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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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13 少年はこじらせる



3時半頃に、たくさんの人が競技場に現れた。


壊れた家から貴重品や使える家財を運ぶのだ。


アジア地域の人が少し。ほか様々な人種がいて、今回多くはユラス地域の人々だろう。やや掘りの深い顔に少しだけ濃い肌。そして淡い色の髪の毛。中央南ユラスの特徴だ。


理由がない限り大人か家族代表だけと指示があったのに、子供たちがたくさんいる。

「誰も規則を守らないんだな。」

ぼやいたリゲルにムギが言う。

「まあね。」

警告の表示された区域や家には必ずスタッフの同行が必要だったが、おばあちゃんたちは言う事を聞かないので、それを止めるのもお願いされる。


「おばーさん。つぶされて早々天国に行っても知りませんよ」

スタッフの男性が止めてもおばあさんは聞かないので、それを手慣れた感じで宥めながら家に入る。あちこちにいろんな言語が飛び交っていた。


やっと得た住宅の有様に泣き出す老人たちもいて、ファクトは不甲斐なさを感じた。ただ、無料で貸してもらっている仮住宅ではあるが。最終的にここはグラウンドに戻されるための一時仮設のため、被害のない場所は工事エリアや車両用道路などにかからなければ、そのままになるらしい。



4人はスタッフの付き添いをとともに、住民の引っ越しを手伝った。

ユラス人は信仰深い民族らしく、運び出すのは経典と家族写真、それから先祖代々に伝わる絨毯や織物などでファクトから見たらとても少なく見えた。避難警告が出たときに、おばあさんたちがたいていの小さな貴重品は持ち出していたため、半分は野次馬だ。

家によってはみんな出払っていて通学、勤務中。急いで駆けてくる人もいた。


使える家具や家電を運ぶのを手伝う。備え付けの物もあれば、こちらで買った物もあるらしい。重い物はロボも使う。ツィーやヴァーゴたちはメカによっては操縦資格を持っているので重宝されていて、リゲルも器用に機材を使いこなしていた。

ファクトは、ばあさんたちの言っていることが分からないくて怒らせてしまったり、家具の畳み方が分からなくてどやされたりした。


…伝統工芸品の扱いなんて知らん!

自分非力すぎる…。あいつらなんでしょっぱなから役に立つんだ。



ツィーたちを横目で見ながら、自分の取るべき資格項目が増えたと今後の計画を考える。二輪が先だな。技術学校なら在学中に普通車の免許も取れるのに…進学校はつまらないが仕方ない。メモメモ。専門高校に行っておけばよかったといろいろ後悔する。


ここで手伝う前に、男女2人にならない、女性子供を1人にさせない、男性スタッフの場合はそこにもう1人スタッフを同行させる。不用意に込み入ったことを話さない、人目のない場所に行かない。仕事を手伝う時はスタッフを1人含むペア以上で動く。基本彼らの聖物など貴重と思われる物に触らないことの他、いろいろ注意を受けている。

落ち着かない生活に慣れっこになってしまった人もいれば、神経が高ぶっている人もいて、トラブルがあったらすぐ人を呼ぶようにとも言われた。




少し疲れたので観客席に座って周りを眺める。


ヴァーゴはばあさんたちに取り囲まれて、やたら頼りにされていた。遂に仕事そっちのけで、お茶まで出してもらっている。言葉も通じなさそうなのに、今日何杯目のお茶だ。



ツィーはVEGAにいた爽やかお兄さんから、回収前のコマの辺りでいろいろ話し込んでいた。


お!あのお兄さんいたんだ。爽やかお兄さん、いつ来たんだと、ファクトは嬉しい。

祖父母について来たり、親の代わりに来た子供たちはあちこち走り回っている。でも、コントローラーの件を思い出して、少し寒気がした。




すると、立ち入り禁止テープを持ち上げてムギが現れた。


「ムギさーん。」

「…」

ムギは一瞥いちべつして去っていく。

「ムギさぁ~ん。」

「……」

「ムギちゃ~ん。チコはー?」

「はあ?」

嫌そうに振り返った。

「チコは忙しい。ここは任せてとっくにどっか行った。」

「どこに?」

「知らない。他に仕事がたくさんあるから。」

「ふ~ん。」

「多分もう会えないと思うぞ。」

「え?!会いたいんだけど。」

「お前の親だって嫌がっていただろ。あと、ちゃん付けするなと言っただろ、気持ち悪い!」

怖っ!


「ムギちゃ…。ムギ様はなんでそんなに俺のこと嫌ってるの?他の人にはフツーじゃん。」

「ムギでいい!お前もそう思うなら、私に話しかけるな。」

話しかけなくても塩なのに。


「だって、ここの知った顔で唯一の中高生だろ?あ、リゲルもだけどヤツはもう40年ぐらい生きた顔してるから。気軽に話しかけられるのムギだけだし。高校生?中学生?何歳?働いてるの?」

「うるさいな。」

うっとうしい男ファクトに、お前は誰にでも馴れ馴れしいだろと言いたかったが、ムギは無視した。




歩き出すと、向こうから声がする。


「ファクト―!」

チコだった。

「ムギさ~ん。チコいるじゃん!」

してやったりな顔をしてやったら、完全にご立腹だ。


「チコー!戻ってこなくてもいいのに!」

「ファクトたちがまだいるって聞いたから。」

「チコー、なんで!」

怒ってる、怒ってる。

あの母ミザルの元で生きてきたファクトには、妹分の怒りなんて痛くもかゆくもないのだ。チコを見付けたリゲルたち3人も集まってきた。


「ファクト、どうだ?疲れたか?」

怒るムギを制してチコが聞く。

「ここの人たちは公務員なんですか?どっかの職員さんですか?」

本当は養子の件が聞きたかったけれど、この雑踏、身内話は後々にすることにした。

「…いろいろかな?VEGA直属の人間もいるし、ここを拠点にして手伝いに来ている派遣とかもいる。公務員もいるし…。

あ、今バイトと言えば、すぐ雇えるポジションはないかも…。本当に日雇いの雑務くらいしか。」


「食堂とか清掃とか、建物の管理人とかあるじゃん。」

ムギが横から言う。

「わざわざ高校を飛び級させて、ここまで来て食堂で働くこともないだろ。」

チコが呆れる。

それはそうだ。食堂や清掃のバイトなら自分の近所でも今できる。清掃なら敷地内が覚えられそうだし、管理人もものによってはおもしろいかもしれないけれど、そんな感じでファクトもいろいろ考える。


「今になって現れて、仕事したいとか何言ってんだ。チコが必要な仕事は私がやる!!こいつはいらない!」

ムギは物々しく噛みつく。


え?何?俺そんなに何かした?今時分いまじぶんに出会った皆様なのに。


「落ち着けムギ。」

「どうせこいつは大したこと考えていない。どっかで働ければいいくらいだ。なんでここで働くことになっているんだ!」

「1億7千万…。」

言われながらファクトは嫌なことを思い出した。確定ではないけれど借金もある。


それにムギ様、ご名答です。ここで働きたいなーくらいの気持ちで来ました。ただの見学である。でも、俺なりの決意もあるんだけれど…。と、とにかくムギにここまで嫌われる理由が分からない。


チコがまっすぐな目で言う。

「ファクトにはしっかり学んで進路を決めてほしいだけだ。」

「……」

ムギがおもしろくなさそうにチコを見つめ返す中、ファクトは思わず口にしてしまう。

「え?それはいやだ。」



「?!」

全員が速攻で自分を見た。かなりやばい奴を見る顔だ。


あれ?大学?早く卒業して働けってことじゃないの?

大学には行きたくない。


「……」

みんなの視線が痛い。


あ。

地雷踏んだ?



「…あの、別に勉強したくないとかじゃなくてね、もう幼稚園も含めたら11年も勉強したしね。保育園も含むとプラス2年で…そろそろ新しい人生に…」

「ほら!チコ。こういう奴だから!できるのに勉強する気も修了する気もないから!」

幼小中ちゃんと卒業しているし、高校も卒業はする!


ムギちゃん、ツンデレのデレもなく、ツンツンってひどくないか。ツンツンどころじゃない。


リゲルたちが口を出す。

「そうだぞ、ファクト。今年で卒業して勉強が終わりって意味ではないだろ。」

そうなのか?そういう話だったのか。高卒ではだめなのか?今知った気分である。

「大人になれば分かる。勉強したくても出来なくなる。お前は頭も環境も恵まれているから大学にはちゃんと行け。」

ツィーもしみじみ言う。

「まあ、俺は勉強したところで何も分からないがな!」

ヴァーゴが余計なフォローを入れてくれる。



「俺は高校もやめる…」


なぜかぼそりとつぶやいてしまった。ここまで言われて、勉強なんてしたくないファクト。

再度全員の視線が集中する。



「休学でもいい。高校よりも、ここで仕事がしたい…。」

「はあ?!!」

うつむいて言う自分にみんな揃って声を出した。


「向いてない…。一日中机で話を聞いているのも向いてない…。今になって分かった。はじめから技術学校に行けばよかった。でも、専門学校は逆にどこに行ったらいいか選べないし…。」

ファクトはほどんどの分野がだいたいなんとなく出来るので、自分の専門分野なんて分からない。人生はただなるようになっていると思っていたので、いつか勝手にどこかの会社員か公務員になっている漠然とした未来しか描いていなかった。


「将来のことなんて分からない…。

今まで普通に生きて、進学校に行って、それでいいと思っていた…。」

志望なんてなかった。普通にみんなのする当たり前の生活ができればと。自分のことなんて大して知らないだろうチコやムギの前でも顔を上げずにつぶやく。


「お、おいっ。ファクト大丈夫か?!どうしたんだ!」

「今、急に中二病を発症したのか?いい子に生きてきたからなあ…っ。」

「親に気を遣い過ぎて、たまったものがはじけたか?!」

確かに母ミザルの言う事は大体聞いてきた。細々言われるのがめんどくさかったのと、自分の意見もミザルには言いにくいし、それ以前にとくに意見がなかったからだ。

親に反抗するほどの気概も、大志も、反発心さえ別にない。


「高校は行っとけ!俺も一緒に通ってやる!もしかして、昼飯一緒に食うやつがいないのか?」

最後のヴァーゴの一言が温かい。でも残念ながら、ファクトは教室や食堂のど真ん中でも一人弁できるタイプだ。誰かと食べたかったら、適当に声も掛けられる。


さすがのムギも引いている。言い過ぎたと思ったのか、少しあたふたしていた。


「ファクト、ここで働けないと言っているわけではない。話を聞こう…」

チコが完全に担任の先生みたいになっている。

「それに、残念ながら連合国では高校までが義務だ。ホームスクールでも卒業はしないといけない。」

「まあ、俺も実質中卒だけどな!」

ヴァーゴ、どこまでも下から励ます。ヴァーゴは一応、高卒ではある。ただ高校で学んだことをあまり覚えていないというだけで。




せっかく、生まれて初めて自分から生き方を提案したのに。


「分かった。学校には行くけれど、ここの人の生活が安定するまで手伝うのはいい?」

ものの3分で、人生岐路の意見を撤回し、安全街道を選ぶ。


みんな優しいのでホッとしているが、ムギだけバカを見る顔をしていた。



学校は卒業しよう。義務だ。でも、また高校のようにのんびり通うくらいなら、実践になる仕事がしたい。少なくとも進学校ではそれがあまりできない。ボランティアだっていい。ボランティアは内容次第で卒業の単位にもなる。いつもと違う事をしながら、先を考えればいい。


チコとしては、見た目からのんびりしてそうなファクトに、親と同じ分野でなくてもいい。ポラリスのように社会に何かしら貢献できるような大人になってほしいと思っただけだ。それでどこかで一緒に働く機会があればもっと嬉しい。

「ここで働くのもけっこうめんどくさいんだがな。身元証明もいるし…それは問題ないけれど、手伝いでも不当行為に関わらない証明もいるし、いろいろ誓約書もいる。」

『心星』というはっきりした所在があるのと、警察で全員の身元がしっかり洗ってあるので今日の手伝いの許可が出ているだけだ。



しばらく押し黙っていたツィーが口を開く。

「ここの復興作業、人手は足りているんですか?」


「…まあ、長く見据えているから、ぼちぼちやっていく感じでいる。行政から援助も入るだろうし。そもそもコマの暴走を許したのはあいつらだからな。」

専門、工事的なことは業者に任せるだろうが、小さな作業はおそらく人手がいるのだろう。


「明日は青少年層や男性の人手も今日よりはある。」

今日の片付けで、明日休める人も多いらしい。でも、人が多いには越したことがない。

「明日もここに来るのか?」

ヴァーゴが聞くとツィーが答えた。


「明日もっと人員を連れてきます。」


は?


一同、今度はツィーに注目した。




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