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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第三章 ベガスアーツ

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27 アーツ好成績を残す



超ニコニコ顔で適性、適応検査を受ける人物。


引き気味な周囲に全く物怖じせず、ウッキウキだ。

なにせこの男。検査を受ければ、自分の将来をはっきり示してもらえると思っているのだ。


もちろん、勘違いである。


一旦そのまま参加する許可を受け、大張り切りだ。

「ファクト―!がんばれー!」

リーブラはファクト応援派、こちらも前向きな性格である。


一般良識、自分の嗜好性、性格、対人対物などの各対応力、処理能力、無意識的傾向、を調べていく。自己記入の他に、また脳波や様々なものを調べられた。

「なんで同じ質問がたくさんあるんだ?」

ヴァーゴがつぶやく。

「その場しのぎで回答してるか見るんじゃないのか?テキトウだったり一過性を通せないとか…。知らんけど。」


「なんであいつは楽しそうなんだ…?」

「おい、ファクト。お前何がそんなに楽しいんだ?」

「これで公務員が向いているのか、会社員がいいのか、機械工になるのか分かると思うとスッキリするから。青年団になるにしても、何の分野かいいか分からないかし。」

既にスッキリ顔のファクトである。


「…。公務員も会社員もピンキリだろ…。」

「そんなこと自分で決めろよ。どうせしたいことが分かるわけじゃないんだ。」

「…そうなん?」

「希望の職場に定着できるかも分からないぞ。就職したところで。」

希望の会社に長くいられなかった経験者キロンが言う。


「お前、このテストが人生を導いてくれるとでも思っているのか?」

「あくまで、現状の自分把握と目安だ。」

みんなが間髪入れずに言ってくるので不安になった。大房民、頭は良くないはずなのに、若いくせにこういう感覚は冴えている。


「……」

ファクトは先までのウキウキが沈没していく。



何も考えず当たり前に進学校に来て、気持ちが定まらない自分がいる。何かにすがりたかったのだ。正直、高校と似たようなことを続けるなら大学にも行きたくなかったし、専攻を絞るにしても何を選ぶべきのかもっと分からない。高校でも将来の専攻を決めるのが普通だが、とにかく行ってから決めればいいという人も多かったので流れに任せたのにモヤモヤする。

自分はこれからどこに行くのだ。それを教えてほしい。また母親に選んでもらうのか。


なのに、アーツのメンバーたちにも止められる。お前はちゃんと大学に行けと。

だけど、ここなら今まで知らなかったたくさんの選択肢が目で見える。実地にいろんな仕事をしている人がいて、手伝いもできる。ここで見つけたい。




「ファクト!」


チコが急に入ってきた。

みんなが挨拶をしても、それに構わずファクトに向かう。

「高校やめたのか?!」

「休学だよ。半年…。」

「最初に私が言ったことと全く逆だろ!」

半年で卒業が、半年も休学になる。


「ミザルは知らないんだな?」

「父さんは知ってる。」

「…はあ。」

大きなため息をする。

放っておけない『魔の2歳児』のようにチコはファクトを気にかけているが、ファクトからすると最近になっていきなり現れた、ただのブロンドお姉さんだ。他のメンバーと同じ目線である。いろいろ気に掛けてもらい逆に居心地が悪い。何と切り出すべきか。


周りも見守り、ファクトも言葉が詰まる。

「……」



「…試用期間だ。」

少し考えて、チコが先に切り出した。

「試用期間?」

「この試用期間、ここでの立場を保証してやる。それに付いてこられるんだったら、半年間受け入れる。」

「ホントですか!」


「その代わり、高校にはきちんと戻って卒業するんだ。とにかく高校は卒業しろ!分かったな。」

「はい!」


そしてチコは周りを見渡した。

「人数割れしている部屋に入れてやってくれ…」


キロンの部屋が空いているというのでそこに入ることになった。

「いいんすか?」

サルガスが呆れていた。

「楽しそうだからいいんじゃないか?パワーはありそうだし。」

「あいつの母親、許さないと思いますよ。聞くところによると、あなたとあまり関係がよろしくないと…。」

「…どうにかする。」

どうにかなるものだろうか。



ファクトは健康診断は高校で済ませているし、癌検査は若いのでパス。なので身体測定を済ませる。学力試験も学校で行ったものを提出することにした。

アーツ全体は、余った時間はスポーツをしているメンバーの指導でトレーニングしたり、ベガス、西区南海の全体構造の把握などして過ごすことにしている。




***




さて、水を得た魚とは、これを言うのだろうか。



4日目はスポーツ、体力テスト。


学力テストで死にそうだった面々があまりにも生き生きしていた。

教官も納得の好成績である。全国高校生の平均以上。

一部メンバーは国体に出るような高校生より成績がいい。ただの大房民なのに。


経歴や身体測定でなんとなくは分かっていたが、4分の1はスポーツのプロプレイヤーの領域。何人かは各武道の有段者だった。

国際規定で、一定以上の武道有段者は様々な規約があり登録が必要で、既に数人持っている。


そして、なんとストリートスポーツ界でのトップクラスもいる。

なお、前時代より総じて人類の基礎能力、健康寿命は上がっている。



ファクトも高校生平均よりかなり上、アーツ全体では上の下である。彼らには敵わない。


女子ではハウメアが圧倒的に優れていた。運動神経抜群で判断力もあり、そして学力もある。子供空手の師範をしていて、プロトレーサーに混ざってパルクールもしていた。パルクールとは、いわゆる現代版忍者だ。


元陸軍の教官のマリアスが感心する。

「みんないいじゃないか。」

カウスも面白がる。

「軍出身者より体も身のこなしも軽いですね。こういう筋肉の付き方もあるのかと。着やせするというかパッと見では分かりませんでした。細くてもかなり握力がありましたよ。柔軟性もすごいですし。」


この中では中の上の成績、といったところのサルガスは思う。軍出身者どうこうというより、ベガスの人間は全体的にガタイが良すぎると。とくにユラス人。アジア人も肉体労働の人たちが多く、身長関わらず筋肉が皆締まっていた。花札じじいたちでさえ、肩はそこらの若者よりいい。


普通の人から見たら、アーツのプロプレイヤーたちも全然細くない。あちこち血統が混ざっているとはいえ、東アジア圏では平均以上だ。それを着やせする、細いというとは…。と今更ながらここにいる教官に驚く。


身もスッキリしていて優し気なカウス。彼もヴァーゴに並ぶかそれ以上なので、おそらく身長190センチ越える。腕周りも肩も厚い。マリアスもサルガスと同じくらいの背丈で体重はさらにありそうだ。サルガスは182センチある。

ベガスの警官たちも下町の警官と全く違った。


ベガスは一体何を求めているのだ。一般人には謎しかない。





全国平均、平均以下のメンバーはもう、プロ並みの大房民らを追う気力さえ失っていた。同じ大房民なのになぜ。


ヴァーゴもそんな意識低い系の彼らに混ざって水を飲んでいる。ヴァーゴは得手不得手があっても、そつなく物事をこなすタイプであった。高身長で筋肉質だが、スポーツ体質ではない。本人曰く。草食系らしい。どう考えても肉を食っていそうな感じだが。





ファクトは一通り終わり、端の水場に向かった。


顔を洗っていると、女子のイータもやって来た。そんなイータの全身を思わず見入ってしまう。


イータはダンスチームのメンバー。フットワークやスウィング、アフリカンダンスなど足さばきのいるものを得意としていた。ファクトはチームダンスはあまりしないので顔見知り程度だ。ダンス自体は周りにのせられたノリでするだけで、自分ではあまりしない。


でも、知っている彼女と全然違う。ファンキーさに色っぽさを加えた感じだったのに、髪も地毛に戻しすっきりした格好をしている。運動神経も抜群なのに、今回のスポーツテストにもトレーニングにもほとんど参加しない。


「思ったよりおもしろい子なんだね。サルガスやタウが気に入るわけだ。」

イータがそう言っている時も、ファクトは無言でもう一度彼女のお腹をまじまじと見てしまった。

「普通はそんなにもあからさまに女性のこと見ないよ。」

「うわ!ごめんなさい!」

ハッと我に返って、驚く。


「ハハハ。赤くなってる!かわいい!」

「かわいいとかやめて下さい。」

子ども扱いされて、素直にいやそうな顔で怒ってしまった。

「ごめんねー。高校生はやっぱ違うな。」

何が違うのか女性の言う事は分からない。

「若いって感じがする!」

女性に絡まれてどうしたらいいのか分からないので慌てて遮った。


「俺行きます。イータさん、体大事にしてくださいね。

でも元気ですよ!」

「!」

からかわれたのに、それでもまたお腹を見てサラッと言うファクト。


「…。」

イータはいきなり気を遣われてキョトンとしつつも、少し固まった後に笑顔になる。

「…うん。

ファクトも…頑張ってね!」

イータは手を振って見送った。



ファクトの懸垂は7回だった。

もう少しできるようになりたい。


ぎゅっと拳を握った。




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