第八十二話
「どうした?」
「その……目を覚まされたとき、恐らくユウ様とディルアス様のことでしょうが、どこへ行った! と激しく取り乱していたようで……」
「えっ……」
「ユウ様とディルアス様のことは王宮内部の者以外には漏れないよう箝口令を敷いているので、ユウ様たちの素性がサクヤ様に漏れる心配はないですが……」
「ですが、何だ?」
アレンは怪訝な顔をし、リシュレルさんは少し躊躇いながら言った。
「あの二人を出せ、あれは誰だ、俺は一人でも討伐出来たんだ、と暴れて、魔導士たちの手に負えなくなり私が呼ばれたのです」
「何だそれは……何を言っているんだ、そいつは……」
「ユウ様たちに助けられたのが余程気に入らなかったのでしょう。散々暴言を吐いて出て行ってしまいました」
リシュレルさんは眉間に皺を寄せ、深い溜め息を吐いた。サクヤの対応を任され大変だったんだろうな……疲れた顔をしている。
「すいません、リシュレルさんにご迷惑を……」
「いえ! ユウ様のせいではありません!」
申し訳なくなり謝るとリシュレルさんは慌てて否定した。
「そうだぞ、ユウたちのせいじゃない。現にユウたちが来なければ、勝てなかったかもしれないと魔導士たちから報告を受けている。俺たちは皆感謝している」
「う、うん、ありがとう」
笑顔を取り繕ったが、サクヤがそんなにも激怒する理由が気になる。
「サクヤは本当に勇者なんだろうか……」
アレンが呟いた。
「魔力の気配だけじゃなく、あれだけの強い雷撃は普通の人は出来ないと思うし……」
「あの時……」
ずっと黙って聞いていたディルアスが口を開いた。
「あの雷撃のとき、俺はすぐ側まで行ったが、あの時のサクヤの顔が……」
雷撃の最中、サクヤは空を見ていた。あの時? こちらからはサクヤの背中しか見えなかった。
「サクヤは笑っていた……手当たり次第に雷撃が落ちるのを眺めながら笑っていたんだ」
みんな沈黙した。誰も言葉を発しなかった。
長い沈黙の後、ようやくアレンが口を開いた。
「とにかくサクヤのことは、今まで以上に要注意だな……ユウはやはり関わるな。嫌な予感がする」
「う、うん」
恐らくここにいる全員が嫌な予感がしただろう。
サクヤ……本当に勇者だろうか……私が思い込んでしまっただけだろうか……分からなくなってしまった。
勇者じゃなかったとしたら、私は酷いことをしたのでは……勇者でなくても、魔法を教えて欲しいと言った人に対して無下に断ったからこそ、あんなに激怒しているのでは……。
また考え込んでしまったからか、ルナが人間化した。このパターン何回目!?
「ルナ! 大丈夫だから!」
そう言ってもルナは近付いて来た。ディルアスたちが呆気に取られている。
このパターンだとルナはきっと私の顔を触ったりしてくるのでは! 咄嗟に顔を伏せ、手で頬を隠した。
ルナは近付くと躊躇もなく、素早く私を抱き上げた。
「うぇぇ!?」
また変な声が出た。何度目よ、これ。
肩に上半身を乗せられ、お尻を支えられ……ディルアスと目が合った。呆然としている。アレンもリシュレルさんも苦笑している。
あぁ、恥ずかしい。
「ルナ! ルナ! 下ろして!」
言ってもルナは下ろしてくれず、さっさと歩き出した。
「ルナって意外と過保護だよな」
アレンがそう言いながら笑った。しかしそんなことに意に介さず執務室から出て行った。
「ルナ~……」
『何だ?』
「恥ずかしいから下ろしてよ……」
抱き上げられたまま部屋までの廊下をスタスタ歩かれている。誰にも会わないが恥ずかしい。
『誰もいない。大丈夫だ。考えすぎているユウが悪い』
やっぱりルナは私が考え込んでいるのを見兼ねて連れ出してくれたんだなぁ。
いつもそうだよね……ルナは私が考え込むと、考えないように仕向けてくれる。恥ずかしいことが多いけど……。
アレンに過保護と言われても仕方ないかもな、と苦笑した。
部屋に戻るとようやく下ろしてくれた。誰にも会わなくて良かった……。




