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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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16/79

15 弟子にしてください×36



「チコさんの弟子にしてください。」


弟子ーーー!!!

キターーーー!!!!!


雇うでもなく弟子!

合気道の道場でも聞かなかった言葉だーーー!!!!


全然ファンタジーでない人から弟子という言葉が出てきて、少し世界がぶっ飛ぶ。俺でも「バイトさせてください。」なのに。ここにいるとおもしろいことが多くて楽しいファクトである。


「え?部下ならいるけれど、弟子はいないな…」

チコ姉さんも戸惑っている。

「チコさんの元で働きたいんです。チコさんの直属で。」

そこを強調するツィー。


少し考えてチコは右手を顎にやる。

「最近出会ったばかりの弟との交流の時間がいるんだ……。」

「弟?」

下町メンバーが自分に注目する。どう考えても特別扱いっぽいファクト。


俺?


「それで手いっぱいだ。」

チコが持て余す動作をした。自分を言い訳にされるのか。

やめてくれ!自分は安定就職できるならどこ人間所属でもいいんだ!とファクトは焦ってしまう。

「お前…、この人の弟なのか?」

周りが騒めいた。


ああ、もうそこは無視してくれ。


「つーか、ファクト。お前なんでこんなお姉さんがいるんだ…。」

ニューロスさえ担いでいなければ、普通にきれいなお姉さんである。下町一同が、きれいなお姉さんがいることにも、そのお姉さんがヤバいことにも震えあがっていた。



ツィーはひるまなかった。

「だから、ファクトもいるからチコさんの元がいい。」


は?


「ファクトつながり、チコ所属。

ファクトとの縁だから、ファクトを通じてここで働きたい。」

しれっという。


ん?よく分からない。


チコがやっと真剣に答えだした。

「言っておくが、私の部下は基本……」

辺りを見回して、爽やかお兄さんに振る。

「超優秀だ。」

お兄さんの肩を叩く。


「え?私?!」

注目されて爽やかお兄さんは困っている。私に振らないでくれ!とジェスチャーしていた。

「いえ、名も知られない脇役です!補佐の補佐役です!」

優秀なのか普通なのか分からないが、お兄さんは怒らなさそうだから好きである。


みんなムギを見る。

「私は役職なんてないよ。ただチコのお手伝いしているだけ。」

そうなのか。

「なんだ、金魚のフンじゃん。」

ファクトの言葉に周りが凍り付き、周りにまた頭を叩かれれいた。ならムギは何をしているのだ。学校に行けばいいのに。


「私の周りは基本全員、銃器が使える。」

うーん。見れば分かります。そんな感じです。というか、それ言っていいの?


「だいたい大卒以上だ。」

こっちは大体中卒、高卒です。皆さん頭いいんですねと、みんな頷く。



「私の直下が一番死亡率が高い。」


…。


え?


一同な背筋が凍る。

それはやばい。



爽やかお兄さんに同情の目を向ける。

「私はそういう現場にはいきませんからっ。一般人です!」

お兄さん全否定。あなたも一般人より相当筋肉質なんですが。コマとの対戦の場にはいなかったが、現場にいたら警備用コマくらいやり込めていたに違いない。そんな気がしてきた。


「つまり…、お前は用なしだ。」

サラッとひどいことを言うチコに、無表情のツィー。


「就職口は、役所や事務局とかを当たてってくれ。」

「そっちの方が窓口が狭いっしょ。」

ツィーが向き直る。

連合国関連組織の就職口。おそらくこれこそ、コネ、何か特殊な能力や経験、大卒院卒必須だろう。生まれた時から貧しくともそれなりに暮らしていける下町の人間には、被支援者の移民たちよりも関わりあえる口実がない世界だった。


「最大限に利用できるコネがここにしかなくて。」

ツィーがファクトの頭を親指で小突いた。

「……。私が身内に甘い人間だとでも思ったのか?」


「ここにいるみんなが溺れていたら、一番にファクトに駆け付けそうです。」

間髪入れずに言うヴァーゴをに、またみんな頷いている。甘々な気がする。


「とにかく、VEGAとかでなくていいんです。チコさんの管理下に置かせてください。何でもします。」

「ダメだ。忙しい。」

「ならバイトのない時間、ここを手伝わさせていただきます。」

「もういい。ここは本来許可がないと入れない場所だ。」


「チコ!チコが紹介するという形で、食堂でもなんでも紹介してあげればいいだろ?ここ仕事多そうだし。」

ファクトが名案だと乗り上げた。

「俺も時々ツィーとここを手伝いに来るからさ!」


チコが少し警戒を緩める。

「時々来るのか?」

「来る来る。毎週来る。」

「毎週!」

ちょっとうれしそうだ。ここに来ればファクトと会う時ミザルを気にする必要も少なくなる。ミザルはここには来ないだろう。バレなければ…。あくまでバレない前提なら。

「うーん…。」


周りが、めっちゃ甘いやん、という視線を送っているのに気が付かない。


「チコ!」

ムギが遂に止めるが、その前にヴァーゴが叫んだ。

「ツィーが働くなら俺も着いて行きます!」


「は?」

チコとムギがおののく。

「俺はツィーと同じ道を行く!」


「…お前こそ、金魚の糞だな。いくつなんだ。子供か?」

ムギがファクトにさっきの言葉を言い返す代わりに、ヴァーゴに返した。

訳の分からない状態になっている。



「ちょっと待った!」


ここで、話についていけなかった下町の面々が声をあげた。


「ツィーがいなくなったら、アストロアーツはどうなるんだ!」

「そーだよ。店長でしょ?社長!」


さらに混乱が増すがツィーは言葉を用意していた。

「それは、もうシャウラに任せてある。」

「は?」

一同驚く。


「もともと人は足りていたし、前からあの店はシャラウに任せるつもりで準備してきた。」

シャウラとは店長Ⅱ。今回楽しそうだから行きたいと言っていたが、店番を押し付けられてきた仲間だ。帰りも遅くなっているので、相当怒っているかもしれない。


「なので、俺がチコさんの金魚の糞になります。」

まともなツィーがさらに訳の分からないことを言い出す。

「え?やめてくれ。これ以上、面倒事も仕事を増やしたくない。」

チコが後退る。

「糞がいっぱいですね!」

ヴァーゴがムギを見る。

「私は金魚のフンじゃないっ。」


「私でなくてもいいだろ。」

チコは周りを見渡した。


「カウスさんだと何時いついるか分からないし、ムギだと構図がちょっと怪しいので。」

ファクトは後で知るが、カウスとは爽やかお兄さんのことだ。

ツィーは確か20代半ば。ヴァーゴは少し前に30を超えている。確かにそんな男どもが14歳のムギを追うのは怪しすぎる。役職もないなら、従う名目も薄い。



「だからちょっと待ったと言っている!」

また、下町メンバーが割り込む。


「ヴァーゴもいなくなるのか?!」

「だから、雇わないって言っているだろ。」

げんなりするムギ。


「なら、俺も行きます!」

ひとりが声を出す。

「は?どこへ?」

思わず言うチコ。


「俺も!」

「オレも!」

「なら私も~。ムギちゃん大好き!」


はあ?!


「ツィーが行くなら着いて行く。」

「清掃でも皿洗いでもいいです!」

チコは忘れていたが、この面子。どっちにしても仕事に飢えている。そのしつこさは暇な分だけ新たなエネルギーに転換されているようだ。どうせ半分以上がアルバイターだ。


「今までツィーとやってきたのに、ここで放置はないだろ!」

今までとは、子供の頃からだ。そういうメンバーも多い。

「チコさんに就くツィーに付きます!」


夕方までになぜか人が増えて、相手は36人。収集がつかなくなった。

「お前ら!ちょっと落ち着け!」

ムギが怒っても誰もしゃべり止まない。


混乱に混乱を極める。



「いい加減、黙れ!!!」

遂にチコが怒った。


全員ががしんとする。

「ここで無許可で集会めいたことをするのは法に抵触する。」

やっぱりナンバー2だからみんなを雇う権限もないのかな、とファクトはこっそり心に思う。総監なのに。

「私はここで騒いだお前らを警察に突き出す権限もコネも持っている。」

めっちゃコネを利用している。



「いいか?ああだこうだ言うなら捕まえろ!!」


はい?


「追ってこい。」

追ってこい?

「役立つのか見てやる。

私を捕まえられたらお前らの面倒を見てやる。」


はあああ??

全員目を丸くし、爽やかお兄さんも戸惑っていた。


「今、4時半近いだろ。1時間後の5時半までだ。」

「?」

「5時半までに私に追いつくことが出来たら、まとめてお前らの面倒を見る。」


つまり鬼ごっこ?


「マジっすか?」

ヴァーゴ、驚きが止まらない。


チコはムギの帽子を取って自分が被る。

「どんな手段を使ってもいい。この帽子を捕ることが出来たら、私の部下にする。これくらいできないなら用はない。」


全員言葉が出ない。


「その代わり部下になったら、絶っっっ対的に言う事を聞いてもらう。今の生活を捨てるつもりでいろ。できない奴は来なくていい。」

ムギの頭は小さいなと言いながら、頭に帽子を押し込めた。


「ハンディはつける。私は足で移動する。利き手の手のひらも使わない。この競技場と敷地内の使われていない周辺道路や駐車場までを範囲とする。建物内にも入らないし、イエローテープや一般住居には近づかない。お前らは何を使ってもいい。ただし、人のいる場所でバイクを走らすなよ。」

乗り物にはAIが付いているので事故の可能性は少ないが、絶対ではないので一応言っておく。


「チコ!」

「心配するな。ムギ。絶対追いつけないから。」


仕方なくムギがチコの右手を拳にして、布で巻いて固定した。



「これで追いつけなかったら、お前らとこれ以上話すことはない。」


足で移動する相手にバイク良しで、自分も含めると36対1。ハンディというか、勝負はついていないか??というか、俺も加わるのか?ファクトはいろいろ考える。



「カウス。会議はクレスに任せる。連絡しておいてくれ。」

「え?チコさん、ひどいです。怒られるのは私じゃないですか?!チコさん自分で言ってください。」

「任せる。」

えーという顔をしたカウスを放って、チコは言った。


「ついでに言うと、潜伏して4週間逃げ切ったことがある。」


男性陣が「え!!」という顔をした。

今日来たばかりで、全貌をつかめていない下町メンバーは物騒な言葉におののく。普通の人は潜伏などしない。何の潜伏だ。

「民間人じゃないのか?」

「民間人だ。お使いを頼まれて。」

え?そんな事ってある?


「ニューロス数体から逃げ切ったこともある。あの時は最後は全部とどめを刺したけど…。こっちが死にそうだったのに、もったいないから壊すなと言われたときは少し腹が立った…」

「そうれはどういう状況で?」

「お使いを頼まれた。」

全員これこそ言葉がない。この人もしかしてアンドロイド?

ムギ大好き世間知らずのリーブラ以外は、無理目むりめな顔をする。


「だから甘く見るなよ。真面目にやらないとすぐ負けるからな。」

「…。」

「それから事故るなよ。私の責任になるから。」

そして、競技場の真ん中に設置してあったアナログの針時計を指して合図をする。


「じゃあ、5時半までな!あきらめてもいいから!」




チコはその場でダンッとジャンプした。


「わーー!」

と周囲が手を振る。子供の歓声だ。その時気が付いたが、周りは子供やおばあさんに取り囲まれていた。


チこは帽子を押さえながら建物の上を飛んで、時計台の上に移ると、手を振ってあっという間にどこかに消えていく。



さらに子供たちの歓声が上がった。




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