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ZEROミッシングリンクⅠ【1】ZERO MISSING LINK1  作者: タイニ
第二章 南海広場

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9 コマちゃん狂いだす



整備された区画の端の向こう、中央区大房(おおぶさ)

中所得から低所得層まで住む、昔からの雑多な街だ。



ここはその下町のたまり場『アストロアーツ』こと通称アーツ。大衆レストラン兼、バイクやメカニックの整備屋である。


ファクトとリゲルはそこの店員二人と話をしていた。


店員と言っても、二人とも客がいる時間に図々しく座り込んでコーヒーを飲んでいる。

柄の悪い方の兄ちゃん、無精髭にドレッド気味の背の高い男はヴァーゴ。前の店長が辞めてからは最年長だ。現在副店長の小うるさい男で、普段は整備屋の方にいて今回の行動をやめさせようとする。



「は?そんで西区に行きたいの?やめとけファクト。あそこは最近コマちゃんたちがやられてる。」

見た目に反し、けっこうビビり屋である。


コマちゃんとは主に警察や警備などが使うロボットの乗り物だ。運送にもよく使われるれ、コマちゃんは愛称。人も乗れるけれど、勝手に動いてもくれる。そんなコマちゃんが、システムに入られて暴れる事件がアンタレス内で2件ほどあったらしい。


「さすがに警察のコマちゃんには手を出さなかったようだが、何だろうな。愉快犯かな?それともニューロス超反対派かな?」


『ニューロス超反対派』とは、ロボット完全に排除派である。『超』とは、いろいろな団体があるから過激っぽいのはまとめてそう呼んでいるだけだ。略して『超反対派』、ネット民が作ったスラングである。ニューロス導入で、AIに世界が乗っ取られるからアナログに帰ろうという団体である。


彼らは今日も最新のAI技術で、公安に引っ掛からない程度に、情報社会を混乱させてメカニック社会の無能さを露見させようとしている。

その技術でもっと快適な社会を作ればいいのではないかと、いつもファクトは思う。この巨大な人口をアナログ社会だけで管理できるわけがない。が、そのAIを遣う技術力は、ひそかにみんな尊敬している。



「まあ、行ってみるのも面白そうだな。暇だし。」


前向きな案を出したのはツィー。ここに集まるメンバーの親代わりな感じの兄貴分、現店長だ。レストラン側の経営者でもある。

同じく無精ひげで少しロン毛の怖そうなタイプ。でも、周りがまだ警戒心を緩められるのはこっちだろう。ロン毛でも清潔感がある。ヴァーゴは不潔なわけではないが、いかせんが体もでかいし生まれた時から柄が悪い。


…どちらにせよこの三名。

ファクト以外、ツィー、ヴァーゴ、リゲルと一般基準からしたらどいつもこいつもむさくるしい。追加でナゲットを持ってくる他の店員もむさくるしい。




ここに集まる面々は中間層か、それ以下。


連合国では高校までが義務教育だが、高校を出ていないメンバーもいる。定職自体が少なくたいていバイトやパート、その日暮らしをも多い。時々ボンボンなどいるが、その家のはじき者だ。


「ファクトー!木曜チームに入れるか?」

斜め向かいの席で、ダンス仲間が割り込んだ。絶対に嫌だ。その日はゲームのオフ会だ。フォーコックのミリタリー装備を脱げと言ったメンバーをどうにか説得したい。直接の会合は絶対だ。

「その日は他のチームに入るから。」

「お前、裏切り者だな。奈落にぶち込む!」

口の悪い奴らだが、そもそもチームダンスはそこまで好きじゃないのでお断りである。


ただ、ツィーがまとめているおかげで、ここは雰囲気がいい。

ポテトもおいしいしクスリに関わる者もいない。知り合いを危ない仕事に巻き込まれないようにもしてもらっている。



「西区か…。あの辺街が機能してなくないか?あまり分からないな。VEGAとかも…。そういう系の組織は、この近所に来る教会か行政の奉仕団体くらいしか…。」

あれこれ検索しながらツィーが悩む。


「VEGAって奉仕団体とは規模が違うぞ。」

リゲルが横から口を出す。VEGAは過激な戦地での活動から、ゴミ拾いほどの小さなことまでしている連合組織。救出した移民、女性や子供たちが普通の生活や地域に馴染めるように、雇用造成や奉仕など地域活動に参加できる基盤も作っているのだ。


「まあ、何でもいいから行こうよ!」

話の前後がどうであれ、もう行くことに決めたらサッサと行きたいファクトであった。




***




ファクトとリゲルはそれぞれツィーたちのバイクに乗せてもらい、現場まで飛んだ。


この時代、バイクが飛行する技術はあるが、基本決められた場所しか走れない。都内の空上高速を使って一気に駆け抜ける。


ナビは道路自体にも出てきて、自分の目的地と投影させられる。

あっという間に西区に抜けた。自分の住まいとは反対側だ。途中から交通量も減るし、雰囲気も閑散となってきた。




そして着いた、西区南海広場。



前確認でビューでは見ていたが、そこは旧総合競技場だった。


幾つものグラウンドや体育館、競技施設、会議場などあり、敷地自体はかなり広いので取り敢えず一番大きい競技場に出る。


天気もいいし、上空は気持ちよい風が吹く。

「すっげーとこだな。前時代の競技場か?」


観客席に設けられた、おそらく駅だった場所から下を眺める。競技場観客席内に駅があるのだ。

至る所に簡易住宅が建てられ、小さな集落になっている。ナビを見る限り立ち入り禁止区域ではないはずだ。整備はされ、きれいなのだがここもスラムなのか。


ただ、人気ひとけはない。



「ファクト。お前はここに就職したいのか?」

リゲルが言う。


「分からない…」

そう、分かるわけない。この地名を言われたのだ。


正直、スラムにも仮住宅の並ぶ低所得地域にも立ち入ったことがない。大房の低所得層でも、だいたいきちんとしたヴィラやアパートなどに住んでいる。



駅から降りて少し歩くことにした。


「おかしいな。人が住んでいそうな感じなのに、誰もいない…」

ツィーが観客席の段々に建てられた仮設のような一軒の家をのぞき込んだ。生活の匂いはするのに人はいない。


「むーー。」

ファクトは観客席の一番下まで降りてきて首を捻る。

「いい風だ…」

ここに活動拠点や事務所とかあるのかと思ったのに、誰もいない。実際に南海広場にVEGA事務局があるはずなのだが。


「少し周りを見歩こうか?」

ツィーが言い、みんなそれぞれ歩き回る。



少し考えていると、何か音がした。


地震…?


最初に気が付いたファクトが耳を澄ました。

「何か近付いていないか?」

「は?」


リゲルも気が付く。

「ホントだ。聴こえる。」


ーーーードドドドド…。


やっぱり何か聴こえる。


ーードドドドドーードドドドドドドドド。



突然ものすごい爆音が鳴った。


ダーーーン!!!


「え?!!」

一同爆音の聴こえた観客席の1つの出口を見る。


なんだ??!!!



「右だー!!!」

砂埃や破片とともに、バイクに乗った男が先に出て叫んだ。

「曲がらせるな!中央空き地におびき寄せろ!」


轟音の中でも、ファクトには波動に乗って声が聴こえる。



すると、その入り口から煙とともに、暴走するコマちゃんとそれを撒く数台のバイクが出てきた。



一瞬その姿が目に焼き付く。


ムギだ。



「ムギちゃん!」

ファクトの声に気が付かず、ムギはそのままコマに突進する。

グラウンドにおびき寄せ、コマの足が動かないようにムギが大型のレーザーを打ち込みまくった。


うわっ!


ジーーーーーーーーーーーー

ドドドドドドドドッ!!!!

と閃光とともに地面が弾ける。


砂埃がすごい。リゲルたちは大丈夫だろうか?

「リゲルー!ツィー!!」

「こっちだー!」

どうやらリゲルたち三人は一緒になったらしい。


「ムギ―!生体反応がある!左に撃つなー!!」

誰かが言う。生体反応とはファクトたちのことであろう。

チッっと舌打ちする声が聴こえた。

ムギちゃんか。女の子のなのに。



こちらを向いたムギと一瞬目があった。

「…っ?」

唖然としている。

「お前なんで?!!」


その時、観客席そのものをぶち破ってもう一匹、ファクトの上方席からコマちゃんが出てきた。


マジか!!


「ファクト!」

リゲルが慌てた。


とりあえずベンチをぬって横に走る。やばい、飛んできたコンクリートに当たっても一発で死ねそうだ。二度と自由に外出できなくなる。死んだら外出も何もないのだが、母ミザルから外出禁止の大目玉を食らう自信がある。


ヤベ!怪我したら終わりだ。見えるところに絶対にケガはできない。



ムギたちはまだ動くコマ1号に手間取っていた。

コマたちの一部機種は、小型ミサイルや爆弾にも耐えられるようにできている超強化プロテクトのニューロス搭載機種がもあり、これも相当頑丈そうな機種だ。


避け切ったと思ったら、後で入って来たコマ2号が止まって考え事をしている。


普通コマは人間を攻撃しないというか、攻撃用じゃないんだけれど…。大丈夫…、攻撃するわけがない。ファクトはそう思って、動かないでくれと神に祈る。


なんつーか。実は自分の超チート能力者で、今覚醒の時…。もしくは恐ろしい狼やドラゴンじゃないけど、コマも自分には懐くみたいな設定……



少し考えているコマの頭がこちらに向く。


ウィーーン…

かくしてコマ2号は自分に向いて、防衛用の弾丸口まで向けようとする。



…そんな設定あるわけなかった。



あ。これ死ねるやつだ…。


弾丸が準備される音がした。




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