第九十一話
「あの時の結界……」
「え?」
この崩れかけた棟、あの時ディルアスと二人がかりで結界を張った棟だ!
「竜の谷から帰って来て王宮に張った結界、あの結界は魔物を打ち払っていった……」
「最大結界魔法……」
「あれならサクヤの中の魔物を打ち払えないかな!?」
「……やってみる価値はあるかもな……しかし……」
「しかし?」
「あの魔法は魔力消費が激しい。万が一ダメだった場合、もう後がない」
「…………」
確かにあの時も結界を張った後、急激な疲労で動けなかった。
背中密着のディルアスは今は思い出さない!
不自然に頭をブンブンと振って、みんなに怪訝な顔された。
「と、とにかくやってみない? このまま策がないまま防御ばかりしていても埒が明かない」
『まあそうだろうな。このまま魔力が尽きてやられるだけだ』
「そうだな……やろう」
他の結界を張っている余裕はない。全ての結界を消滅させた。
ディルアスと向かい合い、両手を繋ぐ。
『その間は我らが守る、急げ!』
ルナたちが迫り来る炎に何とか対抗しようとしてくれているが、ルナたちの炎は黒い炎に打ち消されてしまう。
その度にルナたちは炎に飲まれ呻き声を上げる。
「みんな!!」
『集中しろ!』
ルナたちが気になり集中出来ていないことを、炎に飲まれながらのルナに叱責され、泣きそうになるのを必死に堪える。
ダメだ、このままだと余計に時間がかかってルナたちが死んじゃう!
集中! 急げ! 集中!
ディルアスの魔力が流れ込む。私の魔力もディルアスに流れ込むのが分かる。
一つに溶け合い一つの魔力となる。
「いくぞ」
ディルアスの声と共にお互いの中心に結界が浮かび上がる。白い光る小さな球。
その球に全ての魔力を集中していく。
『グワァァァア!!』
ルナたちの咆哮が聞こえビクッとなるが集中だ!
集中!
光る球は徐々に大きくなり、私とディルアスを包み、さらに広がり、ルナ、オブ、ゼルもその中に。
黒い炎は結界を破ろうと纏わりついてくるが、今までの結界と違って破られない。いけそうか。
味方の人たちも結界の内部に入っていき、今までずっと結界を張り続けていた魔導士たちが、呆然とへたり込んだ。
ルナたちは焼け爛れた身体を休め、蓄積治癒で治るのを待つ。
異変に気付いたのかサクヤはこちらを向いた。
今まで周りのことは全く見えていなかったのに、ついにこちらを向いたのだ。
赤黒い瞳には怒りが見え、こちらを睨む。
「ガアァァァア!!」
獣の雄叫びのような叫び声を上げると、黒い炎は地上から空まで登る、炎の壁となり巨大な波のように押し寄せた。
「ユウ、耐えろ!」
巨大な炎に包まれ結界が揺らぐ。
集中だ! 全ての魔力を注ぐんだ! 広がれ! 広がれ!
結界は炎を消滅させていき、サクヤの足元まで伸びた。
サクヤは怒りと焦りとの表情で足元の結界に炎をぶつける。
「くっ」
ディルアスと二人がかりの結界でもサクヤには抑えられてしまうのか。
全ての魔力を注いでもダメなのか……。
ダメだ、魔力が尽きてしまう……。




