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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第一章 最初の出会い
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3 シリウスと出会う



「ファクト、こっちでいいのか?」


裏方に続く道を少し進んでも、知り合いやスタッフにも会わないしステージ裏も見つからない。母ミザルとも連絡が取れない。


「おかしい。」

ラスが「やったな、これは」という顔をした。

「迷子になった。」

「それは分かる。」

そもそも入り口から違ったのか。裏方で迷子になってしまった。


しょせんホテル。どこかに出られるだろうと高をくくっていたが、気が付いたら雰囲気も随分違う場所に出ていた。

歩き回ってさらに越えていくと何かのドアの前に来た。行き止まりだ。開かない。

「やばいな。間に合わないかも。別館に来てしまったとか?」

「えー!」

ラスが青ざめる。

「あきらめろ。別に最初から参加しなくてもいいだろ。」

「世紀初の大イベントなのに!近くに非常用通信機があるだろ!ホテルに電話するとか。」

「あきらめろ。目立ちたくない。」

焦るラスを宥めていると、目の前の扉が開いた。



一瞬固まる。


すると、二重の扉から、黒髪の女性が現れた。

さらに固まるファクトたち。


少しアップした前髪に、背中の真ん中まで届くストレートヘア。胸下から絞った柔らかい風合いの白いエンパイアドレス。


向こうも驚いてキョトンとしていた。


かわいいとも、きれいとも言える女性は姿勢を整えた。

「あ、大丈夫ですか?」


「あ!はい!」

きれいなお姉さんに声を掛けられてラスは真っ赤になって慌てる。どこかの特別ゲストか、コンパニオンか司会者か。それとも全く違う人なのか。

「迷子になってしまって!勝手にすみません。」

「そうなの?よくここに入れたね。」

「関係者カードを持っているんです!」

首にぶら下がるイベントカードを見せた。ラスに話しかけていた女性は、にっこり笑ってからファクトにも笑いかけた。


「…?」

怪訝な顔で少し引いてしまうファクト。

「なんでニューロスがいるんだ?」

ぼそっと声に出してしまって、ハッとする。


「!」

女性は驚いた顔をして言った。

「ニューロス?」


普通ニューロスは人間と区別するため、完全なホモサピエンス型の場合、体に「はん」という何かしら特殊な柄のコードや刻印を入れる。子供でも分かるように普通は見える部分、もしくはすぐに見せられる部分に入れる。

でも、この女性にはそれがない。


「ニューロス?」

ラスも驚いた顔で見る。

「まさか、何言ってるんだ?」

判を見せてくれるわけでもない。ニューロスでなかったら、失礼な話だ。ラスが慌てて否定した。


女性は驚きを収めると、またやさしく笑って人を呼んだ。

「こちらのスタッフに着いて行って。」

「あ、ありがとうございます!」

ラスが一礼して、二人はスタッフとその場を後にした。


「おい、ファクト。判がないだろ。失礼だな。」

「…」


少しだけ知った感じがするが、正体不明の存在にファクトは気持ち悪さを感じる。

会場入りを急ぐラスに、何も言わずにファクトは引っ張られていった。




***




部屋に戻った女性は、高鳴る胸を落ち着かせるため、目を閉じて胸に手を当てた。

そしてまたゆっくり目を開けて自分の手を見る。


あの子…。



「シリウス。もう調整はいいか?」

別の入り口からSR社社長、シャプレー・カノープスが現れた。淡い髪を整えスーツをビシッと着こなしていても、人に圧迫感を与えるかなり厳つい長身の男だ。


「先、扉を開けたようだな。」

「ええ。子供たちが迷い込んできて。」

「ここに?」


少しの沈黙。


「あの子…」

「あの子?」

「私が分かったんです。」

「…?」


「私が人間じゃないって…」


普段無表情のシャプレーが少し驚いた顔をした。


知らない人間が、今までシリウスをニューロスと見分けたことはなかった。霊性の力がある人間ですら、ほとんどが分からなかった。

「どんな子だ?」

「高校生です。」

「…」

シリウスは既に彼が誰なのか知っているだろうが、口にしないので追及はしない。


「まあ、追えば分かるだろうが今は今日の事に集中しよう。会議と違ってやり直しがきかない。」

追うというのは情報だ。おそらくすぐ割り出しはできる。ホテルはプライベートを優先させるため、会社と違ってアナログな部分も多い。瞬時ではないが、警備も把握はしているだろう。連絡がないという事は優先項目ではない。


「行こう。」

「ええ。」


数回の円卓の先の、私の出航。



シリウスはすっかり慣れたエスコートを受け立ち上がった。




***





盛大なの拍手の中でシリウスは迎えられた。


社長にエスコートされ入場し、ゆっくりとその手を離すと一人でステージの真ん中に行き、方々《ほうぼう》に礼をした。


はち切れんばかりの拍手はスタンディングオベーションに変わり、フラッシュの嵐が降り注ぐ。透けた長いストールをはためかせ、ニューロスは全人類に挨拶をした。



「こんにちは、私はシリウス。世界初の完全独立型ニューロスアンドロイドです。」


何とも普通な挨拶だ。

ニューロスとは人間生体と関連した工学技術。その技術を使ったものは、どんなメカでもニューロスというが、ニューロスアンドロイドを指す場合も多い。


下手しもてで、ラスと顔を見合わせる。

「さっきのお姉さん!」

「だからはんがなかったのか…」

ファクト、良く分かったなとラスは感心してしまう。


おおやけな、また一般大衆に周知されているアンドロイドは、本人自体が証となるので判はいらない。


「すごい!一般公開前に見るどころか、話までしてしまった…」

ラスは感動で涙目の上に震えている。ちょっと引くが、友人が喜んでくれるならうれしいことだ。案内してくれた研究員のチュラもうれしそうだ。チュラは唯一、研究員で今も仲良くしているお兄さんである。ミザルは調整で忙しいらしい。

一般公開と言っても、今回は既にお披露目が済んだ専門や公的機関以外の一般プレス、選ばれた研究員や学生、市場関係者たちへの公開だ。さらに全大衆公開は、おいおい様々なイベントを重ねていく。



主人公の登場の前に挨拶や概要説明、様々な見せ場が終わっており、社長の挨拶と紹介の後に、シリウスは特別な力など披露した。

会場のお客さんにリクエストされた機械の構想を、新しい技術ではないが指先から空間に映像やキーボードなど映し出し、メカの設計図を描いたり立体のプレゼン画を描き出した。その図はそのままプロダクト製品に使用できる。


園児たちに誘導され踊りも披露した。

先ほど、多くのニューロスが人間と混合して、人間とどれほど区別ができないかという民族ダンスを見せたが、その完璧さとは違う一面だ。

その場で園児に教えてもらい、初めて踊るだろう踊りに戸惑いながらも、シリウスが子供たちに合わせていく姿は何ともほほえましく、やはりニューロスと知らなければ、普通のお姉さんにしか見えなかった。


この人間との見分けのつかなさを、まだ他の企業、研究機関は再現できなかった。改革派が先手を取れないのはそこだった。




その後本懐。


講演が始まる。






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