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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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12 物事の根幹が変わっていくということ

今回は少しお堅い話なので、2話更新します!



高校を今年中に卒業して、外の世界に出ろ。それがチコからの言葉だった。


超一般街道を歩むつもりだった自分はひるむ。

頭のいい人間には簡単なことでも、かなりのハードルだ。


え?勉強余分にするのか?塾に行くのも家庭教師を頼むのも逃げて来たのに。





3時頃には全て済んで、この後の動向を聞かれた。

「どうする、お前ら帰るか?警察と帰ってもいいし、私たちが送っていってもいい。」

帰りたくない。就職したいのだから見学したい。


ツィーが言った。

「俺ら、上の駅にバイク置いてあるんです。自分たちで帰ります。」

すると、VEGAの面々が顔を見合わせる。

「ああ、上にあったバイクね。」

そして、すまなそうな切なさそうな顔をした。

「あれも、コマの流れ弾を受けている…。」


ヴァーゴが固まる。

?!!

「ああああ゛ーーーー?!!!!!」





先の観客席内にある駅で、ヴァーゴがバイクを抱いて泣いている。

「俺の、俺のRⅡ…。俺のエンジン…。」


コマの流れ弾と、破壊された客席などが当たってかわいそうなことになっていた。

「これこそ保険は?」

チコが言うと、ツィーも切なそうに言う。

「中古の上に改造車だ。」

前時代に人気だった車種をいろいろ受け継いでいるらしい。

「うう…っ」

今日一番のかわいそうな人に見える。1億7千万の学生より切なそうだ。ムギも一番慰めようのない顔をしている。


ツィーのバイクも動くか分からない感じだったが、あまりに悲痛なヴァーゴに他の事が吹き飛んでしまったらしい。

「いろいろあって報告忘れていたけれど、一応このことも警察に届けてあるから。」

ムギが初めて見せた笑顔は、ヴァーゴへの慰めだった。全然慰めになっていないけれど。


恋人もなく、掛け持ちでしている仕事の安月給で、自分の子供のように大事にしてきたRⅡ。数年かけて仕上げ、税金の高いガソリン車なのにきちんと管理し、マニアから高級車が買える値段で譲ってほしいと言われても絶対に譲らなかった、まさに我が子。


「動かせないだろ。取り敢えず廃棄申請はしなかったから一旦こっちで預かる。使えるパーツは回収したらいい。」

チコとしては精いっぱいのフォロー。

「廃…廃棄…」

ヴァーゴ。生きてくれ…。

廃棄という言葉にうなだれている。今日という日にヴァーゴを連れてきてしまったことが申し訳なさすぎる。




被害のなかったコンテナに仮で作った対応本部。

そこで一同は遅い昼食をとる。これ以上超反対派による新しい被害はないことを確認し、この後の処理はVEGAが引き受けることなった。




この競技場は旧時代の世界的運動競技大会のために作られたものだ。説明によると、今、行政と大きなプロジェクトをしており、その一環で仮住宅が建てられた。


この地域は、統一アジア前の前時代でも大きい都市だったアンタレスの旧先進地域になる。今ある、最先端地域の横にある半無人都市だ。現在アジアは東アジア、西アジアに別れ、大きくは統一アジアと言われている。


前時代、先進地域は発展とともに急激に人口が減っていった。

商業地域をはじめとする学校など、各施設は大部分が過疎となり買い手も管理人もなくなった。不法侵入者や犯罪組織も出入りし、もてあましていた行政はアジア地域以外で地域復興の功績を持っていたVEGAに共同プロジェクトを持ち掛ける。


建物そのものを、低所得者、移民、難民の共同住宅にする事だ。



ただ、その計画を表面だけもってきても、また物騒なことになるに決まっている。犯罪の横行、不法占拠や民族対立、いいように利用だってされることもある。


そこで活躍するのは隣の大陸。統一ユラスで移住の成功例を作った『VEGA(ベガ)ユラス』という非営利組織だった。ユラスとは、ユラス民族の統治、保護する、もしくはその地域にある国家全般を言う。

アンタレスに規模は全く及ばないが、統一ユラスの一国家ダーオ、他ユラス連合国は国を挙げて難民に援助をしている。彼らは武力において最強を誇る民族であり、頭もよく移民難民統治を生活支援だけに留まらせない方式を作った。


その計画の根幹は『教育』だった。


ユラスは長く戦争をしていたが、終戦とともに迅速な復興を目指した。健康、生活面で一定の水準を保つことを最初に、国や民族関係なく理知の高いグループから、自国先進地区の教育と同じものを彼らに与える。


先進地区と同じ生活規則を教え、連合国や移住先の法教育。連合国による人権、民族、宗教、共生教育。それを筆頭に、高校生までの義務教育。もともと高等教育を受けていた者には、再通学、大学支援も惜しまなかった。

教育の対価もきっちりと取り付けた。アジアユラスや他地域再構成への協力である。

保育、幼稚園教育も施し、妊婦、学のない母親は園で子供を見ることにした。そこでいくらかの母子教育、就学、社会教育をさせ、女性の権利の低かった集団には園を砦に身が守られる権利教育をした。


彼らが理想を形にできたのは、『変われる者から変えていった』ことだ。



データに基づいて優秀な民族の有力者を筆頭に交渉をする。本来ユラスには、歴史初期に文明国を作った高度な文化性、民主性、精神性などを持った民族が各地にいたのだ。


交渉してもダメなら直ぐ次の対象へと行動に移る。年長者層がダメなら若年層に。有力者がダメなら、士気のある集落に。生活が立ち行かない者にも、生きる、変わる可能性のある者を先に助けていった。とにかく人を育てていく。


教育した人物が望めば、開拓できなかった場所、新たな場所を彼らに任せていく。



そして、VEGAユラスは交渉が圧倒的にうまかった。


各民族や宗教、集団に理解の深い人間を立て、頭の固い層や反対層を説得する力を持っていた。固い民族主義の集団も、さすがに何世紀も経つと各地に飛び立っていく人間がいる。自分の民族を理解し、さらに多様性を持ったそれらの人材にも協力を仰いだ。


様々な立場の話を聞き、不条理に思えても初めは必ず相手を受け入れるところから入る。それから、相手にも理解を求めた。襲撃、虐待など急性を要する事柄以外、急がせずこちらの権威をふるうこともしなかった。


全てがうまくいったわけではないが、これまでの方法よりはるかに効率が良かった。



また、兵士や元兵士が多かったことも大きな決め手だった。

ユラスは長年紛争多発地域だったため、必然的に兵士が多い。


血気も多かったが、信仰心も強く、多くは大卒者だ。彼らはVEGAの趣旨を非常によく理解した。勉強をしたい、学校に行きたいという者も多く、一般的な情操教育を基に厳しい管理下でその門を開いた。


彼らは非常に優秀な元兵士でもありユラスの守護者でもあった。

戦場にいた人間をよく理解し、もめごと、暴走も抑える力があった。



しかし、VEGAも単独でユラスを導いたわけではない。


連合各国、前時代から草の根で活動してきた連合国各組織、「パイシース」などの、民間の教育、医療支援団体などと協力関係の下で活動してきたからだ。パイシースは紛争関係に関わるような組織ではなかったが、民間レベルの活動で世界的基盤をし作っており、成功のノウハウを他組織にも共有した。



そのモデルを土台に、VEGAアジアはアジアで最も大きい都市のひとつ、アンタレスでそれを実践しようとしていた。



ユラスと違う点は、対象の多くが外部から流れて来た人々だという事だ。ユラスでも移民は多かったが、彼らは似た文化を持つ同一か近隣民族だった。お隣さんだからこそ争いが起こるとも言えるが、文化生活はお互い理解しやすく溶け込みやすい。


統一アジアは、長年戦争もなく山脈を、海を越えて全くの異民族が流入している。そこが違う。


先進都市に全く違う文化の人間が流れてくるため、過去の例では失敗も多かった。実は以前、既に何度もアンタレスで失敗をしている。その一角が無法地帯になっているスラムや一部の低所得地域でもあった。ツィーの親世代もその流れを持つ。



では、なぜここでそんな大きな賭けに出ようというのか。



それは、前時代の無人都市があまりに膨大だという事。

また、世界的に増えた人口が国レベルで制御できないため、協力し合うしか道がないこと。先進国の人口減は、アンタレスという都市より地方でさらに深刻だった。高度な技術を持った工場や農業なども人員的な面で行き詰っていた。つまり人を必要としている。


そしてもうひとつ大きな理由。何度か述べたように、今の時代の人々は前時代とは明らかに性質が変わってきている。



これまでの歴史と、違う結果が得られる感触があった。



また、前時代と言っても、後期は非常に技術が発達していた。

とくにアンタレスの西区は空港や災害多発地域の建造物を作った国内建設会社の産物が多い。非常に良くできていたし、大規模補修や建て替えが必要な場合も、素材がよく、初めから解体に考慮されていたため資材を効率よく分解もでき、調達もできた。


移住が可能な建物から住宅や商業エリアを貸し出し、目に見える部分から計画を動かしていく。


南海のこの競技場は、固定の住居に入れない人、移住権を得る教育前の人たちの仮施設だった。

そこから彼らは学校や職場に通っていたのだ。




食事をしながら大まかな概要を聴く4人。



ツィーが尋ねる。

「でもそんなに簡単に、異民族同士をまとめられたんですかね?仲間内でも難しいのに、元兵士たちもたくさんいたんでしょ。ケンカしそうですが。」


男性の一人が言う。

「先に先進地域出身者やリーダーを中心に話の通じる人間を引っ張ってきたんだ。それに、こっちにはニューロスという圧倒的な強さの切り札があったし、人材の質が違った。」


連合国側には、ニューロスという最高の切り札があったのだ。戦闘能力、つまり制圧できる力の根本が違う。そして、ある意味繊細なニューロス、ロボメカニックは不安定で中途半端な地域、技術で組織化できるほど簡単なものではなかった。維持管理の技術も高度なニューロスであればあるほど、安定、高品質なものを必要とし、それができたのはSR社などの大手を有する国家だけであった。強さを武器にできたのだ。



つまり、最終的にはやっぱり武力か。

そんな気持ちもよぎったが、重要なのは自由であり民主主義の連合国がニューロスの先端に立てたことだ。



まだ分からないことは多かったが、ファクトはどんな人たちがいるのか話してみたかった。通っている高校と全然違う世界におもしろさを感じる。こんな世界があったなんて。


「この後、競技場周辺の安全も確認し、警察の許可が出たら住民たちが必要なものを取りに来たりする。付き合うか?」

「行きたい!」

ファクトは手を挙げた。


「お前たちは帰るか?送るぞ。」

ツィーとヴァーゴにもお兄さんが聞く。ここまでの付き添いと思ったのだろう。

「え。俺も見てみたい。せっかく来たし。」

ツィーが言った。


ヴァーゴが、なら俺も行くと手を挙げた。



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