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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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21 対極の面談



南海広場競技場一角の会議室で、実に厳かな面々が集まる。


カストル宗教総師長。

その補佐エリス牧師。

チコ・ミルク・ディーパ。

西区南海自治長。

ベガス自治区域長補佐…


と、あと3人くらいいる。




対するその反対には非常にテキトーそうなのが揃っていた。

Tシャツにパンツ。長髪もいれば、カラフルな頭も並ぶ。一応最低限のTPOはあるのか短パンはいない。


カストルやエリスはデータと彼らを交互に見て、何とも言えない顔をしている。




「ジェイ・グリーゼ。21歳。高卒です…。

コンビニ兼飲食店バイトです。…以上です。」




「えっと、三光キロン。23歳。高卒。

 前職は農機具の修理工だったんですが人員削減になって職がないので、今は都会こっちに来てコンビニでバイトしています。」

「大木農機ならすごいな。大手じゃないか。」

「システム部分は担当していなかったので、比較的替わりはいたというか…」

「ここに来て何をしたい?」

頭を掻いて考えている。

「…なんでもいいです。仕事がほしいです。」

少し疲れが見える。


「……」

ベガス一同は「むー」と悩ましくなる。

エリスはため息を吐いた。国際組織トップが担当する面接とは思えない。





ただ、ここに各組織の長が来たのには意味がある。


彼らは人間の背後が見える。その背中に背負うもの。本人の持つあらゆる世界。

それでもトップが来るのは特別なことなのだが、今回初めての試みとすることがあったからだ。



「すごいな…。黒いな…。」

カストルが何も言わないのでエリスは対応に困り取り、敢えず思ったことを言った。


「お前ら真っ黒だな。」

チコも思わず言ってしまう。そして重々しく続けた。

「事前申告がなかったのでこの場で言わせてもらう。」


ひとりを指す。

「ジェイ、まずたばこをやめろ。喉も肺も真っ黒だ。」

「………」

早々小柄で細身のジェイという青年は返答もできない。


「そっちのモアとかいうの!女をとっかえひっかえするな!音楽の音がする…。クラブか?そういう系のクラブとか行くな。自分は何もしていなくても、いろいろもらってきてるぞ。20人ぐらいくっ付いてる。」

20人くらい女の霊が付いている。

「え?俺モテます?」

「………」



見え方はそれぞれ違うが、チコには彼らのしたことや思いがモヤで見える。

人として影を落とすことは黒がかり、内容が重いほどどす黒さが濃くなるのだ。


淫行に関しては気持ち悪い嫌な赤黒さだ。

蠢くようなあぶれてくるモヤ。

性癖が一番厄介だ。それから強情さ。




先から面談する下町メンバーは各々見るとグレー部分が一番多く、半数は黒い。きれいな白は誰もいない。この中ではキロンが比較的きれいだが、仕事がないせいだろう。負の感情に押されそうだ。


モヤモヤ過ぎて落ち着かない、モヤを通り越して濁っている者もいる。

普通の人がこれを見れば発狂しそうなレベルだが、チコはもっとひどいモヤをたくさん見てきたから平気だ。本人が遊びまわって、自分より濃い霊を付けてきている者もいた。



カストルがやっと口を開く。

「確かに…黒いな。」

データを見た時とだいたい一緒だ。


「先から何っすか?!黒いとか何とか。」

面談相手に愛想を振りまかない下町一同。最初は取り繕っているが、話せば話すほど素が隠せない。



カストルはデータと本人を見合わす。

「そっちの君はもう少し骨になるものを食べなさい。歳を取ってから一気に来るぞ。」

「え?おれ?」

下町ズは顔を見合わせる。

「君じゃない。君は運動もしているだろ。右腕を一度骨折してるか?でも、骨や筋肉は非常にいい。」

「僕はもしかして肺がんとかやばいですか?」

「それより横の君。その歳でその肝臓はいかんだろ。酒やめろ。病院に行け。」

「え?やばいっすか?まだ20代ですよ!」

「このまま生きた場合の予兆が見える。」

なぜが健康診断にもなっている。



「君、スロットやってるだろ。向いてないからやめたほうがいい。」

「競馬はどうですか?」

「賭け事自体が向いていない。」

ジーと見てあるひとりに目を止める。

「君の方が向いてるな。勧めはしないが。」

人生相談にもなっている。

そして何かデータに書き込んでいる。音声でも入力できるが、個人のことや多分知られたくないことだろう。



この1組20~30分くらいの面接。このメンバーの最後にチコは念を押した。

「お前ら、ファクトにその黒いの移すなよ。先の5人よりはいいが…。女性関係ないのも何人かいるな。そこはいいが、モア!お前はだめだ!」

5人は顔を見合わせてしまった。


「え?俺ら黒いのなんて見えませんし。」

は?みたいな感じでいうと、チコはキレている。

「私が記入しておくこと後で見ろ。そこには今後立ち寄るな。そこに行った後、ファクトに絶対近付くなよ!」


エリスはこんなにしゃべるチコに驚いていた。




***




全員が退出した後に面接官側はさらにため息を吐いた。休憩のため、まだ待っている者は自由に外を見学している。



あいつらまたリストを増やしやがって…。

今日の朝までに面接希望者が勝手に合計53人になっていて、チコは呆れてしまう。


「ユラスとはまた違った黒さですね。」

エリスがぐったりする。

「混濁しているな。」

「でもファクトの周りの彼らはまだいい方だ。黒くても人に危害を与えるような攻撃性はない。性や異性関係も全然いい。自分で断つ力がある。」

と、チコはホッとした。


「盗み癖のあるやつは心配だ。ただ、性質でなく環境的なものっぽいから変えようはある。」

ベガス自治区域長補佐が机に指を打つ。

「そうなんですか…。私は何も分からないから…」

南海とユラス人の元商工会会長は雇用の面でお世話になる。だが、モヤの件はノータッチだ。これは霊視ができる人間に任せるしかない。


飲み物を持って来た男性スタッフが食い入って聞く。

「浮気しているとかも分かるんですか?」

「絶対ではないが大体わかるな。相手の顔が見える時もある。」

「ひい!!」

ベガス自治区域長補佐がじっと見ると、驚いた彼が今度は白くなる。

「ハハハ!大丈夫だ、君は奥さん大事にしてるじゃないか!」

本当にしている人は、こんな分かり易い反応はしない。




そのスタッフが出てからまた本題に入いり、カストルが始めに話し出した。


「まあ、グレーだな。

思っていたよりひどくない。それに、光が見える者もいる。小さくかわいいのものだが悪くない。」

悪いものが見えるだけではない。その人物が持つ良いものも見える。


「ただ、数人要注意だ。ここには入れられない。アルコール依存症が1人。性依存症が1人…それから統合失調症かもしれない者が2人いるな。1人は今言った性依存症の者だ。まだ、今日来た大房の身内には手を出していないようだが、パイシースを紹介しよう。」

「持病持ちの事前申告が2件あったのですが、集団面接に加えない方がいいですか?面接中にリストが送られてきまして…。」

「病名は…、腸炎と…初めて見る病名だな。待ってくれ…」


本当にあいつら…。

なぜリストが今届くのだ。また5人も増えたらしい。



何度か資料を眺める。真剣だ。





「宗教をまとめた時よりは断然いい。」

とカストルは昔を思い出して言い切る。


霊視できる人間は自分がどんな霊の眼鏡をかけているかも知らずに、選ばれた至高の人間になった気分になる場合もある。自分の謙虚な姿を崇高だと勘違いし、良い主教を遠回りに蹴落とす者もいた。開き直っていても困るが、自覚がないとさらに厄介だった。1人に百人千人が付いて行ってしまうこともある。


がっちりモヤの壁で覆って全く他者を受け入れない者、ひどくたくさんの女の跡をぶら下げている指導者もいたし、お金に魂が侵食されている者。誠実だったであろうが、長い年月をかけて堕とし込められる者もいた。


地位が高ければ高いほど、預かり物も多くなる。染められたり潰されることだってある。


それが分かっていたので、連合国総会から宗教のまとめ役の依頼を受けたとき、カストルは他を当たってほしいと言った。ユラス紛争で大変な時期だった。でも、総会はあきらめずスカウトし彼は宗教界の総師長に就任した。



そして、その20年後、カストルは同志たちと任務をこなし解放され、ベガスに足を落ち着けた。

しかし、そこでも大きな依頼を受ける。


前は有神論者同士、それも戦争に直結する仲介だったが、今度はそこに無神論、物質主義、無気力世代も加わり精神世界はさらに混沌としてしまった。

ある意味、人本主義の勝利である。


学生時代は都市部にいて都会を知らないわけではない。でも、アンタレスは規模が違う。世界最大の経済都市で魔物が住み着くと言われる巨大地域だ。栄枯盛衰、貴賤貧富が先進都市の中に凝縮されている。


世界はひどく分裂して淀み、精神性よりも物に価値があり、便利なものが人の命を上回った。


これが自由資本主義の現実なら、精神性を重んじる隣のユラスの人間に剣を下ろせと言っても多くは納得しないと思った。前時代もきっとそうだったのだろう。


ユラスにもアンタレスにも、人を納得させる最終的なものを見いだせない。



しかし、これ以上計画を遅らせると横やりも多くなるし、前時代の建造物維持も難しくなる。

ベガスは旧都市を改装して作る新しい都市だ。計画が進まず流れれば、また計画の立て直しまで風化も進むだろう。今までも業者が、使える可能性のある建造物をわずかながら手入れしていたのだ。規模が規模なだけに管理費も莫大。それだけで専門の業界ができているほどで、早い人口移動は必須だ。



ベガスは人間や文化をアンタレスに集約させようとしているのではない。


ここからさらに再分布させようとしているのだ。



優秀な人間を育て、何かしらの才能で世界に貢献できる世代を作っていく。



そしてこの世代にはまだ早い少し未来の話だが、大きな区分に分けるとこれは三段階の計画になる。


世界への分布。

コロニーへの移行。

そして、類似惑星への移住。


人類目標の中の一つだ。



そこに連合国側としての大きな目標がいくつか加わる。


ニューロスの優先権を握る。

宇宙に戦争を持ち込まない。

最低限心身ともに自己管理できる人間を宇宙に送る。


まだ一段階も達成できているわけでなく、体制を整えて始まったばかりである。

SR社がシリウスを先行発表したが、結果はまだ出ていない。





面談の資料を眺めながらカストルはアンタレスに来た頃を思い出す。


文化の固いユラスと混濁が蠢くアジア。

どちらの良いところも悪いところも、どちらの言い分も分かるからこそ、どうしたら共生できるのかと途方に暮れた。


それでも、今日の面々も会ってみると結構おもしろい。


アンタレスにおいては上部やホワイトカラーの人間ばかりと話し、その人たちがまとめるリアルな住民はよく知らなかった。とくに貧困層と中間層の間は。人口でも割合の大きい層なのにスポットが当たらない、最貧困層とは別の意味で放置された世界。



孫娘として大切にしているチコが初めて言ったわがままだったから、息抜き半分で面談を思いついたのだ。会ってみるのも良いのかもと。エリスは頭を抱えているようだったし、思えば自分の分野外に手を出してしまった気もするが、思ったのと違う手ごたえを得て少し気分が浮き立った。




「縄なしでは無理ですね。うちの陣営に放つには。」

エリスが言う。


「チコ、どうするんですか?」

「決まっている。放つわけがない。」

「でも採用する方針なんですよね?総師長。」

「全員ではないがな。一度議会に掛けてから最終決定する。」


チコはまじめな顔で言った。

「あいつらを縄で縛れるわけがない。最初は檻だ。」



まだ面談は続くのだが、エリスはため息しかなかった。




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