだ。まともなのは。


いや、あそこで止めないマリアスもちょっとおかしい。ただの修了式だぞ。


とにかくカウスさんヤバい人確定。




また間合いを取りながら打ち合う。


「15秒前!」


このままタイムアップかと思いきや、チコが姿を消した。


俊足でカウスの懐に入り、腹に左肘を入れそのままその左手の甲で顔に打撃を入れようとする。空いた右はもう一発腹に入れた。


うぐっとなるが、カウスはチコの左手を顎手前で弾き、左膝で脇腹を蹴ろうとする。しかしチコはカウスの膝を手で軽く台にして、両足を合わせぴょこんと飛び距離を取った。



そして、ほとんど見えない動きでもう一度懐に入りストレートを打ち込んだ。


ダン!


と今度はカウスが倒れる。手は動いているが起き上がらない。


「一本ーーー!!!!!」


「時間ですー!!!!」



「ウィナー、チコ!!」

チコの腕を上げる。



オオオオオーーーーーー!!!!!!


オーマイガッ!と頭を抱えるのは男子集団。10周追加じゃん!



マリアスたちがカウスに駆け寄る。そっちかいと思う。女性に気を遣ってあげてくれ。

「大丈夫です。」

カウスは片手で顔を覆ったまま手を挙げてた。

「歯は折れていない?舌は?」

「はい…口を切っただけなので。余興で歯を失いたくないです…。」

「マウスピース、必要だったね。」

それから自らゆっくり上半身を上げた。

「少しそのままでいて。」


チコが変わりに全体に礼をして、カウスの元に来て握手をした。

歓声が止まらない。


「うう、休暇…」

そこか、と思う。


でも、ちょっとかわいそうだ。



チコがギアを外すとブロンドの髪がサラッと広がった。


そして、振り返ってセリフを決める。

「約束な。お前らプラス10周だから!」


ウオオーーーーーー!!!!!

下町ズは悔しくて仕方がなかった。



エリスはカウスに駆け寄って、治療をしている。


カストルが指示を出した。

「チコ、カウスに3日休みを作ってあげなさい。連休と合わせて5日間になるだろ。3か月間のことも含め敢闘かんとう賞だ。」

「はい…。」


「敢闘賞って何?」

「よく頑張ったで賞じゃね?」


「あと1日増やしちゃだめですか?」

エリス伝いにカウスが周りをほだそうとするが、エリスをほだせると思っている方が間違っている。

「あれだけハンディを付けて女性を蹴り倒したうえに負けて何を言っているんですか。」

「ならせめて、ミラとの調整は誰か他にお願いします!」


「議長が戻ってきたら、チコを床に叩きつけたこと報告ですね。」

エリスはカウスの横に来てボソッと言う。

「それはやめて下さい!…というか、戻ってこれそうなんですか。」

エリスは神妙な顔だ。



エリスは薄い結界を張り、二人は周りに聴こえない声になった。

「交渉が最終段階に入っています。」

「そうですか…。」

「チコの逃げ道を塞いでおかないといけませんね。」

「…まさかそれで、アーツの統率を許したのですか?」

「ここまで面倒を見たらチコもアンタレスを放っておけないだろ。」

「…どうでしょう。」

下町ズと言いあっているチコを二人して眺めた。



「チコー!!」

「チコさーん!」

女子たちが駆け寄って来た。

「大丈夫?!」

「ああ。」

「私、チコさんが男だったら絶対結婚してあげる!」

リーブラのラブコールはいつも熱い。

「…そうだな、男だったらよかったけれど。」

ムギが割り込んだ。

「チコは女だよー!女でいいよ!女だから近くにいられるから…。」

ムギがチコに抱き着いた。


みんなは考えながらムギの言う通りだと思う。確かに女でよかった。男だったらこんなに近くにはいけななかっただろうし、この人が男でウロウロされても困る。

「女でよかった!推しを抱きしめられる!」

ファイが笑っている横でリーブラがその言葉に引いていた。


それにしてもカウス、関節押さえやがって。覚えてろ、と増やす仕事を考えているチコであった。



この後、どこともなく「カウスさんヤバい」というキーワードがアーツ内に広がった。




***




休憩が入って、その後修了式になる。


式自体は何の変哲もない式だった。

そこにエリスの挨拶と、カストルのお話が入る。


一般的な、慰労や戒め、今後への激励だ。


ちょっと違うのは、大房アーツメンバーの他に、見学者のおっさんたちがまだ居座ったことだ。酒はやめて下さいと忠告したのに数人、瓶とおちょこを持って祝杯している。



マリアスに司会を任せていたカウスが、体調が戻ったので壇上に立った。


「あー、皆さん、先ほどはすみませんでした。負けました。こういうことは、修了式の後にするべきでしたね。」

ブーイングと共に拍手も出る。



「と、これで試用期間は終わったのですが…


『特設試用期間』に入ります。」



「何ッ?ホントにやるのか?」

現店長シャウラが少し怒っている。

「店は誰が回すんだ?」

みんな見ないふりだ。


「休みの1週間はこの前説明しましたけれど、特設試用期間は何も話していないですね。1週間後の出発は今までと同じですが、内容によっては場所を移します。」


一同ざわめく。


「まあ、楽しみにしていてください。」



この人たちの楽しいは、死ぬか生きるかで楽しくなさそうだと思うアーツメンバーであった。




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