第七十三話
「うーん、対人間……」
まず索敵といえば……
「自分の魔力を全方位に放出して、相手の魔力を感知するもの……だよね?」
「そうだな」
「魔力を放出して、相手の魔力とぶつかると感知出来るんだよね?」
「あぁ」
「魔物や敵意を持つ者は魔力が突出してるから分かりやすいってこと?」
「恐らくな。敵意のない人間も魔力は大体みんな持っているから、気配くらいは分かるが、魔物みたいに突出してないから分かりにくい」
突出してないから分かりにくい……。
「普通の人間は分かりにくいだけで、分からない訳じゃないんだよねぇ。ということは、逆に考えたら、特定の魔力に集中出来たら、その魔力だけを感知することも可能ってこと?」
「そうかもしれないな。それはあの勇者の魔力を知れたからこそ感知出来るかもしれないってことだな?」
「そう! どうだろ? 出来ないかな?」
「いや、出来そうだ。まず特定の魔力感知を練習してみる必要があるな」
「うん」
ルナとオブは契約魔獣だから最初から気配は分かる。ということで、まずディルアスとお互いの魔力を感じ合う練習から初めてみた。
お互い少し距離を置き、魔力に集中。
目を瞑り意識をディルアスの魔力に集中させた。ディルアスの魔力もお互い流し合ったことがあるから分かりやすい。
流し合った……あの時の恥ずかしい気持ちを色々思い出して思わず目を見開いた。
あ、ダメだ集中が切れる。
そう思っていたら、目の前にディルアスがいて、両頬を引っ張られた。
「集中してない」
「ご、ごめんなひゃい」
「プッ」
えっ?と思わず見上げたら……ディルアスが笑っていた。
「笑った……」
「え?」
「ディルアスが笑った」
大笑いな訳でも満面の笑みという訳でもないが、今までみたいに口の端で笑うだけじゃなく、ちゃんと笑顔だ……
「ディルアスの笑顔、可愛い!」
「か、可愛い!?」
「あ、ごめん、可愛いなんて失礼だよね、ごめん」
ディルアスは耳まで赤くなり横を向いた。
やっぱり可愛いんだよなぁ。でも歳上男性に可愛いは余計だったな、と反省。
ディルアスの笑顔はすぐに驚いた表情に変わってしまったが、それでも初めて見た笑顔は本当に可愛くて嬉しくなり、出会った当時に比べると表情がコロコロ変わるようになったなぁ、とクスッと笑った。
「ま、魔力感知の練習をするんだろ!?」
「あ、うん、すいません」
今度は怒ってしまった。
それも何だか可笑しくて思わず笑ってしまう。また怒られそうだからこっそりと……。
赤い顔のまま睨まれた。
こっそり笑ったのがバレた。
こんなやり取りも何だか嬉しくなってしまう。どうしても我慢出来なくて顔がにやついてしまって、さらに睨まれる、というパターン。
「フフ」
「あー、もう! 魔力感知するぞ!」
顔を赤くしたまま行ってしまった。
さて、気を取り直して集中。出来るかな、集中。
さっきまでのやり取りで注意散漫。
あー! また怒られるから! 集中!
ディルアスの魔力を探る。
ある程度感知出来るようになったら、次はお互い森に身を隠し、お互いの魔力を探す。
森の中では普段の索敵もしながらの併用での魔力感知。
これが中々に疲れる作業だ。
普段の索敵は然程負担になる魔法でもなく、どちらかと言えば無意識にも近い状態で発動していられる。
しかしそれは無作為に敵意あるものを全て感知しているからであって、意識を集中させなくても引っ掛かってくるのだ。
しかし意識して特定の魔力を感知することを併用させると、無意識で行っていた通常索敵にも意識が及ぶ。
その結果両方に意識を集中させなければならなくなり、かなりの集中力を要する作業になってしまうのだった。
無事ディルアスを発見し、ロッジまで戻ると疲労感が半端なかった。
「つ、疲れた~」
「あぁ、通常索敵との併用はかなりの負担だな」
「うん。これ何とかならないかなぁ」
ウンザリしてしまった。
「魔力感知にもう少し慣れたらマシにはなるかもしれないが……どうだろうな」
「はぁぁあ」
思い切り溜め息を吐いてしまい、ディルアスに頭を撫でられ宥められた。子供扱い……
「とりあえずもう少し練習を繰り返してみよう」
「うん……」
この日はグッタリとベッドに倒れ込み眠りに就いた。




