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ZEROミッシングリンクⅠ【1】とりあえず集合する下町ズ ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第三章 ベガスアーツ

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32 追いつかない心と体



その日の朝、ジェイは真っ青になった。


アーツメンバー的ブートキャンプ。

先週の地獄の訓練。


3カ月ある試用期間の残りは全てあの訓練だそうだ。そのうち毎日2時限分、講習か仕事見習いに充てられる。ファクトは最低2時限は高校の勉強をするため、南海の特設高等学校に混ざる。




そして4日後。


ジェイは姿を消した。




「はあ…」


同室だったキロンは、ベッドにあった、

『ぼくはもうだめです。けん垂もできません。さようなら』

という置手紙にため息をついた。


サルガスに報告してサルガスもカウスに報告する。

「残念ですね。ジェイ君好きだったのに。」


アーツメンバーの一部が落ち込む。

「まあ、どうせ大房おおぶさに帰っただけだろうし。」

タウが食事をかき込みながら言う。

「でも、せっかくここまで来たのに…」

キロンは納得したくない。


「でも、ちゃんと手紙をくれましたしね。移民の失踪だと逃亡、誘拐、事故といろいろ調べなくてはいけないから大変なんですけど。一応所在は確認しておきます。」

カウスはさみしそうに言った。


「そういえば、移民って移動できないんですか?」

「だからVEGAなどで教育するんです。南海が主にユラス大陸や西アジア一部からの移民の入り口です。連合国法の他、東アジア人と同じように生活できるよう履修科目があります。それを取得して自立できることを確認し、住民権を得ないと基本自由な移動はできません。」

「あのじいちゃんたち、まじめに勉強していなさそうだけど…」

ファクトは思う。花札やサイコロなど賭け事ばかりしている。ただ、一旦教育は済んだけれど、まだ新住居に移動しない人も多いらしい。南海広場が年配の人たちにとって集まりやすい場のため、どこにも行きたくないらしい。個人主義社会ではないところから来ているので、人の騒めきがないと寂しいのだそうな。


「少なくとも、商売をしている者は全員住民権が必須です。税金や雇用のこともあるし、建物の管理責任があります。あとベガスの難民や移民は、住民権がないとベガスの外ではバイトもできません。お金を貯めても、個人住宅に移ることもできないです。」

「でも、あの人たち共同生活も全然苦じゃなさそうだから、まじめに頑張らなさそう。」

「ハハ。そうですね。そういう人もいます。」

カウス、笑うしかない。ただここは特警も軍人も多いためお縄も近い。


「でも、元々商家の出身者も多いし、頭がいい人も多いですよ。遊んでいるようで不動産とか扱ってた人も多いですから。不動産も放置して金が生まれるほど楽な世界じゃないですからね。そこらのアジア人より上手にお金を回しますよ。」



一部のメンバーはジェイの脱退に今の状況を考え込んでいるようだった。




***




ファクトは平凡と言えば平凡なのだが、コンプレックスを持つ者には非常に癇に障る人間だった。


勉強も大学に行けそうなくらいには、ほどほどにできる。

運動もソツなく何でもこなす。

友達も多く、前向きなくせにイヤなことからはサラッと逃げる。

学校の新学期にはいつの間にか友達を作っている。孤独でない。でも1人でも平気。

目上の人間にかわいがられ、話しやすいから年下にも頼られる。

お金に苦労しない。

美術は苦手だが、作ったものを笑われてもケロッとしている。

落ち着きはないが、頑張りすぎ屋さんでもなく気ままだ。



ジェイはファクトが好きではなかった。



あまり接点もないのに、何かあれば気軽に声を掛けてくるあの軽さも嫌いだ。


自分はコミュ障気味なのか、相手から声を掛けてもらわないと軽い付き合いの知人とも話ができない。もとい、する気もない。





以前バイトしていたコンビニ兼、ミニカフェのレジに続くカウンターでゲームをするジェイ。


バイト先に戻ってきたのだ。

お客さんが入ってくるが、この店は適当なのでとくに挨拶はしない。レジに来たら対応するだけ。


「ジェイ!」

は?この声。あいつだ。

「ファクト?」

炭酸水超刺激レモンフレイバーをレジに出して気安く声を掛けてくる男。ファクトである。


「ジェイ、そこ。そのアイテム使った方が、効率がいい。」

のぞき込んでゲームにまで口を出してくので、本当にムカつく。


「何しに来たんだ?お前もやめたの?」

「俺?今日は母さんと飯食うから。」

「あの強烈なかーちゃんか。」

「まあね。」


「チコに挨拶してないんだろ?戻ろうよ。」

「いいよ、別に。あんなことしたって意味がない。」

「でも、みんないろんな勉強始めてるぞ。」

「ここでも十分働けるだろ。」


まあ、一生バイトではある。


「どうせ、いてもいなくても同じだし。」

「そんなのカンケーないじゃん。いてもいなくても同じなら居ようよ。」

「……」

「多分お金積んでもあのプログラムはできないよ。もったいないからさ。適当にこなして、適当に縁も作ってスキルだけもらっちゃいなよ。」

それはそう思う。お金を積むこと自体も難しい。が、懸垂をこなすスキルは努力しても身につけられなさそうだ。


だいたいこいつは何しに来たんだ。

勝手に仲間意識が芽生えているのか?友情か?みんなにいい所見せたいのか?


と、捻くれて考えても…多分本能の赴くままに行動しているだけだろう。




自分にはそのテキトウができないのだ。


今は試用期間も個人プレイだが、もしチームワークがいるトレーニングになったら絶対に足手まといになる。


中高の体育で、バレーのトスを外した時の野次られ感をこいつは知らないのだろう。

「どうやったらそんなの外すんだ!!クソ野郎!」

と、運動神経のいい人間に怒鳴られた昔の不快感はずっと消えない。


…いや、ファクトなら「わりーわりー!」と笑って野次られても平気か。そこそこバレーもうまいのと聞いたので挽回だってできる。

でも、中高の体育は普通の授業でも結構高度だ。運動神経抜群の奴らに囲まれて、サーブもミスして舌打ちされた挙句に雰囲気が白々しくなるあの世界には耐えられない。


テキトウに生きて、テキトウにその場をすり抜けられるこいつがムカついてしょうがない。

「うるせーな。帰れ。俺には合っていなかっただけだ。」

「えー。ジェイもいたら楽しいのに。」

「帰れよ!そのドリンクは俺が払っといてやるから。さっさと鬼かーちゃんのところに行けや!」


めんどくさいけれど立ち上がってファクトを追い出し、そしてゲームを再開した。




ファクトは締め出されたドアの前で、気分を変えて歩き出す。


砂糖の入った炭酸飲料はやめた。

スナックに続いて加糖、人口甘味料のドリンクも禁止された。飲んでいいのは土日に160ml各一缶までと、許可があった時のトレーニング中のスポーツドリンクのみ。毎日飲むものでもなかったが、暑いとやはり飲みたくなる。でも、慣れたのか無糖でも平気だった。




***




ジェイの脱退と現在を知ったチコは、デバイスでジじーとジェイの履歴書を眺める。


世界の数億人が書いていそうな、平凡なプロフィールだ。少し祈りを込めて幸せを願う。もっといなくなると思っていたから意外だ。1人しか脱退者がいない。


それを喜んでいいのか、1人いなくなったのを残念と思うべきなのか。


でも、あいつの日記はおもしろかったけどな。毎日10分。日記も書いているのだ。


誰もいない廃墟ビルの上でそっと夜空を見渡した。



そして、胸にしまってあったA3の半分折りの紙を取り出す。

ずっとそこにあって、たくさんの折り目がくっきりついたその紙をまた見つめる。暗くても何が書いてあるかは知っている。もう何百回も見ているから。


星明りに照らされて、苦しくなる胸をぐっと抑えた。




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