第七十六話
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侍女さんに行き先を告げ、宮廷魔導士団の演習場に行ってみた。
多くの魔導士が魔法訓練を行っている。
炎、水、氷、風、雷、攻撃系は大体知っているものばかりだった。
治癒魔法なのか、支援系魔法なのか、何だか不思議な光景が……。
魔力の流し合いのように両手を繋ぎ合っている。
何だろう?
不思議に思っていると、一人の男性に声をかけられた。
「貴殿方はもしや、陛下のご友人の方々ですか?」
丁寧に聞いて来たその男性はディルアスと同じ歳くらいだろうか、三十代半ばくらいの、藍色の髪に灰色の瞳をした精悍な顔付きの男性だった。
背も高く、ディルアスも高いほうなのに、さらに高かった。
それで……、そりゃイケメンですよ? もう慣れたよ?イケメンね、もう分かったから! この世界は美男美女だらけだから!
普通な自分が悲しくなるからもうイケメンなのはスルーしよう。うん、そうしよう。
「陛下からご友人が滞在しておられていて、いつか見学に来るかもしれないと聞いておりました。私は筆頭魔導士を務めておりますルナート・ロイアスと申します」
丁寧にお辞儀をされた。
「そうなんですね、すいません、先にお声をかけるべきでした。ユウと申します。見学させていただいても良いですか?」
「もちろんです、お好きなだけどうぞ」
にこやかに笑ったその顔は精悍なというよりも、とても優しげな顔付きだった。
「あの、質問しても良いですか?」
「何でもどうぞ?」
「あの両手を繋ぎ合っているのは何をしているんですか?」
先程から気になっていた、治癒魔法なのか、支援系魔法なのか、と疑問になっていた、あの魔法。
「あぁ、あれはですね、治癒魔法の応用編とでも言いますか……我々は蓄積治癒と言っています」
「蓄積治癒?」
「えぇ、両手から治癒魔法を流し込んで体内に蓄積させるんです。そうすると一時間程だけですが、怪我をしてもその魔力が発動し、自然に治癒するんです」
「!!」
え、何それ、凄い! 初めて聞いた!
ディルアスのほうを見ると、ディルアスも初めて聞いたのか、驚いた顔をしている。
「それ凄いですね! その魔力が効いている間は治癒を気にしなくても良いってことですもんね! 他の魔法を使える」
「えぇ、だから戦闘に入る前に余裕があれば蓄積治癒をしておくんです」
「はぁ……凄いなぁ、そんなの全然知らなかった」
「知らなくて当然です、宮廷魔導士団のオリジナルみたいなものですからね」
そういって笑った。
「昔、宮廷魔導士団に所属していた筆頭魔導士グレイブが考案したものなんです」
「グレイブ!」
ディルアスがその名前に反応した。
「グレイブをご存知ですか? 魔法の研究にとても熱心で、様々な応用魔法を編み出していたそうです。最期は魔物と戦って亡くなりましたが、未だにこの宮廷魔導士団では英雄として称えられています」
「グレイブは……昔、俺に魔法を教えてくれた人だ……」
ディルアスが小さな声で言った。
「そうなんですか! もしや、五歳~六歳くらいのときにキシュクの近くでグレイブに魔法を教わった方ですか!?」
「? あ、あぁ」
「あぁ、そうなんですね! 実は私はグレイブの孫で、貴方のことは祖父から聞いたことがあります!」
子供のときに宮廷魔導士から魔法を教わった……ディルアスの両親が魔物に襲われたときの話だな……。その時助けてくれたのがグレイブという人だったのか……。
「小さな子供なのに、とんでもない魔力の持ち主で素晴らしい才能があった、と」
ルナートさんはとても嬉しそうに話す。ディルアスも何だか懐かしそうだ。
「時間があればもっと教えていたかったのに! と、いつもぼやいてましたよ」
ルナートさんが笑って話すのに、釣られて笑ってしまった。
「あぁ、そうだ、良ければこちらにどうぞ」
ルナートさんは私の前に手を差し出した。
こ、これってエスコートってやつ!? 紳士だ! 紳士がいる!
いや、一応今までも王子様とかいたし、紳士でしょ、あれも。今まで一度エスコートなんかされたことないけど。
正しい所作が分からず、おずおずと手を伸ばし、ルナートさんの手の上にそっと重ねた。
大きく温かい手だ。いや、そこに意識を向けると緊張するからダメだ。無あるのみ!
手をそっと引かれ歩くように促される。




