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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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18/79

17 あの人はそこに



チコは投光器の上で懐かしいどこかを見た。



空を手で仰いでつかむ真似をする。


「………」

本当につかみたかった。


この後どうしよう。ファクトともいつか時間がとりたい。

半身を起こして鉄筋に背中を預けて座り、競技場外側の風景を見る。



向いた方はまだ開発途上。海のように旧都市が広がっている。


この季節は夜8時過ぎても明るい季節なので、まだまだずっと先を見渡せる。



軍が監視しているため、ほぼ無人だがそのいくらかは低所得層の住居だ。人のいない地域の内20%ほどは比較的簡単な修繕で使える建物らしい。移住可能地域のすでに8%ほどは住人がいる。アンタレスの建造物は、そんなに階層が高くなく前時代の物も比較的質が良かった。他のアジア都市には、手の施しようのない廃屋が多く点在していることを思えば、ここはだいぶまともだった。



こちら側には、日が落ちても新都市のようにきらめく夜景はほとんどない。


その代わり星はよく見えた。




***




下町の面々は頭を抱える。



一般人がチコに勝てる勝算はないだろう。


まず、下町メンバーはまとまること、統率されることを知らなかった。


ツィーがいなかったら、各々の持ち場を決めて分散して探すという方法も浮かばなかったし、そう思っても動けなかったに違いない。スポーツチームやサークルのような集まりはいくつかあったが、様々なグループの面子が集まった場合、指揮する人がいないしその決め方も分からない。


無法状態ではないが、顔は知っていたが初めてここで話した、初めて顔を知ったというのが、今日のメンバーの大方の状況。個々人が好きに生きてきた集団だった。


家庭環境が悪くて家出した者、親に放置されたり捨てられた者もいる。下町低層の学校にはチームを組んで取り組む授業なんてなかった。先生も面倒なので、グループワークは無視していたし、行事はできる人が好きに仕切って、どうでもいい人は見ているだけ。会社勤めや公務員も少なかったため、報連相も連携することも知らない。様々なスポーツはするが、みんなが大会など目指していたわけでもないので、基本個人プレイヤー集団なのである。



「なんで見つからないんすかね。」

「あと20分だ。」

「建物に入らないなら見つかりそうなのに。」

「追いかけっこ鬼ごっこというか、かくれんぼだな。」

「俺らのこと、バカにしてせせら笑ってそうですねー。」

「そうか?もうすっかり忘れて仕事してそうだぞ。」

「むしろ、帰ってそうだよな。」

「確かに。つまらな過ぎて、事の起こりすら忘れて家でビールで一杯でもしてそうですね。」

「おい、まだ夕方だろ。」

この時間に公共関係の職員が酒を飲むのか。


バイクで少し上空に上がり、複数で同時に確認したがチコはいない。広い会場でも、さすがに気配すらしないのは痛い。





仲間のバイクの後ろでファクトはじっと競技場を眺める。


「照明……」


ナイター照明。



ここまで見て居ないという事は、素早く動き回っているか、みんなが見ている位置よりかなり低いか高い場所だ。おそらく相手にされていないので、自分たちのために一時間もワチャワチャ動き回ることもしないだろう。


場外や小グラウンドの照明系統は既に確認してあるし、人が隠れる感じではない。メイングラウンドを一部覆っている屋根の上もそのイベント照明の隙間にもいなかった。バイクを使わないメンバーが花壇や植木の間も調べたがいない。


でも、メイングラウンドの鉄塔照明。ぱっと見で人がいるように思えなかったので、最初の段階で簡単に確認した後、捜索対象外になっていた。あそこまでは一般のバイクで上がれないし、鉄柱を伝って可能な位置までバイクで登っても、あの能力なら早々に気が付かれおそらく逃げられる。登って落ちる危険もあるので、一般人相手にそこにいるとは思わなかった。下からもある程度は見られ、既に確認しているが、もう一度4台ある大型照明を一台一台確認して追える時間はない。


しかし死角は作れるし、誰かが探している時だけ投光器上で身を隠した可能性もある。



ファクトは照明に1つずつ向き、人が隠れられるような場所をジーと見据えた。



一点。


そこに集中する――――



吸い込まれているのか放っているのか分からない、感じたことのあるきれいな粒子が見える。


周りはピンクと紫の柔らかい光。距離感も近いのか遠いのか掴むことはできない。

でも、そこだ。あの鉄塔だ。



「あそこだ。」




***




ムギはと言えば、あのお姉さん以外の女子も一人やってきて、女子会をさせられている。


「ねえ!ムギちゃん絶対彼氏いないでしょ~。」

「そういうこと聞くのやめなよ。嫌がってるじゃん。」

全く引かないリーブラ。

「ムギちゃん誰かお兄さん紹介して。カッコいい人いる?」


ごつい人ならいる。


「だからやめなって。うちらと住む世界が違い過ぎて、誰とも絶対合わないから!まず、そんな格好で仕事場に来る方がおかしい。」

「えー。作業だっていうから動きやすい格好で来たの!ヨガとかトレーニングもこれだよー。」

「自分の胸の大きさを考慮に入れなさいっつーの!あんたには私もときめかない!」

「ムギちゃ~ん。未婚のお兄さんとかいない~?」

無視するリーブラ。

「ちょっと聞いてるの?そんなことばかり話してたの?こんな中学性相手に!」


「そんなことないよ~。いくら私でもしょっぱなからそんなん聞くほど野暮じゃないもん。ずっと親睦を深めてたんだよね!出身地だって聞いちゃった。蛍惑だって!」

「リーブラ。絶対、ここで働かせてもらえないタイプだよね。」

むくれてリーブラは言い返す。

「自分だって面食いのクセに!チコさん見てときめいてたじゃん!」

「私は見てるだけでいいの!」



「あっ、ちょっと待って!」

リーブラが着信を受け取る。


「男の子からだ。ちょっと待っててね!」

ムギともう一人の小さいお姉さんファイは呆れ過ぎて言う事もない。



ムギは初めてのミニ女子会をしながらも、万が一の事故やケガに備えてチコと全員の所在目視とGPSで監視していた。





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