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春の新年会  作者: 貴神
5/5

(5)新年会(4)

翡翠の館の出し物が始まります☆

遂に翡翠の館の出し物の番となり、皆が注目する中、


薄い板にペンキを塗った張りぼてを持った星光の貴公子が現れ、其れを皆に見える様、


表に向けてスタンバイする。


張りぼてには満開の花と蝶が描かれており、どうやら翡翠の館は劇でも遣る様だ。


「劇ですね!! 何の劇なのでしょうか??」


「劇か~~!! 確かに四人なら、何か凄い劇が出来そうだよね~~!!」


「いや、そんな高度な物は、あの四人じゃ期待出来ない気がするけど」


観客の声が飛び交う中、遂に劇が始まった。


桜の樹から一人の男・・・・否、女が現れる。


其れは手に籠を持ち、赤い頭巾を被った、スカート姿の金の貴公子だ。


「ああ!! もう春ね!! とっても気持ちいいわ!!


空も晴れてるし、御菓子と御花を持って、病気の御婆さんの家に行こう!!」


挿絵(By みてみん)


普段よりも高い声で歌う様に台詞を言う金の貴公子に、異種一同、


思わず口に含んだ酒を噴き出しそうになる。


「何、此れ、赤○き○ちゃん??」


「何で又、金の貴公子が赤○き○役を・・・・」


「いいぞ、いいぞ、金の貴公子!! 似合ってるぞ~~!!」


口笛とひやかしが上がる中、金の貴公子はスキップする。


すると背景の張りぼてが、家の張りぼてに替わる。


どうやら舞台が家の中に変わった様だ。


其処に人影が現れると、身体に白いシーツを巻いた翡翠の貴公子が蹲る。


しかも眼鏡を掛け、白いナイトキャップを被っているところを見ると、老婆役の様だ。


其れには皆、思わず口を開けて、ぽかんとした顔になる。


ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。


翡翠の貴公子が咳をしてみせる。


すると頭から白いシーツを被った、やたら大きな物体が現れ、扉をノックする仕草を見せた。


そして白い物体が、やたら低い声で言う。


「コンコンコン!! 御婆さん。私よ。私。開けてちょうだい」


皆の聞き間違いでなければ、其れは晧月の貴公子の声だった。


「ゴホ、ゴホ。キン子かい。今、開けるよ」


ほぼ台詞を棒読みの翡翠の貴公子はシーツを脱ぐと立ち上がり、扉を開ける仕草をする。


其の途端。


「ガオーッ!!」


白いシーツを跳ね除けると、巨大な狼が現れた。


いや、狼の着ぐるみを着た晧月の貴公子なのだろう。


だが狼の胴体は人の二倍は在り、取り分け頭が大きく口も大きかった。


狼は翡翠の貴公子・・・・もとい、老婆に襲い掛かると、


頭からむしゃむしゃと老婆を飲み込んでしまったではないか。


其れは、なかなかに迫力の在る光景で、皆、思わず息を飲む。


「ふっふっふ。久々に獲物に在り付けたわい」


咽喉を鳴らす狼が低い声で言う。


「そう云えば、今、キン子と言っていたな。まだ人間が来るのか。


よぉし、此処で待ち伏せているとしよう」


狼はのろのろと移動すると、老婆が着ていたシーツを頭から被る。


其れを見ながら、蘭の貴婦人が首を傾げた。


「あれ?? あれ?? 主は?? 主は何処へ行ったの??」


「何言ってるの、蘭の貴婦人。翡翠の貴公子は今、食べられたじゃない??」


「うん、そうだけど・・・・食べられて何処行っちゃったの??」


「さっき飲み込まれたの見たでしょ?? あの着ぐるみの中に一緒に居るんじゃないの??」


皆の目が正しければ、翡翠の貴公子は狼に飲み込まれたので、


着ぐるみの中に一緒に居ると思われた。


「ええ?? じゃあ、主、ずっと、あの中に居るの??」


「そうなんじゃないの??」


「あの大きさなら、二人入られるもんね」


「此の辺は凝ってるわよね~~」


本当に人を飲み込む等、なかなかのディテールだと、皆、感心する。


だが其れが実際どう云う状態なのか迄は、夏風の貴婦人以外は誰も考えなかった。


其処へスキップをし乍ら、金の貴公子が現れた。


赤○き○のキン子だ。


「こんにちはー。御婆さん、キン子です。御見舞いに来ました~~」


シーツを被った狼が低い声で返事をする。


「おや、キン子かね。鍵は開いてるから入っておいで」


「御邪魔しまーす」


金の貴公子が家に入る仕草をすると、狼はシーツに身を隠した儘だった。


「御婆さん、大丈夫?? 具合悪いの??」


金の貴公子が訊ねると、狼は低い声で言う。


「いやいや、大した事ないよ。それより、キン子、よぉく顔を見せておくれ」


「うん!! あれ?? 御婆さん、何だか耳が大きくなったわ」


訝しんでみせる金の貴公子に、狼は笑う。


「そりゃあ、御前の声を聞く為に大きくなったのさ」


「そっかー。あれ?? でも、何だか目も大きくなったわ」


「そりゃあ、御前の顔がよく見える様に大きくなったのさ」


「そっかー。あれ?? でも、何だか口も大きくなったわ」


「そりゃあ・・・・・御前を食べる為だよ!!」


ぐわーっ!! とシーツを跳ね除けると、狼が金の貴公子に襲い掛かった。


彼も又、一気に飲み込まれるかと、誰もが思った。


が。


「う!!」


と、狼が後退る。


「く・・・臭い!!」


狼は仰け反ると、前足で鼻を覆う。


金の貴公子は、きょとんとした顔で言う。


「うん!! だって私、十日も御風呂に入っていないもの。じゃーね、狼さん!!」


金の貴公子は手を振ると、たったかと老婆の家を出て走り去って行った。


「こうして、キン子ちゃんは、無事逃げる事が出来ました」


最後にナレーションをする星光の貴公子が出て来ると、


「有り難うございました」


金の貴公子と狼と星光の貴公子が一礼をした。


異種一同、思わず言葉を失っていたが、我に返ると、


ぶはっと噴き出して笑い乍らパチパチと拍手をする。


「赤○き○ちゃんて、こんな話だったっけ??」


「わたくし、子供の頃に読んだきりなので、忘れてしまいましたわ」


「と云うか、御婆さんは食われた儘でいいのか!!」


ケラケラと皆、声を立てて笑う。


「此れは、皓月の貴公子が考えたと見たわね。ほんと抜け目のない奴だわ」


鼻息を荒くするのは、夏風の貴婦人だ。


何の為に此の劇をしたのか・・・・気付いているのは、夏風の貴婦人以外に居なかった。


劇を終え、樹の陰で衣装を脱ぎ乍ら、金の貴公子は不満げに唇を尖らせる。


「ああ、やっと終わった!! ったく、何で俺が女役なんだよ!!」


「いいではないか。なかなか上手かったぞ」


狼の頭部を外し乍ら、晧月の貴公子が咽喉を鳴らす。


其の中には翡翠の貴公子も入っていたが、晧月の貴公子に寄り掛かった儘、動く様子がない。


「主!! 大丈夫か!?」


金の貴公子が駆け寄ると、翡翠の貴公子の目は虚ろだった。


どうやら酒が回って、上も下も判らなくなっている様だ。


たった一言だったとは言え、酔い乍ら、よく老婆役を遣ってくれたものである。


翡翠の貴公子を着ぐるみの中から引き摺り出すと、


金の貴公子は彼を支え乍ら茣蓙へと連れて行く。


其の姿を見遣り乍ら、皓月の貴公子は、くくっと笑った。


其処へ、


「兄さん、どうでしたか??」


にこにこと笑顔で訊ねてくる弟の星光の貴公子に、皓月の貴公子は満足そうに言った。


「想像するより、ずっと美味だった」


まさか着ぐるみ中で酔った翡翠の貴公子に遣りたい放題だったとは、


誰も気付いてはいないだろう。


いや、夏風の貴婦人だけは気付いていたが。


「実に愉しい一時だった」


皓月の貴公子は結んでいた長い銀髪を解くと、弟と共に茣蓙へと戻った。


さて、六番目は赤の館、赤の兄妹である。


派手な衣装を纏った大柄な赤の貴公子と、小柄な赤の貴婦人が前へ出て来る。


「・・・って!! 慰安旅行の時のピエロ服じゃねぇか!!」


「何処まで使い回しする気なのよ~~!!」


又しても青と白の縦縞サテン衣装で現れた赤の兄妹に、皆がブーイングする。


赤の貴公子は首から下げた小太鼓を手で叩き乍ら、口には小さな笛を加えてピーピー吹き始める。


「はいはいはーい!! 見て見て見て~~!!」


赤の貴婦人が小猿の縫いぐるみを棒で動かして、皆の興味を引こうとする。


「此の御猿さんは、何だって出来る凄い御猿だよ~~!!


まずはまずは、花吹雪ならぬトランプ吹雪!!」


小猿の両手にトランプが現れたかと思うと、次から次へとトランプが手から溢れ出す。


其れを御猿が辺りに撒き散らす。


「おお!! すげー!! 何処からトランプ出してるんだ?!」


「手品ですわ~~!!」


「やっぱり手品できたか」


ダサい衣装はともかく、赤の貴婦人の遣る事は、やはり一味違うものの様だ。


先程までのブーイングはどうしたのか、皆が目の色を変えて夢中になり、


赤の貴婦人は得意げに手品を披露する。


「次は、ボール!! 皆、此のボールを見て~~!!」


赤の貴婦人は又、何処から出したのか、ひょいと青いボールを宙に投げると、


器用に猿を動かしてキャッチする。


「さぁ、此れは春風の貴婦人にあげよう」


小猿が青いボールを持って来ると、春風の貴婦人の手の上に落とした。


しっかりボールを受け取る春風の貴婦人の手に、赤の貴婦人は又も何処から取り出したのか、


白いハンカチを出して小猿で以て被せる。


「はいはい、見て見て~~!!」


タッタカ、タッタカ、タッタカ!! 赤の貴公子の小太鼓が鳴る。


赤の貴婦人は小猿を躍らせ乍ら、赤の貴公子の頭にも白いハンカチを被せる。


「ボールは成長して、此処に移動しました!!」


バッと赤の貴婦人が赤の貴公子の頭からハンカチを取ると、


なんと大きな青いボールが現れた。


「あら・・・・まぁ!!」


と同時、今し方まで春風の貴婦人の手の上に乗っていた小さなボールが、


失くなっているではないか。


「うおー!! 何だ?! すげーー!!」


思わず拳を握って声を上げる金の貴公子。


「赤の兄妹は此の大陸に来るまで、ああやって芸をし乍ら御金を稼いでいたのですって」


白の貴婦人が言うと、皆、成る程~~と頷く。


「確かに道端で見たら、金投げちゃうよな~~」


大々的なイリュージョンではないが、ちょっとした暇潰しに見るには、かなり面白い。


「ま、主に活躍しているのは、赤の貴婦人だがな」


ぼそりと言うのは、晧月の貴公子である。


彼の言う通り、赤の貴公子は単調なメロディーを小太鼓で打って笛を吹いているだけである。


其のメロディーに合わせて、赤の貴婦人が本人小猿よろしく動いている。


「はいはいはーい!! 今日は桜の花見と云う事で、皆に桜吹雪をして貰おうと思いまーす!!


皆、ハンカチ出して下さーい!!」


赤の貴婦人が声を掛けると、皆それぞれハンカチを取り出す。


「じゃあ、こうやって丸めまーす!!」


赤の貴婦人が一人一人のハンカチを、小猿を器用に動かして丸めていく。


皆は手を差し出した儘、じっと自分のハンカチ見ている。


そして赤の貴婦人が全員のハンカチを丸め終わると、


「じゃあ、皆、立ってー!!」


赤の貴婦人の号令と共に皆立ち上がる。


タッタカ、タッタカ、タッタカ。


ピーヒョロヒョロ。


赤の貴公子の太鼓と笛が強く鳴り出す。


すると偶然なのか、風がどんどん強くなって来る。


更に太鼓の音が激しくなっていく。


すると赤の貴婦人の赤い瞳が光り、


「じゃあ、皆、一斉にハンカチ開いてーー!!」


赤の貴婦人が自分のハンカチを小猿で振って見せると、其のハンカチの中から白い物が、


ぱあっと散り出した。


皆も同じ様にハンカチを振ると、なんと自分のハンカチから桜の花びらが溢れたではないか。


ぶわり、と強い風に吹かれて、桜の花びらが皆の手から宙を舞う。


其れは桜の嵐の如し・・・・。


余りに予想外なまでに己の手から散っていく花びらに、誰もが目を見開いて息を飲んだ。


其れは実に素晴らしい一幕だった。


皆が一斉に歓声と共に拍手をする。


赤の貴婦人は満面の笑みを浮かべると、兄妹揃って一礼した。


皆、茣蓙に座ると、最後の出し物に相応しい一芸だったと笑い合う。


赤の貴婦人が茣蓙に戻って来ると、夏風の貴婦人が首に腕を回してきた。


「良かったぞ!! あんた、本当、こーゆー事は知恵と技が鳴るわねぇ」


「えっへへへ!!」


大好きな夏風の貴婦人に褒められて、赤の貴婦人の顔が、にへらと笑う。


「一体どうやって桜の花びらを皆のハンカチに忍ばせたのですの??」


目を輝かせて訊いてくる春風の貴婦人に、赤の貴婦人は頭を掻き乍ら笑う。


「えっへへ、其れは秘密~~!!


でも花びらは今日、早目に来て、御兄ちゃんと落ちてる花びら集めたんだ」


「まぁ、そうでしたの!!」


皆が未だ感動の眼差しを赤の貴婦人に向けていると、新たに焼かれた鉄串が運ばれて来た。


「おおー!! まだまだ食うぞ~~!!」


赤の貴婦人が我先にと手を伸ばす。


「わたくしは、もう果物と御酒でいいわ~~」


そろそろ腹も一杯になってきたのか、食べるのを止める者もちらほら出てくる。


今日は、新年会。


後は皆で酔い潰れるまで話をしよう。


こうして皆で春に揃って集まれる事は、自分たちが豊かな証拠だ。


今年も、きっと良い年になる。


春の空に靡く桜を眺め乍ら、共に祝おう。


自分たちは今、幸せなのだと。


此処に、しかりと居場所が在るのだと。


同士よ、言葉を交わそう。


そして笑顔を交わそう。


今年も又、新しい一年が始まるのだ・・・・。


誰もが、それぞれの話をし、誰もが笑顔を零していた。


こうして、今日の宴は暮れていく。


そう思われた時。


「あの・・・・」


蒼花の貴婦人が恐る恐る言った。


「漆黒の貴公子様の御披露目が、まだなのですけれど」


一瞬、其の場の空気の流れが止まる。


「ああ、そう云えば、忘れてた」


夏風の貴婦人が、あっけらかんに言う。


「・・・・・」


思わず言葉を失くしている皆も、忘れていた事は云うまでもない。


「よし!! 漆黒の貴公子、ラストだ!! 行け!!」


取り敢えず夏風の貴婦人が掛け声を掛けると、漆黒の貴公子がのそりと立ち上がった。


そして、ごそごそと料理人から台を借りて来る。


一体、新年会の締めに、彼は何を披露するつもりなのか??


誰もが息を飲み、辺りが、すうっと静まり返る。


漆黒の貴公子が台の上に並べたのは、四つのベルだった。


片手に一個ずつ持って、スタンバイする。


其のベルで、一体何をするつもりなのか?!


密かに皆の期待が高まる。


チー・・・ンと、ベルが鳴る。


そして・・・・。


チーチチチ、チンチンチン。(メ○リさんの、ひ、○、じ)


チンチンチン。チンチンチン。(ひ、○、じ。ひ、○、じ)


チーチチチ、チンチンチン。(メ○リさんの、ひ、○、じ)


チンチン、チーチチン。(か、○、いーいなー)


終了した。


「・・・・・」


誰も何も言わなかった。


一人、蒼花の貴婦人が笑顔で拍手をしていたが、他の誰にも、もう、そんな気力はなかった。


終了した。


此れで今年の異種新年会は終了したのである。


風に靡く桜の枝と花びらが春を謳い美しかった。

この御話は、これで終わりです。


ここまで読んで下さり、有り難うございました☆


異種たちの関係などが、この御話で伝わったのなら幸いです☆


御話を順番通り読まれたい方は、


このノーマルの「ゼルシェン大陸編」の、


「夏の闘技会」から御読み下さいませな☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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