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春の新年会  作者: 貴神
1/5

(1)手紙

異種たちの新年会の御話の始まりです☆

冬の長いゼルシェン大陸では、未だ雪がちらついていた。


馬車の車輪が沈む雪の道を走る影は殆どなく、南部も東部も誰もが息を殺しているかの様だった。


だが日中、窓から差し込む光は暖かく穏やかで、もう直ぐ其処に春の足が来ているのを、


人々も動物も感じていた。


南部の白風しらかぜの館では、蒼花あおはなの貴婦人がハーブティーを飲み乍ら、


一人の時間をゆっくりと楽しんでいた。


暖炉の傍の椅子に腰掛ける彼女の髪は蒼く波打ち、藍色のベルベットのワンピースを纏っている。


彼女の異種としての業務は主に接待だったが、冬の此の時期は殆ど其の仕事はなく、


今日も穏やかに一日が流れていくかと思われた。


だが其の穏やかな静けさを破るかの様に扉がノックされると、


返事も聞かずに扉を開けて女が入って来た。


「ちょっと、いいかしら??」


ずかずかと部屋に入って来ながら言うのは、同居人のしろの貴婦人だ。


長い白髪を垂らして、ワイン色のカットソーに白いスカート姿と、ラフな格好だ。


「何か??」


蒼花の貴婦人が顔だけ向けると、白の貴婦人は長く赤い爪の指の間に挟んだ橙色の手紙を見せる。


夏風なつかぜの貴婦人から手紙が届いたわ」


異種の手紙はそれぞれ色分けされており、


夏風の貴婦人の太陽たいようの館からの手紙は橙色なのだ。


既に封は切って在り、白の貴婦人は手紙の内容を告げる。


「新年会、するのですって」


蒼花の貴婦人はカップとソーサーをテーブルに置くと、微笑んだ。


「まぁ、新年会。いいわね。何処でするの??」


白の貴婦人は棚からブランデーを持って来ると、グラスに注ぎ、椅子に座って飲み乍ら言う。


「まだ決まってないみたい。どうせ何処かの旅館、借り切ってするんじゃないの??


でも一応、要望を聞くって書いて在るわ」


其れには蒼花の貴婦人もくすくすと笑う。


「要望って・・・・今まで聞いて貰えた例しが在ったかしら??」


「だわよね~~」


何かしら希望を言ったところで、いつも夏風の貴婦人が勝手に決めてしまうので、


二人は諦めの声で笑い合う。


「返事したって仕方ないわよね」


ぐびっとブランデーを飲む、白の貴婦人。


だが蒼花の貴婦人は暫し考えると、思い付いた様に言った。


「花見でもし乍ら・・・・とかなら、どうかしら??」


其れには白の貴婦人も白い目を輝かせる。


「花見!! 其れ、いいわ!! 思えば花見って、皆で遣った事なかったわね!!」


「そうよね。あとは場所よね。公共の場だと、かなり警備が必要になってしまうし」


花見に良さそうな場所を考える二人。


すると白の貴婦人が思い出した様に言った。


「あら??


金の貴公子に光迷彩こうめいさいを遣って貰えば、何処でも問題がないんじゃないの??」


だが蒼花の貴婦人は微笑み乍ら首を振る。


「遊びに行くのですもの。金の貴公子にだけ神力を使わす訳にはいかないわ。


それに御酒が入りますもの」


尤もな蒼花の貴婦人の言葉に、白の貴婦人は肩を竦めて頷く。


「そうよねぇ。となると、やっぱり、何処かを借り切るしかないのかしら??」


「まぁ・・・・其の辺りは夏風の貴婦人に任せて、一先ず花見の要望を出しましょう」


「そうね。こう云う事を考えるのは何だかんだ云っても、夏風の貴婦人が得意だものね」


二人は頷き合うと花見の要望を一筆書いて、白の貴婦人が窓から羽根を飛ばした。


昼の日差しは暖かかったが風はまだ冷たく、白の貴婦人が直ぐに窓を閉じようとした時だった。


バサバサと黒い影が目の前に広がると、漆黒の鳥が窓辺に留まった。


漆黒の貴公子の羽根の黒いオジロワシである。


「あら」


白の貴婦人は目を丸くしたが、鳥の足に付けられた銀のホールに手を伸ばすと、


中から折り畳まれた紙を取り出す。


と同時に、すう・・・・と鳥の姿が薄れて消える。


「何、何?? どれどれ??」


白の貴婦人は勝手にも手紙を広げると、声を大にして読み始める。


「拝啓、蒼花の貴婦人様。俺は今、部屋に居ます。俺は切手を・・・・」


「ちょ、ちょっと!!」


蒼花の貴婦人が弾かれた様に立ち上がると、ばっと白の貴婦人から手紙を奪い取る。


其れを胸に抱えて、真っ赤になる蒼花の貴婦人。


挿絵(By みてみん)


そんな蒼花の貴婦人らしくない姿に、白の貴婦人は紅い唇の端を吊り上げて笑う。


「まぁまぁ、いいじゃない。切手を?? 切手の続きは何て書いて在るの??」


「い、いいでしょう!! 何だって・・・・!!」


「もしかして漆黒の貴公子、恋文に自分のオタク話、書いてる訳じゃないわよね??」


「・・・・!!」


図星だったのか、蒼花の貴婦人は沸騰直前のやかんの様に真っ赤になる。


「い・・・いいでしょう!! 漆黒の貴公子様は此れでいいのよ!!」


珍し過ぎる程に狼狽える蒼花の貴婦人に、白の貴婦人は呆れた顔をする。


「貴女、それで、漆黒の貴公子の何処が好きなの??」


其れは白の貴婦人のみならず、異種全員の謎であった。


だが蒼花の貴婦人は真っ赤になり乍ら悲鳴の様に言う。


「貴女には、彼の良さが判らないのよ!!


あの御方は・・・・あの御方は・・・・素敵な御方よ!!」


必死に漆黒の貴公子を弁護する蒼花の貴婦人に、


白の貴婦人はブランデーをくーっと飲んで溜め息をつく。


「此れだから一人の男に夢中になってる女って、理解不能よねぇ」


若いわぁ。


態とらしく大きく肩を竦めてみせる。


プレイガールとして名高い白の貴婦人には、蒼花の貴婦人のピュアさは幼く見えた。


実際、此の二人のどちらが女らしいのかは、判断に難しいところではあったが。









年がら年中、慌しい館、太陽の館で在るが、春が近くなる頃には、


館の主の夏風の貴婦人も暇を持て余していた。


となると、同居人の桃銀とうぎんの髪の同族も暇と云う訳である。


「冬の始めに来た書類の整理も終わったしぃ~~、春、提出する書類も仕上げたしぃ~~、


暇よねぇ~~」


怠い声で言うのは、桃銀の髪のらんの貴婦人だ。


「いいじゃない。暇、最高~~!!」


夏風の貴婦人はテーブルに足を投げ出して、昼間っから麦酒を飲んでいる。


蘭の貴婦人はカクテルを飲みつつ、コンポートに飾られた果物を摘み乍ら溜め息をつく。


「夏風の貴婦人さ~~、あるじと蟹食べたんだよね~~」


何処か怨めがましい声で言う蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は平然と答える。


「あんたも食べたじゃん。蟹」


だが蘭の貴婦人は途端に頬を膨らませると、眉を吊り上げる。


「た、食べたけどー!! 其れは夏風の貴婦人と一緒にでしょ!!


其の前に夏風の貴婦人、翡翠の館で食べてきたじゃなーい!!」


「あれは御裾分け。日帰りで翡翠の館行って帰って来たら、一日掛かっちゃうでしょうが」


「だからって泊まって来るだなんて~~!! しかも主と蟹を食べるだなんて~~!!」


酷~い!!


酷~~い!!


半泣き顔で訴えてくる同居人に、夏風の貴婦人は「馬鹿馬鹿しい」と云う様に、


ぐびり、と麦酒を飲む。


だが蘭の貴婦人は尚も訴えてくる。


「私はね~~!! 見たかったの!! 見たかったのよっ!! 主が蟹をほじくって食べる姿を!!


きっと几帳面に残さずほじくってるのよ~~!!」


「あっそ」


大声で騒ぐ蘭の貴婦人など見もせずに、夏風の貴婦人は麦酒ジョッキを空にすると、


ベルを鳴らして更に追加を頼む。


間も無くして新しいジョッキと、蘭の貴婦人に新しいカクテルが運ばれて来、


女二人は昼間からガブガブ酒を飲んだ。


そして、どうでもいい様な会話を二人が繰り広げていると・・・・。


窓辺に純白の鳥が降りて来た。


嘴の長い美しい白鶴だ。


「あー!! 白の貴婦人の羽根だわ~~!!」


蘭の貴婦人は窓辺に駆け寄ると、窓硝子を開ける。


鶴の長い足に銀のホールが付いている。


「ね~ね~~、開けていい??」


蘭の貴婦人が振り向くと、夏風の貴婦人は麦酒を飲み乍ら頷く。


「何かな~~??」


蘭の貴婦人はホールから手紙を取り出すと、開いて見る。


と同時に、美しい白鶴は霧の様に消える。


「えっとね~~・・・・新年会に花見はどうですか?? だって」


「・・・・・」


夏風の貴婦人はジョッキを傾ける手を止めると、押し黙る。


だが其れも暫しの間。


にぃ・・・・と口の端を吊り上げる。


「花見・・・か・・・・いいねぇ・・・・」


ドン!! とジョッキをテーブルに置くと、夏風の貴婦人は勢い良くベルを鳴らした。


「はい。御呼びでしょうか??」


直ぐにメイドが現れると、夏風の貴婦人は大きな声で言う。


「ファテシナに言って!! 今直ぐ、新春の花見名所のリストを上げて持って来いって!!」


「かしこまりました」


メイドが物静かに出て行く。


ファテシナは太陽の館のメイドのチーフだ。


「何、何?? 花見?? 花見するのー?!」


顔を輝かせて駆け寄って来る蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は笑う。


「春と云えば花見よ!! 今年の新年会は花見で決定!!」


グーッ!! と拳を握る。


蘭の貴婦人も両指を絡ませると、跳び上がる。


「きゃ~!! 花見ぃ~?? やったぁ~~!! 今度こそ主の隣に座るわ!!


そして一緒に花を愛でて、愛を語り合うのよ~~!!」


はてさて・・・・新年会がどうなるかは・・・・間も無く訪れるであろう春の御楽しみである。

この御話は、まだ続きます。


異種たちの新年会は、どうなるのか・・・・御楽しみに☆


このノーマルの「ゼルシェン大陸編」を初めて読まれた方は、


一番古い作品の「夏の闘技会」から読んで貰えたら、


異種たちの事が判るかと思います☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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