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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第三章 ベガスアーツ

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29 ミザルVSチコ



いろいろ頑張ってみても、サルガスは何も見えない。


「俺の人生後ろめたいことだらけだからな。その方がいいのか。」

「気にするな。俺もだ!」

何人かが言う。

「ばかじゃねーの。自分が見えなくても、他人が見てるっつーことだろ?」

「一番嫌な奴じゃん。」

「もうそれはあきらめる。」


そして、シグマがヴァーゴの肩を組む。

「30越えるまで童貞だったのに、魔法使いにもなれないとはな。」

ヴァーゴ、童貞だったのか。知らなかった奴らが驚いている。

「精神的童貞じゃなかったんだろう。心がな!」

シグマ並みにお調子者のローが付け足す。それは慰めなのか。


「頭の使いようじゃないか?」

大卒が煽ってくるのでみんながケリを入れた。


チコが呆れて間に入る。

「ヴァーゴ。結婚するまでそのままきれいでいろ。その方がうまくいく。そしたら、そのうち誰か紹介してやる。」

「え?結婚の面倒まで見られたくないっす。大房のオバちゃんみたいだ…。」

なぜかヴァーゴの結婚には熱心なチコである。ヴァーゴが嫌な顔をする横で、男どもが大騒ぎだした。

「え?!マジっすか!俺にも誰か紹介して下さい!!」

チコは全部無視をした。




さて、この霊性とサイコス試験、初めから多少の力があった者を含め、半分ほどが指先に弱い光が見えるくらいの力を得る。一般教育を受けながらも幼少期や学生時代に力を発現する機会がなかった、下町の人間への2時間の指導の結果だ。これも新しい資料になった。



霊性よりも実はサイコスの方が難しい。


チャンネル、レイヤーが違うだけで、常に周りにあり、この世界では実体を伴わないが実在する霊世界よりも、固形の物質として存在するものに関与する力の方がエネルギーを使う。

テレパスのようなものは、サイコスに属するのか、霊性に属するのかまだ不明な力も多い。似た力でもいくつか種類があり発現の方法が違うのか。2つは共鳴し合うものなのか、それもずっと研究が続けられている。



また、サイコスも霊性も、血筋が力に関わってくる。


代々続けてそれを開発してきた血筋の方が、圧倒的に力がある。潜在能力の差だけでなく、長い期間の環境差も大きい。


そして個人差だ。

ファクトは親の十四光を神々しくもれなく浴びて、多少のことは生まれた時からできていた。乳幼児期には親の顔よりも、何もない場所をじっと見据えて居たり、そこに向かって笑っていたりした。なので、何か見えるのだろうと皆思っていた。


見えてはいたのだろう。

ただ、期待されていた分、その後はそれに添えなかっただけだ。


しかし、ファクトは父ポラリス並みの前向き思考で、世界の重鎮をがっかりさせたことにも、やはり全く落ち込んでいなかった。



ファクトの父ポラリスといえば、非常に柔軟な性格をしている。よくぞあそこまで無下にされて諦めなかったものだとみんなが引くほどに、あのきついミザルと付き合う気満々だったことは有名だ。しかも結婚までして、業界中が湧いた。


絶対出産子育てより仕事がしたそうなミザルのお腹が膨らんだときは、海の向こうの他社の研究所まで話題沸騰だった。


ポラリスはファクトのような身の軽さはなくとも、この親にしてこの子ありである。

十四光などあればよし、なくてもよし。憎らしいぐらいにファクトはダメージがなかった。少なくともそう見えるほど、ファクトはいつもあっけらかんとしていた。




***




その日の夕食の時間、今回は特別な試験だったので、クールダウンが必要である。


力の覚醒した者がその直後に気分が悪くなったり、勝手にマイワールドに突入しないようにする時間をあえて持つ。しばらくは一人になせない。今夜は全員が入れるぐらいの食堂に、チコも付き合っていた。夢を観ることも危険なので、夜も近くで待機する。




「待ってくださいと言っています!」


食堂の外から女の子の声がする。ムギだ。



全てを無視してドアを開け入ってきたのは無言のミザルだった。

全員がびくつく。

「こんなところに!」

食堂を見渡しファクトでなくチコに目を止めると、その腕をつかんで外に引っ張り出した。そのまま隣の人影のない場所に連れて行っくので、ムギも焦りながら追う。


「…。」

唖然とするファクト。

「あれ、かーちゃんだろ?」

「おい。ファクト、ヤバくないか?」

周りが心配する。


「あれがお前のかーちゃんか。」

「こえーな」

「すげーオカンだな。きれいというか、上品そうな人ではあるが。」

「行かなくていいのか?」

ファクトは驚いて、すぐに動けない。




そして、裏では恐ろしいことになっていた。


「こんばんは。」

「こんばんは?何のつもり?!」

チコがはにかむように挨拶をすると、ミザルがさらに怒る。


「関わらないでって言ったはずだけど?」

「ファクトに意志に沿っただけだ。」

「子供のせいにするの?学校までやめさせてどうする気?」

「いったん本人もいれて話そう。」


バシっ!


チコが柔らかくたしなめると、頬を張る強い音が響いた。

少しすると、顔が赤くなる。


「っ!」

ムギが青ざめて小さな悲鳴を上げる。


間に入ろうとしたムギを、チコが手で牽制した。


「バカにしているの?何を話すの?ファクトは連れて帰るから!」

「ミザル、落ち着け。」

そう言ったチコにもう一度ミザルが手をあげた。



バシッ!



追って来た全員が固まる。


ミザルの平手を受けたのは、チコではなくファクトだった。



「いで…」

思ったより痛い。頬ではなく容赦なく鼻をビンタされる。乱入した位置が悪かった。

鼻が曲がったのではないかという痛さだ。


「ファクト!!」

チコとミザルが同時に声をあげる。


ムギだけは「チコ!」とチコに飛びついた。

想像以上に痛みのツボに入ったようで、しゃがみこんで鼻を抑えながら手で待ったを示す。喋れない…。


「大丈夫か?」

チコが心配するがミザルがさらに怒る。

「あなたがかまう事じゃないでしょ!離れて!」

割って入るのはムギ。

「何がだ!話も聞かずに。チコに謝れ!」

ミザルはめんどくさそうにムギを無視する。

「とにかくファクトは帰らせるから。」


ムギは引かない。

「博士の息子が面倒事を持ち掛けたのによく言うな。勝手につれていけ!」

「…ファクト、家に行くよ。」

母親が引っ張るもファクトは動かない。


「行かない。」

「…ファクト?」

「行かない。」

「何を言っているの?行くよ!」

「絶対に行かない。」


「………母さん。本当に俺が決めたことだから。押しかけたのは俺だから…。」

痛くて少しもごもごしながらやっと話せた。一緒に来たサルガスは一歩離れたところで見守る。



「高校はちゃんと卒業する。」

「あなたは未成年でしょ。」

「父さんが許可してくれた。」

「…ポラリス……」

夫の名前を聞いて顔をしかめた。


「私にはファクトを保護する権利があるの。生活費も出している。」

「ここでは自分で生活するから。」

「なぜ私に言わなかったの?」


「絶対反対すると思って…」

ファクトは少し考えこんで…

「先手を打った!!」

名案だというように、ピースしていきなり楽しそうだ。


「………」

なんだ、この楽天思想。周りはついていけない。

親も呆れている。

「…」


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