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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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14 接点が生まれる



「お前は学校だろ!」

怒るムギを無視する。


コマちゃん事件の翌日、けっきょく自分も学校をさぼってしまった。

だってこんなに面白そうなのに学校に行っている場合じゃないだろ。ムギこそ、いつ勉強してんだ。

卒業をすると言った次の日にはまた学校を休んでいるという、ファクトのこの低落。みんなの視線が痛い。



昨日のその後、ツィーが呼びかけて、中央区大房の無職の人、休みの人に声が掛けられた。簡単に状況を説明し、警察の前に出ても、様々な登録をされても調べられても、後ろ暗くない者が来るようにと言っておいたらしい。


結果アストロアーツのバイト、常連を中心に女性3人を含む30人ほどが来た。昨日の時点で10人だったが、今日来てみればこの大所帯だ。


「す、すごいな…。」

ムギが驚いている。

「人を連れてくるなんて簡単にできないぞ。ちょっと柄が悪いけれど。」

と、付けたし、画面を出して身分証明を進める。あれだけ屈強な人たちに囲まれて何を言っていると、ヴァーゴやファクトは思う。



女性スタッフの説明を全員が受け、各所に現れたホログラム画面に必要事項を登録してもらった。


連合国民なら顔や指紋などの体の一部、住民番号、電話番号どれかだけでも身分は確認できる。登録とともに、ケガや事故時などの保険が掛けられ、軽作業車の運転もできるらしい。ただし、スタッフの判断のない場では機械を使わないように言われた。そして、全員GPSや警報機能のあるバングルも付ける。

「こちらでしかつけ外しできません。無理に外して壊したら、弁償してもらいます。」

敬語のムギとは珍しい。塩な感じだけれど。


ボランティアだよな?これ。

それに、ボランティアって無計画に集まりすぎも困ると聞いたけれど、いいのか。


しかしそんな心配はなく、昼食はこのくらいの人数なら食堂で賄えるので勝手に食べて行くといいと言われた。数千人規模での生活が動いているから、この人数くらいかまわないという。


数千?ここ以外にもいっぱいいるのだろうか。



「チコは今来れないけれど、午後には来ると思う。」

爽やかお兄さんがファクトたちに伝えておく。

「それにしてもすごい人数だね。昨日の今日でここまで集まるとは…。」

「大房民って暇なんだよね。面白いことあると仕事休んでも来るし。」

学校を休んできたファクトが好き勝手言っている。


「今日は引っ越し先の方まで見てもらうから、とくに男手がない家を手伝ってあげてほしい。」

女性と子供年寄りだけを、先にアンタレスに送り出した移民家族も多い。大型の作業は専門のスタッフがいないところではしないように言われた。



ツィーの知り合いがムギに絡んでいる。

「ムギちゃんかわいい~!14歳?わっかーい!」

「あ、あの、こちらを確認してください…。」

「学校は行かないの?うちで一緒にバイトする?かわいいから人気出るよ~!」

アーツにバイトに来る少し豊満なお姉さんリーブラに、ムギはたじたじだ。

本当に学校はどうしているんだ。


「あの、お姉さん、貞操観念の強い民族も多いので、胸元は閉じてください。」

ムギがストールを差し出す。

「えー。かわいく決めて来たのに~。」

「余計なもめごとは起こしたくないんです。」

「もう~。分かったよ。大丈夫、上に羽織るものはあるの。ムギちゃん困らせたりしないから!」

「腰にもストールを巻いてください。」

レギンス一枚のため腰も吊り上がったヒップも出ている。

「もう!大好き!」

「うわっ!」

お姉さんは薄手のジャケットを着て胸元を閉じると、ムギに抱き着いた。いきなり豊満な体に抱かれて叫んでいる。大変そうだ。


この後、男女共に絶対にナンパなどしないように、犯罪罷免両方防ぐため大人は2人以上で組むとの項目も付け加えられた。

リーブラはテヘヘと笑う。





競技場は活気に満ちていた。


昨日と違ってたくさんの子供たち、学生らしき年齢層も多い。よほどの高齢者や僻地からの人でなければ共用語を話せる人も多く、作業は順調に進んでいく。移転先の建物は点検、補修が済んだ旧都市役所の元研修宿泊施設群などで、長年放置されてきた建物である。それでも多少の管理はしてきたし、他の建物に比べると新しいので最低限の補修しかしていない。住まいを失った者、ベガスの正式な住民権を取得したものは一旦そちらに引っ越す。その他の仮施設もたくさんあるらしい。



意外にも大房おおぶさの下町メンバーの働きは好評であった。


エアコンの掃除、取り付けが出来たり、劣化の目立つ部分の壁紙の張替え、電灯設備の補修、買い替え、交換など手際が良かった。道具や環境が整っていない中でも彼らはできることをした。まだ機会が少ないため、重い物を運ぶ作業や簡易正装以外は人間が行う。

贅沢はできないけれど、最低限のリフォームは要る。補修しないならしないなりに住めはするけれど、仮住宅とはいえ、アンタレスという先進地域には先進地域なりの管理、体裁が必要なのだ。

ほころびをそのままにしたり、間違った作業でことを進めると、治安も保てないし建物の劣化が早くなる。彼らはきちんと作業をしていった。


いくらかのシステムはデジタル、AIのため修理管理や操作が難しいこともあったが、簡単なことならこちらの生活が分からない住民たちにもノウハウを教えた。移住前も厳しい環境にいたため生活力のある人も多く、若い人は修繕の仕方もすぐ覚える。習ってすぐ自分たちで壁や床を張り替える人もいた。



驚いたのは飲食、銭湯施設だった。


南海広場周辺に数十か所もあり、露天、市場もある。男女に分かれていても一緒に入浴する習慣がなく公衆浴場を使えない民族のために、住居以外にも数百のシャワールームもあった。個々に台所や浴室を有する住宅もあったが、食事は大勢ですることを好む人が多いようだ。夕食や休日の昼は一族で囲う家も多く、昼はにぎわっている。


「あ、仕事中はお酒飲まないでね。勧められてもお昼の時間はやめてね!」

ムギが釘を刺した。


昨日、お茶にけっこう強い酒を混ぜてたばーちゃんがいたな…。

ヴァーゴは、ここのばーちゃんたちは危険だと判断した。


ツィーやその他の兄貴分たちは、このエリア全体の地図を広げ、開発計画地域、途上区域、現在の状態など爽やかお兄さんから話を聞いている。機密事項もあるので公開されている分だけだが、競技場を中心とした区分けの話などしてくれた。

下町メンバーは一番準備が遅れているところに行きたいと言ったが、今日でできることは限られているので、午前中に関わった世帯までで留めることになった。




***




「ツィーさん。思ったより楽しかったっす!」

午後3時に切り上げる予定が、4時になる。


「明日も来ますよ。」

と一人が言う。

「いや、みんな仕事もあるし、手伝いがすぐに必要な人の分は終わったからいいよ。好きなの持ってもって行ってくれ。」

サイダーを飲みながらツィーが言う。いろんな飲み物の差し入れだ。


それぞれくつろいでいると上から、影が現れる。



チコのバイクだった。

無人で、少し離れた横に着地する。


「よう。よくやっていたか?」

「チコさん!」

ツィーが振り返り、周りも気になって目をやった。

「チコ?」

「誰だ?」


チコの顔を確認する前に、全体が青ざめた。


現れた女性が頬から血を流している上に、腕が取れて機能停止している警備用男性型ニューロスを抱えていた。


それをバイクの横にドサッと置くと、爽やかお兄さんがタオルを持って駆けつける。

「チコさん!顔!拭いて!」

「ん?」

「ちゃんとヘッドギア被って下さい!」

「…?あ、これ、私の血じゃない。」

味方を助けたのか、敵を制したのか。そもそもニューロス一メカニックを軽く担ぐとは…。やばすぎる。


「この機体、片づけておいてくれ。届けは出してある。」

チコが言うと、他の人員が現れて、ニューロスを布で覆った。



「あ。本当はこういう時すぐに本体を届けるか警察呼ばないといけないんだけれど、近くだったから気になって…。」

チコのごまかし笑いをしているが、誰も笑ってくれない。

「警察がまだいたら、一緒に持って行ってもらえばいいかなーと。」


「これはどういう状況ですか?」

大房民、聞いてはみる。

「昨日のコマ状態だったから、ちょっとね…。ハハ。」

要するにまた乗っ取られたと?やば過ぎやしないか?そんな簡単にシステムに入られるものなのか?

それに、普通の人間には手に負えないはずだ。

「この会社のニューロスは大して強くない。」

チコは言うが、みんな心で首を横に振った。そういう問題じゃない。

「あ、今のは秘密にしてくれ。ただのニューロスがただの事故にあったという事でよろしく。実際そうだし。」

ただの事故って意味が分からない。チコに会ったことが事故なのか。

昨日のコマの話が分かる人向けにチコがそう耳打ちする。警察の許可もないのに、乗っ取りの話が広がったら困るのだろう。



そして、まっすぐファクトのそばに来る。

「学校はどうしたんだ?」

「昨日の今日なので、こんな日くらいお手伝いをと…」

「はぁ…、学校に行け。」

ため息とともにファクトの頭をガジガジし、それからチコはみんなに向き直った。


「私はここ西区南海の副総監、チコという。よろしく。

部下から報告を聴いている。今日はありがとう。ファクトの知り合いたちだってな。感謝している。」

まだ肩書があったのかと、頭に入れておくファクト。そしてまた「副」とな。「代理」とか「名誉」とか、いつも微妙にナンバー2な出世である。


「今回謝礼は個々人に払えないが、キャッシュを送る。2万5200円分いれた。休憩時の飲食代なので何かおいしい物を食べる足しにしてくれ。」

まだ帰っていない全員を見渡してツィーが首を振った。

「もらえません。」

「飲み物、食事代と思って。」

この時、下町メンバーの気持ちは固まっていた。また機会があれば手伝いに来るつもりだ。次来る時、お互いの気持ちに負担を掛けたくないので貰うつもりはない。既に昼食も水やブレイクタイムも出してもらっている。


断ろうとするとファクトがしゃしゃり出てきて、素直に頂戴した。

「ありがとうございます。」


バゴ!と

ツィーに頭を叩かれる。

「いでっ!」

「もらうつもりはない!」

ムギがまた嫌そうな顔だ。どんどんファクトへの信頼を失っていく。


「まあいい。もう送金した。今日参加したメンバーをまとめて経費扱いにできる。貰う方も非課税だ。酒とかはやめておいてくれ。」

「…あ、ありがとうございます。」

ツィーがアプリを確認し、続けて声を掛ける。

「あのチコさん。後で話が…」

「少ししたら、また行かないといけなくて。ここで話せないか?」


「…」

ツィーは少し沈黙の後、口を開いた。


「チコさん。

…俺を雇ってくれませんか?」



雇う?



?!!!

また周りがざわめく。

「ふ?ツィー?!」

いつも一緒のヴァーゴから変な声が出た。


「…えっと。」

チコが戸惑う。俺の次の問題児はツィーだったのか。ファクトは仲間を見付けて安心する。


「ツィーだったか?昨日言ったように、簡単に雇用は作れないし…私に人事権はない…。VEGAの事務局に聴いた方がいい。組織が大きいからな。調べればネットに出てくる。東アジア支部で調べてくれ。」

え?総長とか肩書があるのに、話を付ける力もないのか。さすが代理。驚きつつも隣で話を聞いているファクト。




「違います。あなたに就きたいんです。」


は?


今日も「は?」が飛び交って仕方ない。

ツィーは至って真剣な顔をしている。


「あなたの管理下の人でもいいです。」



すっかり活動は終わっていたが、

この状況で帰る人は誰もいなかった。




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