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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第一章 最初の出会い
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2 シェル・ローズ社



『シェル・ローズ社』

SR社は前時代から続く、東アジア発の超大企業だ。



前時代とは、五感以外がまだなおざりにされていた時代。

人間は、地球上の目に見える現実しか世界はないと思っていた。


いわゆる思念や魂的なものは、迷信的、宗教的、ファンタジー、カルト的な立ち位置で科学もそこ止まり。そんな中、ある時代から目に見えないものを知る人々が徐々に増え始め、簡単な波動やオーラを見る人も一般的になっていった。


飛躍的に変わったのは世に知られている話では、植物分野からだ。


波動の周知は植物の生育に大きな飛躍をもたらし、食糧問題、自然環境回復に大きな影響を与えた。その後、精神、神経分野、生体、生態学、宇宙開発が大革命を起こし世界は一気に新時代になる。




SR社は原始的な前時代以前から続く老舗企業。

その前身は、前時代よりさらに前の旧時代、バラの香料や美しい紅を貝に詰めて売った頃から千年以上続いている。


そう、元々は化粧品会社であった。

SR社は業種柄植物を必要としていたため、時代や地理、環境的に難しくなる材料の確保に全力を注いだのだった。


前時代終盤に地味に続けていた化学分野、その設備などの科学分野が一気に開花し、いつの間にか工学界までリードする位置に立っていた。自動車やメカニック、医療でも大学でもないところから、ロボット生体工学の最先端が生まれるとは、誰も想像していなかっただろう。


非科学が飛躍的な科学の発展につながるとは、前時代の人類が思っていなかったように、その時代人々は多くの革命を経験した。




***




今日のイベントを仕切るSR社は、業界関係者とプレス向け公開を前に、慌ただしい雰囲気に包まれていた。今回は最も研究所に近いSRグループのホテルで行われる。


既に何度か必要とすべきプレゼンは終えていたが、一般のマスコミに流れるのは今日が初めてだ。会場周辺は開始前から熱に包まれる。


「ラスー!飲み物ソーダでよかったっけ?」

「…お茶って言ったのに。」

甘いものは飲みたくないというラスの注文を忘れて、ケバブセットにサイダーを付けてきた。買い物時ファクトは役に立たないという事をすっかり忘れていたラス。


まあいい。今回はロビーには有名な研究者が溢れ、ラスはそれどころではなかった。

「ラス、先に食べてるぞー。」

「ああ。」

ファクトは端っこの壁際に座り込んで、周りで話し込んでいる人たちを見ながらケバブを食べる。母ミザルに目立たないようにしろを注意されていたため、キャップにパーカの帽子を合わせて、なるべく顔が見えないようにしていた。


思ったよりうまいな。ラスのも食べちゃおうかな。もうすぐ時間じゃん。食べる気なさそうだし…と一応ラスの分は我慢したが、正直退屈だ。後で裏方の出入りが制限されるため、式典20分前には裏方に向かわないといけない。


そんなことを思っていると、一部の人々がざわめいた。



この会場の誰とも違う雰囲気の少数の団体が会場入りした。


空気が一気に変わる。



色の入ったレンズの眼鏡にプラチナブロンドの背の高い颯爽と歩く女性と、その少し後ろにカウボーイハットを深くかぶった自分より年下に見える茶髪の少女。そして何人かの屈強そうな男性。普通そうに見えて「どこかで戦ってきたのか」とツッコみたい雰囲気を醸し出していた。

プラチナブロンドの髪の女性は、ジャケットのフードを被っていたが、そこからチラチラときれいな髪がなびく。


ファクトも人の事は言えないが、彼らは高級ホテルに入るような恰好をしていない。


会場内には、技術者、エンジニアによくあるジーンズにTシャツの面々も多くいたが、それとも違って物騒だ。どこがとは言えない。なんとなくそういう感じがする。ミリタリー好きの血が騒ぐ。


エスカレーターを上がりきったところで警備員たちが駆けつけてきて、金属探知機を当てられてる。

「先も入り口でされたのに」

後ろの少女が不満げに言った。

「ムギ、全部従え。」

ブロンドの女性が小さく命令すると、ムギと言われた少女は仕方なく黙った。


エスカレーターから少し離れたところにいたが、ファクトにはそこでの会話は全部聴こえていた。


物騒な彼らはボディータッチも受けている。

「チコにはしなくてもいいのに。()()の人間だよ!」

イラついた少女が悔しそうに言って、チェックをする警備員の女性から眼を逸らす。屈辱的で見たくない感じだった。ファクトから見れば、皆さん怖そうなので、ボディーチェックされて当然だろうと思ってしまう。



そして少女が目を逸らしたその方角には…


ファクトがいた。



「あ…」


けっこうな距離があるのに、ラスのケバブをほおばる自分と目が合った。TPOもわきまえず、ヤンキー座りで食べている自分に少女は顔をしかめる。


どうしようか悩んで、一応笑いかける。


少女は「うげっ」とさらに顔をしかめた。


「どうした?ムギ?」

「ううん。何でもない」

ブロンドお姉さんはやさしく微笑む。ムギと言われていた少女はその女性の背中を押し、汚いものを見せないようにイベント会場内に消えていった。


「ウゲって、俺の事か?失礼だな、ムギちゃん。」





時計を見て立ち上がる。時間だ。

「よし、ラス。行こう!」

「あ!待って、行く!今行く!」


向こうで話し込んでいたラスを見つけて、自分たちは裏に向かう通路に行くことにした。



ラスのケバブも食べてしまったことは内緒だ。



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